期待のネット新技術

省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第1回)

 今週からは、LPWAのさまざまな規格について紹介していきたい。LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況である。

省電力かつ広い範囲の通信規格でありさえすれば「LPWA」

 このLPWAとは何かと言うと、その言葉の通り、省電力かつ広い範囲(屋外と規定するのは、後述する理由で難しい)で利用可能な通信規格の全体を指し示す、比較的“緩い言葉”である。LPWAという用語自体が定義されていない(というか、そんなことをする団体も人もいない)ので、具体的に「ここからここまでがLPWAで、こちらはLPWAではない」といった線引きは現実問題として難しい。

 それもあって、「これ本当にLPWA?」と思うような規格でも、その仕様に携わる当事者が「これもLPWAの1つだ」と言い張れば、「まぁそう言ってるんだし、LPWAかもね」みたいに認知されてしまうという、実に緩いものである。そんなわけで、この連載で取り上げる中には、厳密には「LPWA?」と思うようなものも含まれることになるだろう。

LTEはLPWAに含まれる? 省電力の指し示す範囲は?

 具体的に難しいのは、まず「省電力」である。どのあたりまでがLPWAの範囲に含まれるのか、という規定がそもそもない上に、その範囲に含まれるかどうか線引きが難しい規格も存在する。そのいい例がLTEだ。

 LTEは、本来携帯電話向けの規格なので、LPWAには含まれないとしても、大多数の人間の賛同は得られるだろう。ただ、賛同する人は頭の中で、3.5G/4G(LTE)/4.5G(LTE-Advanced)/5Gといった標準を想定しているはずだ。ところが、LTE規格の中には、NB-IoT(LTE Cat NB1)/LTE Cat M1/LTE Cat 0/LTE Cat 1といったものも含まれている。NB-IoTが完全にLPWAの扱いである一方、Cat M1/Cat 0/Cat 1については、その線引きが非常に難しい。

 これらの規格の違いについては、制定年度が異なるという話をおいておけば、通信速度や利用する周波数スペクトル、消費電力となる。当然だが通信速度と消費電力は相関関係にあり、どのくらいの通信速度と消費電力までがLPWAの範疇かとすると、そこに明確な定義はない。このためにCat M1/Cat 0/Cat 1の線引きが非常に難しくなるとともに、その規格がLPWAかどうかも、言ったもの勝ちの状況と言えるわけだ。

LPWAにおけるWANの範疇は?

 もう1つ、WANの面も、実は定義として難しかったりする。本来のWAN(Wide Area Network)は、非常に広帯域な、市街地を超えた領域から県内・国内・海外を含む全世界までが範疇となる。

 WANの領域の手前とされる市街地については、最近は滅多に使わなくなっているが「MAN(Metropolitan Area Network)」と言う用語がある。市街地内はこの範疇で、おおむね建物内(この話も難しく、例えばキャンパスが247ヘクタールもある九州大学のような場合に、どこまでが「建物内」なのかという議論は当然ある)がLANの範疇とされてきた。

 これに対し、LPWAにおけるWANの範疇は、実際にはLANとMANの境界に近いあたりを想定しているものが多い。これにも例外はあり、SIGFOXのようにモナコから地中海(の一部であるリグリア海)を挟んで、180km先のコルス島の信号を受信したという以下のようなレポートもある。こうなると、明らかにMANの範疇を超えているわけだ。




 逆に、日本でスマートメーターなどに利用されている「Wi-SUN」は、もともとはLPWAではないのだが、こちらをLPWA向けに拡張した「Wi-SUN FAN」は、本来、LANに近い特性のものを、トポロジーの工夫でMANに近い範囲までカバーレンジを広げて使うという方法を採っている。こうなってくると、LPWAで言うところの“Wide”は、屋外もカバーレンジにしていればOKといった雰囲気すらある。あるいは、自身ではLPWAとは名乗っていないものの、ユースケースを見るとLPWAに近いものが示されている「IP500」なども、広義にはLPWAの仲間としてもいいように思える。

