期待のネット新技術
柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第14回)
2019年6月11日 06:00
LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。
この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。
「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧
- 省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?
- 世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」
- おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供
- M2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージのハイエンドLPWA?
- MCT向け省電力規格「LTE Cat.M1」、国内提供は要免許で携帯電話キャリアが中心に
- 単三2本で約10年稼働の省電力規格、“NB-IoT”こと「LTE Cat.NB1」
- 2Gしか通信インフラのない地域向けのLPWA「EC-GSM-IoT」
- 1km超で通信可能な「Wi-Fi HaLow」こと「IEEE 802.11ah」
- 日本発の規格「Wi-SUN」、スマートメーター向けに展開
- メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
- 広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」
- 通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
- 20万台ものデバイスが対応、3ホップメッシュが可能な「WirelessHART」
- 柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
- バッテリーレスで動作する“超”低消費電力の「EnOcean」
- 周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」
- 4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」
- ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
- メッシュ前提の転送方式「CTF」を採用した「UNISONet」
- 最大150kbps、単三で電池寿命20年のIoTアプリ向け「Milli 5」
- 433MHz帯の利用で到達距離と低消費電力を両立した「DASH7」
- IoTはレッドオーシャン? LPWAはコストと期間での評価へ
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- LoRaやNB-IoTでカバーできないニッチメジャーを目指す ~ソナスインタビュー後編
生産現場での機器/センサー接続用途向けに規格化、米Honeywellも強力に推進
前回の「WirelessHART」と同じマーケットを狙う規格が、「ISA100.11a」である。
ISA100.11aは、1945年に設立された「ISA(International Society of Automation:国際計測制御学会)」という学会が主導する規格だ。同学会は、さまざまな産業向け技術の研究や、その標準化を行っているのだが、そのISAが2005年から手掛け始め、2009年に標準化を行っている。
ちなみに、その後一度改定されており、2011年に出た「ISA100.11a-2011」が最新のリリースとなる。2014年には「IEC62734:2014」として、国際標準規格化も果たしている。
ISA100.11aは、その名の通りISA100の一部だが、ISA100そのものは、工場などの生産現場における無線ネットワーク全体の規格である。ISA100.11aは、機器やセンサーを接続する用途向けで、工場などの生産現場のネットワークにおいて、ある意味でベースとも言える位置付けとなっている。
やや話は逸れるが、このISA100.11a(というかISA100)を強力に推進したのは米Honeywellである。巨大な企業であるHoneywellは、軍事/航空宇宙向けシステムなどで知られる一方、家庭向けのサーモスタットなども手掛けている。
そのHoneywellは、プラント制御の分野でも大手であり、前回紹介したWirelessHARTを推進する競合メーカーでもある米EmersonがWirelessHARTを前面に押し出して来た関係で、Honerywellとしても対抗できる無線接続方式が必要となり、それをISAに提案するかたちで策定したのが、ISA100というわけだ。
仕様はWirelessHARTと近いが、上位層や構成コンポーネントに違い
ISA100.11aの仕様は、以下のようにWirelessHARTと近いものがある。
- 2.4GHz帯のISM Bandを利用
- 物理層は「IEEE 802.15.4」のメッシュネットワーク
- 伝達レートは最大250kbps程度
- 想定カバーレンジは100~600m程度
- 電池駆動で、3~10年の電池寿命(通信頻度とトレードオフ)
もっとも、その目的もWirelessHARTと同じく工場などの生産現場向けで、物理層も同じ「IEEE 802.15.4」なのだから、似通ったものになるのは当然だ。ただし、上位層には異なる点がある。
ISA100.11ahのネットワークは、基本的に以下のコンポーネントから構成される。
- Non-Routing Device:End Node
