期待のネット新技術

周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第16回)

 LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。

「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧

当初規格化が検討された「Weightless-N」と「Weightless-W」は普及に至らず

 「Weightless-P」は、Weightless SIGが策定したLPWA規格だ。もともとWeightless SIGは2011年9月、英Cambridge Wirelessが主催したイベントを基に発足した団体である。このイベントは主にエンジニアを対象としたものだったのだが、発表を行ったNeulLandis+GyrCable & WirelessArmの4社は、それぞれの発表を受けて思うところがあったようで、まず水面下で組織作りをスタート。2012年にWeightless SIGを公開し、LPWA規格の策定を開始した。

 ちなみにWeightless SIGでは、当初「Weightless-N」と「Weightless-W」の2種類の規格を検討していた。

  • Weightless-N
     SIGFOXに似た、単方向(デバイス→基地局)のみをサポートする通信規格。周波数帯はSub 1GHz帯のISM Bandを利用し、変調にはDBPSKを利用。周波数ホッピングを利用して、混線の防止と、周波数帯の利用効率向上を図る仕組みとなっていた。複数のネットワークを重複してサービスを提供できるような工夫も凝らされていた
  • Weightless-W
     双方向通信の規格だが、利用する周波数帯としてテレビ用周波数帯のホワイトスペースを使うことを想定していた。こちらは変調にTDDを用い、さらに周波数ホッピングと周波数拡散を併用する方式で、基地局からデバイスへの通信では、さらにTDMAの利用も想定していた。CATVやPONの方式を、LPWAに応用したような仕組みである

 この2つの方式は、検討こそされたものの、残念ながら普及するには至っていない。Weightless-Nは、Nwave Technologiesが開発した「Nwave」というLPWAをベースとしたものだ。2015年には開発キットなどもリリースされたが、先行するSIGFOXに対して十分なアドバンテージを示せなかった。結局、Nwave Technologies自身がWeightless-Nの普及をあきらめ、現在はこれを応用したスマートパーキングのソリューションを提供している。

2015年10月にWeightless SIGからリリースされたWeightless-Nの開発キット

 一方のWeightless-Wは、国によって法規制が異なる関係で利用周波数帯もバラバラだし、テレビ向け周波数帯のホワイトスペースが全ての国で解放されているわけでもないため、そもそも運用ができない国も少なくないという事情があり、こちらも実用化は難しいと判断された。

周波数利用効率の高さが特長、微弱な信号でも通信が可能な「Weightless-P」

 これらに代わって新たに策定されたのが「Weightless-P」である。こちらは台湾M2COMMが開発したプロトコルをベースにしたものなのだが、M2COMM自身は既にWeightless SIGのボードメンバーから脱退している。

 代わって、当時のM2COMM副社長で、Weightless-Pの開発に携わっていたTH Peng氏が、M2COMMを退社して興したUbiikが、引き続きWeightless-Pにアドレスするかたちとなっている。

 そのWeightless-Pは、基本はSub 1GHz帯のアンライセンスバンドを利用した双方向のLPWAだ。その特徴を以下に列挙しよう。

  • 周波数帯はISM Bandがメインで、仕様上は138/169/314/430/433/470/780/868/873/915/923MHzをサポート
  • 一次変調はFMSKとOQPSKをサポート
  • Downlink(基地局→デバイス)のチャネル幅は通常100kHz
  • Downlinkの通信速度は6.25kbps(OQPSK, Coding Factor 1/2, Spreading Factor 8)~100kbps(GMSK、Coding Factor 1, Spreading Factor 1)
  • Uplink(デバイス→基地局)のチャネル幅は12.5KHzだが、8chまとめて100KHzとして利用可能
  • Uplinkの通信速度はチャネル幅や一次変調方式によって異なり、12.5KHzでは0.625Kbps~10Kbps、100KHzでは6.25~100Kbps
  • 送信出力は、基地局が通常27dBm、デバイスが通常14dBm(いずれも仕様上は最大30dBm)
  • 到達距離は屋外で最大15kmだが、通常は都市部で2km程度、郊外で5km程度

 Downlinkの通信速度には幅があるが、100kbpsの場合のRX Signal Budgetは-106dBmながら、6.25kbpsでは-122.5dBmとなるため、信号強度がかなり弱くても通信可能な点が特徴だ。

 スペックを見るとLoRaにかなり近いが、近距離であれば最大100kbpsの通信が可能なあたりはLoRaよりもやや優れている。Weightless SIGは、この100Kbpsという速度について「FOTA(Firmware On The Air) Updateが現実的に可能な速度」としており、これを大きなメリットに掲げている。

 もう1つの利点は周波数利用効率の高さだ。1つの基地局が現実的に収容可能なデバイス数は、LoRaの10倍近くになるというシミュレーション結果もあるそうだ。ただ、逆に言えば、LoRaに対しての明確なアドバンテージはこの程度という言い方もできる。

オープン標準ながら活動企業は1社、今後の普及は不透明

 製品としては、先に出たUbiikが、基地局および基地局の開発キット、デバイス用のモジュールおよび評価キット、さらに以下のStarter Kitなどを、2017年以降にリリースしている。Ubiikには日本法人もあり、国内での普及に努めているが、このところはあまり大きな動きは見られないようだ。

基地局のStarter KitとEnd Deviceの評価キット×2で構成される「Ubiik Weightless Starter Kit」(1500米ドル)

 難しいのは、せっかくのオープン標準で、Specificationも実際にWeightless SIGから簡単に入手できるにも関わらず、今のところアクティブに活動している企業がUbiikただ1社のみに近いということだろうか。

 先ほど話の出たM2COMMは、2016年には「Ignition」というWeightless-Pの開発キットを提供していたが、Weightless SIGのボードメンバー脱退あたりから方針が変わったようで、Weightless-P関連製品のページそのものが、M2COMMのウェブサイトから既に消えている。

Weightless Ignition Pack」。構成としてはUbiikのStarter Kitとよく似ており、基地局×1、デバイス×2の構成

 Weightless-P関連のハードウェアを提供するベンダーは、現時点ではこのほかに存在しないので、まずはもう少し仲間を増やさなければ、この先が苦しそう、というのがWeightless-Pの現状と言えそうだ。

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大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/