期待のネット新技術

UNISONet 7つの特徴、今後と海外への展開は? ~ソナスインタビュー前編

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(番外編1)

 LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この 規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。

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 LPWA連載も一段落したところで、第19回で紹介した「UNISONet」について、ソナス株式会社にいろいろお伺いする機会があったので、番外編としてお送りしたい。お相手頂いたのは、同社代表取締役社長の大原壮太郎氏と、CTOの鈴木誠氏である。

ソナス株式会社代表取締役社長の大原壮太郎氏(右)と、同社CTOの鈴木誠氏(左)

会社としてのソナスの生い立ち

――基本的なところからで恐縮ですが、UNISONetの元となる同時送信フラッディング(CTF:Concurrent-Transmission Flooding)と、企業としてのソナスの関係としては、CTFを実現するために立ち上げた会社、という理解でよろしいでしょうか?

[鈴木氏] 私が所属していた東大の研究室は、2000年ころからセンサーネットワークをやっていました。そこに学部生として2004年に入りまして、大原は2007年に入ってきました。ただそのときは、私はセンサーネットワーク向け仮想マシンなどを、大原もセンサーネットワーク用マルチコアCPUの研究をしていました。私が博士号を取った2010年の翌年に、CTFの最初の論文(Efficient network flooding and time synchronization with Glossy)が出たわけですが、それを見て私は腰を抜かしたんです。

 これはすごい、今までのセンサーネットワークの前提が変わる、と。そうした中で、これを前提とした、例えば橋梁ネットワークなどの研究に着手しました。これまではセンサーネットワークと言えば、例えば10分に1回データを流すといった頻度で、バッテリーで1~2年動作するようなものでしたが、CTFを使うと、結構密にデータが取れる、と。

 それに、複雑な解析をする場合は、どうしても時刻同期が必要になるんですが、同期をしながら高精度でセンシングすることなども可能になると。とにかく、今までとは全く違うネットワークが作れるんじゃないか、ということで、2011年ころからさまざまな開発を始めました。

 そうこうしているうちに、これはもう少し世の中に広めていった方がいい、と。大原とは昔からよく知っている仲だったので、これをビジネスにしていこう、と考えました。

――起業はそこまで考えておられた?

[大原氏] 実はソナスという会社では当初、全く違うことをやっていました。それはうまく行かず一旦打ち止めにして、次にどうしようか? というタイミングで、ちょうど鈴木と再会したのです。

――で、これはひょっとするとモノになりそうだぞ、と。

[大原氏] そうですね。

UNISONetでまず振動を手掛けた理由

――ソナスでは、最初に「sonas x」というセンサーソリューションをまず手掛けられています。まずはそういうアプリケーションが必要という判断だったのか、それとも何らかのリクエストによるものなのでしょうか。

[大原氏] もともとは東大時代今のUNISONetの原型として、SIP((戦略的イノベーション創造プログラム)という国のプロジェクトに参加していました。そのプロジェクトはインフラの維持管理向けのだったのですが、その中でUNISONetとセンサーを組み合わせてソリューションとしたのが「sonas x」です。ビジネスに関して言うと、本来は無線だけで使っていただけるようにしたいですが、やはり実績がない状態だと難しいんですね。

 「ベンチャー独自の無線規格は、いきなり採用しづらい」という話になって、やはりセンサーと組み合わせてソリューションにしないと採用していただけない。在は振動系ですけれども、先々は振動のみならず、いろいろなものをつなげられるような、ハブにしていきたいです。

――振動だけにこだわる必要はないとのことですが、現在のメインは振動というのは、やはりそういうお客さんがおられたのでしょうか?

[鈴木氏] 振動のような、それなりに大きめのデータを省電力で集めることができて、同期が取れて、といったことを考えると、UNISONetはほかのLPWAと比べてずっといい規格ということがあります。

――ただ振動の場合、フロントエンドで取るのはある意味簡単だと思うのですが、それをフィルタリングして、かつ意味のあるデータにするのは、かなりのノウハウが必要ではないでしょうか?

[大原氏] 我々の中でも、まだそこまではノウハウが溜まっていないのです。ソナスでは、土木の専門家である長山先生(長山智則准教授:東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻)に顧問をお願いしています。長山先生のような方は、例えば「橋がこういうふうにおかしいときに、どこにセンサーを置いて、どういう現象を見れば、原因が分かる」という、土木の面からのノウハウをお持ちです。

 逆に、そういうノウハウを持っている方々が使うときに、同期の取れる省電力のセンサーネットワークが欲しい、となるわけです。そうしたニーズに応えて、研究者の方であったり、土木方面のコンサルティング業務を手掛ける方だったり、あるいは建設会社さんなどに、我々の製品を販売しています。

 同期を取って加速度を測るという点では、橋梁以外に工場など、さまざまな用途でもニーズがあります。現在では、そういう方面にも提案を行っています。

ソナス株式会社代表取締役社長の大原壮太郎氏

――やや一般論になりますが、振動なり加速度のデータを意味あるものにするにあたって、それを全部バックエンドに取り込むとデータ量が多くなりすぎるので、フロントエンドである程度フィルタリングしたい、というニーズがあるかと思います。ソナスさんで言えば、sonas xのウェブアプリケーションがそれにあたるものかと思うのですが

[大原氏] 実はそこは弊社(のsonas x)だけではできない部分です。他社さんとも共同で1つ1つ作っていく、というかたちになっています。

――では、現状ソナスさんのソリューションは、データを集めてクラウドに持っていくまでの、いわば足回りに特化したもので、その先はパートナーさんと共同で、というかたちということですね。

[大原氏] おっしゃる通りです。

――ネットワークに戻ると、今は振動データなわけですが、次は何を狙っておられます?