センサーやアクチュエータなどを想定。工場などでの利用が前提で、基本的には「動かない」(設備などに取り付けられている)ことを念頭にしている - Handheld Device:移動を伴うEnd Node
これはISA100.11aの欠点だと個人的には思うが、例えば工場の天井に取り付けられた移動式クレーンなどは考慮されない。移動速度が徒歩程度と十分に遅ければメッシュでも対応できるが、それより高速になると対象外となる - Routing Device:同一ネットワーク内の他のDeviceからのメッセージを中継
Routing DeviceもEnd Nodeとして、自身でデータを送り出したりメッセージを受け取ったりできる - Backbone Router(R):ISA100.11aのネットワークと、Backbone Networkのルーティングを行う
- Gateway(G):ISA100.11aのネットワークとプラントネットワークの間のプロトコル変換を行う
- System Manager(M):ISA100.11aネットワークの制御を行う部分
データ収集の周期や優先度などの情報を基に、ISA100.11aネットワーク内の全Deviceにポリシー制御のための設定を行う。各Deviceにはチャネルホッピングのシーケンス、あるいはメッシュネットワークの経路情報なども提供 - Security Manager(S):ISA100.11aネットワーク内の全Deviceに対し、セキュアな動作を行うために必要な管理・制御・権限付与などを行う
面白いのは、Routing Deviceが複数あることが当初から想定されていることだ(1つのみでも動作は可能)。これは、冗長性を確保するための仕組みで、冗長性がメッシュ構成でも確保されるのは、IEEE 802.15.4の仕様からして当然だろう。そのメッシュの構成や、Routingそのものを、System Managerが管理するのも面白いところだ。
なお、徒歩以上の速度で動作するDeviceをきちんとハンドリングしない(できない?)のは、移動に伴って頻繁にメッシュへのつなぎ方が変わると、それをSystem Managerから全てのDeviceに通知するのが馬鹿にならないオーバーヘッドになるためだと思われる。
上の図において、Handheld DeviceがRouting DeviceではなくBackbone Routerに直接繋がっているのは、このあたりの負荷を軽くする(物理的な位置はともかく、トポロジーとしてはHandheld Deviceがどこに移動しても変わらない)ためと思われるが、逆に言えばHandheld DeviceはBackbone RouterとPeer-to-Peerで接続できる距離の範囲内でしか使えないことになる。
限られた方式のみサポートするWirelessHARTに対し、柔軟性や相互接続性を最大限に確保
さてISA 100.11aの特徴を、簡単ながら以下に列挙していこう。
- 信頼性確保:DSSS+Channel Hoppingでノイズ干渉と通信干渉を低減。ほかの無線規格との共存のためのChannel Black Listing、通信衝突防止のCCA(Clear Channel Assessment)などを実装
- マルチスピード:仕様の250kbpsとは別に、通信周期に関してはTDMAを利用。しかもTimeslotを可変にできるため、低更新周期から高更新周期まで幅広く対応する。さらに、TDMA以外にCDMA/CDの利用も可能。Channel HoppingでもSlow Hopping(長周期でチャネルを変更する)をサポート
- マルチプロトコル:6LoWPAN+UDPを実装。さらに上位ではObject Mapping/Tunnelingをサポート。Tunnelingを利用することで、ISA100.11a上でPROFIBUS/Foundation Fieldbus/Modbus/HARTといった産業用フィールドバスのプロトコルを通すことも可能
- 複数コントロール:Publish/Subscribe、Alart、Client/Server、Bulkなどさまざまな通信方式をサポート
競合するWirelessHARTが非常に限られた方式のみしかサポートしないことに対して、柔軟性を最大限に確保したと言っていいいだろう。
もう1つ、WirelessHARTに対してのアドバンテージとなるのが、当初からオープン性に配慮されていることだろう。つまり、相互接続性を確保することで、WirelessHARTとは違い、複数ベンダーから機器を入手しても問題なくつなぐことができるようになっているわけだ。
この相互接続性を確保しているのが「ISA100 WCI(Wireless Compliance Institute)」である。ISA100.11aの規格に準拠していることを認証するためのコンソーシアムで、認証プロセスの確立とその承認、さらにはプロモーションやトレーニングなどまでを担っている(認証テストそのものは第三者認証機関で実施)。このあたりは、Wi-Fi Allianceなどにかなり近い位置付けだ。
WirelessHART同様に工場内などに導入、国内でも通信モジュールの入手は可能
さて、国内を含め全世界で、実際に利用されているのはWirelessHARTと同じである。以下の写真は国内における導入事例だが、工場内の複数の建屋や、敷地に分散して配される各種のセンサーを、まとめて一カ所のBackbone Routerで繋いでいる様子が分かるだろう。
マーケットシェアとしてはWirelessHARTに大分水をあけられているものの、6LoWPAN/UDPがそのまま通るため、ISA100 WCIではIoT的な用途にも利用できる点をアピールしている。また国内でも、ISA100.11aモジュールを、例えば村田製作所などから入手できる点は、強みと言えるだろう。
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