Wi-SUN FANソフトウェアを搭載したハードウェア(ローム株式会社のプレスリリースより転載)

基地局あたり月20MBの低い転送速度、低コストでベンチャーが続々参入

 この話はもう1つ、バックボーンとどう繋がるかという話にも関係してくる。それこそCat NB1やCat M1などは、そもそも免許が必要な帯域を使うこともあり、基地局を設けてこことクライアントが通信する方式である。SIGFOXやLoRaWANもそうだし、RPMAもこの範疇に入る。

 ではLPWAとは、基地局とクライアントが通信する方式を指すのかというと、そんなこともない。「IEEE 802.11ah」「Wi-SUN FAN」「EnOcean Long Range」などの規格では、クライアントがアクセスポイントと通信するかたちとなっており、そのアクセスポイントとインターネットの接続形態は特に問われない。このあたり、筆者が知る限り、さすがに両対応という規格はなかったと思うが、ほぼ「何でもあり」なのだ。

 この緩さ、それとコストの低さは、参入障壁の低さに繋がる。なぜコストが安いかといえば、消費電力を下げるためには必然的に転送速度を下げる必要があり、となると基地局なりアクセスポイントの側でも扱うべきデータ量が少ないために、バックボーンの契約も安く済む。おまけに(LTE系を別にすると)原則として免許不要の帯域を利用する(ISM Bandを使うケースが非常に多い)ので、そもそもアンテナとかRFも安価なものが利用できる。

 詳しくは個別に説明しよう。例えばSIGFOXの基地局は、都心部で半径1~2km、郊外で半径5~10kmのカバーレンジを持ち、1局で1万台程度のクライアントを収容できる。この基地局1つあたりの金額は、2016年のSIGFOXにおける計画では200万円未満に過ぎない。4G以降の携帯電話の基地局が1局あたり1億円以上かかるのに比べると激安と言える。トラフィックも、何しろ基地局1つあたりは月間20MBを切っており、今ならデータ専用の格安SIMを入れた携帯電話でも済むほどでしかない。

京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)の屋内設置向け小型Sigfox基地局「Access Station Micro」

 実際には、携帯電話キャリアなどと提携し、携帯電話の基地局のアンテナの柱に一部間借りさせてもらうかたちで、こうしたSIGFOXなどの基地局を設置し、ついでに電源とインターネットのバックボーンも提供してもらうかたちが多いだろう。

 必要とされる通信量や消費電力が少ないため、キャリアへ支払う金額はそう多くないだろうし、交渉もそう難しくはないと思われる。これはベンチャー企業にとっても、それほど体力の要らないビジネスになる可能性があり、だからこそ日本だけでなく各国で、さまざまなLPWA規格のサービスに対し、ベンチャー企業がサービスプロバイダーとして手を挙げている理由でもあるだろう。

 そして、この点を理由として、毎年新しいLPWA規格が出現している。例えば2018年9月にSonyは「ELTRES」のサービスを開始している。通信技術そのものは2017年5月に発表されていたが、この時は実用化時期を含め一切が未定の状態だった。ただ、何しろ参入障壁が低いので、「今ならまだ行ける」という判断が下されたのだろうか。

 あるいは、2018年8月末に英ZiFiSenseの開発した「ZETA」というLPWA規格をプロモーションするZETAアライアンスが国内で設立されたり、2018年11月には「802.11ah推進協議会」が発足したなど、まさに今が旬というか、現時点ではまだ雨後の筍のように新規格が湧いて出てきている状態である。

IEEE 802.11ahドラフト8.0に対応した米Newracomの評価用キット「NRC7292」

 そんなわけで、現時点では規格の優劣とかを議論する以前の段階として、とりあえずある限りのLPWA(ないしLPWAN)に類する規格をまとめて紹介していきたいと思う。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/