[大原氏] センサーという観点で言えば、本当にいろいろな可能性があるんですが、例えば新しいものではグローセルさんの歪みセンサーに対応した「sonas st01」を提供していますし、温度/湿度/照度(のセンサー)は昔から手掛けています。センサーに関しては、最新のいいものを、ご要望をいただければつないでいく、という感じですね。

――温度や湿度のセンサーは、競合がそもそも多いですよね。一方で工場向けでも、流量計などのいわゆるスマートメーターなどは、Industrial向けの規格とも競合します。そう考えると、確かにこれまで振動や歪みは、そこに特化したネットワークというものはこれまで見当たりません。あるとすると有線でつなぐようなものでした。ただ、この次のマーケットは、ちょっと大変なのかな、と。

[大原氏] おっしゃる通りで、振動センサーをインフラや構造物で動かすというのは、ウチの無線の特徴がピタっとはまる場所なんです。というか、ウチにしかできないというような、そういうイメージが我々の中でも強くあります。

 一方で、これからどこで勝負していくのかといえば、例えば工場の中では、やはりマルチホップが必須になってきています。そうした視点から見直せばたくさんの規格がありますが、安定してまともに動いているマルチホップというのは、あまりありません。そういう意味で戦えると思っています。

――ただ工場系では、耐Harsh性と言えばいいんですかね? そういう部分を考えないといけません。無線規格としてのUNISONetは、工場のような高電圧・高ノイズ環境に耐えるものなんでしょうか?

[鈴木氏] 耐えられるものになっていますし、競争力も高いと思います。橋梁と違い、工場では、この7つの特徴のうち、どれかが欠けても問題ないアプリケーションは多いです。ただし、例えば省電力は不要だけど時刻同期を取りたい、振動の生データを集めるためにそこそこスループットが欲しい、といった場合に、これを満たせるLPWA規格はUNISONet以外には、なかなか見当たりません。

 そういうこともあって、 下手をするとマルチホップが不要にも関わらず「UNISONetが欲しい」とおっしゃ っていただける場合もあります。やはり工場のようにそこそこ厳しい環境でも、きちんと動く無線規格というところで評価されていると考えています。

――もう具体的に工場環境でのテストなどもされていらっしゃる?

[鈴木氏] テストはもういろいろなところで。

[大原氏] 国内で、既に数十件のテストを行っております。

[鈴木氏] 今はですね、LoRaなどを使ってダメだった、というお客様からの問い合わせが多くなっていますね。

[大原氏] あとはZigBeeのマルチホップをやられていて、やはりダメだったという方がUNISONetを試されて、「足回りは同じような無線規格なのに(UNISONetだと)できるんだ」と。ZigBeeでマルチホップというのは、非常に早い、いわばパイオニアの方々だと思うのですが、そういう方々にはしっかりと刺さりますね。

――まぁ、まだLoRaは出始めで、これからですしね。

[大原氏] とは言え、現場に行くと結構かち合います。その上で、かつLoRaからの乗り換え、という事例も最近は出てきました。つまり、まずLoRaで試してみたのだけど、やや要件的に厳しいので、という感じですね。

――そういうふうにお聞きすると、UNISONetはLPWAとは言いつつ、屋内の厳しい環境には向いた規格なのですね。逆に、屋外ではどんな感じでしょう? 確か以前のテストでは、かなり遠くまで届いたという話があったかと思いますが。

[鈴木氏] 2.4GHz帯で見通し500mですね。で、サブギガ帯で2kmくらい。

――もう2kmの実証実験は実施されているんでしたっけ?

[鈴木氏] 実際にはまだ1km程度でしか試してはいません。ただ、その際の感度から言えば、2kmくらいまではいけるだろう、と。

――2kmであれば、大きめの工場でも届きますね。

[鈴木氏] ただ、工場などの環境は遮蔽物がある場合も多いので、1ホップではなく2ホップで2kmというかたちになるかな、と思います。

ソナス株式会社CTOの鈴木誠氏(左)

――そうすると、先の話に戻りますが、今後はこうしたIndustrial系ネットワークをターゲットにされる感じなんでしょうか?

[大原氏] 市場としてみるとかなり大きいので、当然やっていきたいというのはあります。今日はUNISONetのいい点をいろいろ並べていますが、我々がこの規格を普及させていくにあたって今最も重要だと考えているのはコストです。数を出さないとコストは下げられないので、そういう意味では、数を出せるようになることを目標にしています。

UNISONetのアライアンスと海外への展開

――例えばLoRaなどであれば、規格自体をオープンにしてパートナーを募り、多くの企業に作ってもらってコストを下げようというストラテジーを取っています。こうした方向性は今のところ考えておられないのでしょうか?

[大原氏] いえ、今年中にはスタートさせたい、と考えています。なかなか企業体力的な面と、品質確保というところで、これまではできていませんでしたが、ようやく1つの区切りがついたところでもありますので。

 今後はLoRaのようにアライアンスのような組織を立ち上げ、その中でエコシステムを作ると同時に、規格も、最新情報も出していくといったかたちを考えています。そこで我々だけしかモジュールを提供していなければ、おそらく誰にも使っていただけないので、他社さんにもモジュールを手掛けていただけるようになることを考えています。

――海外展開は、今のところソナスさんとしては全くないのでしょうか。

[大原氏] いや、やります。やりたいと思っています。ただ、企業体力との兼ね合いにもなるわけで、自社だけでは厳しい面もあります。今年我々だけでやるというのは、トライアルとして、使えるかたちに持っていくところまで、日本で言えば技適に相当するものを海外で取得し、ユーザーさんにトライアルとして使っていただくところまでを、まずは想定しています。

――FCCやCEを取得するだけでも、結構なコストがかかりますよね?

[大原氏] おそらく数百万のオーダーです。

――今はソナスさんが自身でモジュールを作られているわけではなく設計だけで、製造はどこかに委託されておられる?

[大原氏] モジュールは、デザインまでは社内です。

――話を戻しますが、海外展開はどういった業種などを想定されておられるのでしょうか?

[大原氏] 我々がノウハウを持っているのは、やはりインフラ系や構造物なので、最初はそうしたところからです。そこで使っていただくことで英語圏での実績を重ねて、そこから広げていくようなことをイメージしています。

――もう具体的にパートナーさんなどが、ある程度いらっしゃるのでしょうか?

[大原氏] 販売パートナーという意味で言えば、まだ検討に至っていませんが、まずはすでに我々とつながりのある方々から、というかたちになるかと思います。

――そういう話を伺うと、海外にはEricssonやGE、Siemensなど、LPWAに強い大手企業が数多くあります。そういうところに話を持っていくと「じゃあ買収しましょう」という話になりそうな気もします(笑)。会社の在り方として、それはそれでアリだとは思うのですが、そうした可能性を含めて、どういった方向性を考えておられるのでしょうか?

[大原氏] まず我々の念頭には、UNISONet自体が広く使われることが最終的な目標としてあります。その方向性に反しないことであればやっていく、という方針です。

[鈴木氏] ただ、1社に買収される、ということだと、やや方向性が違うのかもしれません。買収の結果として、UNISONetがその会社のものになってしまうというのは、あまり好ましいとは思えません。

[大原氏] 買収される企業が、あくまでUNISONetを展開していくためのパートナーとして、我々を抱え込んでくれるというのであれば(笑)、可能性がないわけではないのかもしれませんね。

――もう1つ気になるのが、LTE系のIoT規格です。例えば工場の中でプライベートネットワークを使いたい、ということであれば、それこそUNISONetでも問題はないわけです。ただ、広大なエリアが想定される場所では、そのバックボーンを設置する手間や、運用に掛かる費用が馬鹿になりません。LTE系の規格なら、通信キャリアがバックボーンを用意してくれるので、手間が省けます。さらに、この製品を世界中に販売したいという場合には、いちいち客先にアクセスポイントをインストールして回れません。そうしたときに「LTE系+ローミングの方が便利だよね」という話も聞きます。そうした点で、今後はLTE系規格と競合していくのかな? という気もするのですが。

[大原氏] いろいろと差別化というか住み分けのポイントはあると思っています。そういう中で、淘汰されていくというか、場所や用途に応じて、適材適所というか適した規格というかたちに収れんしていくと考えています。そのときの観点としては、消費電力とコストの2つがあるかと思います。

 消費電力という点では、競合製品がUNISONetと同じになることはまずありません。一方のコストという観点では、1つ1つのモジュールに運用コストかかってくると「高い」というアプリケーションはやはり出てくると思います。そのあたりに応じてすみ分けていくかたちになるでしょう。

――ただ、そうするとUNISONetのモジュールが本当に安くならないと競合できないですね?

[大原氏] おっしゃる通りです。そこはしっかり下げていかないといけない。今はNB-IoTだと1000円程度でモジュールが作れます。我々もその程度まではやっていかないといけない。

[鈴木氏] 料金を考えると、LTE系はバイト単価では結構高かったりするんですよね。そういった辺りも訴求ポイントになるでしょう。

――ただ、オペレーターフリーで使えるのか?となったときに「UNISONetはオペレーターが必要です」となると、バイト単価が高くとも、LTE系はオペレーションをキャリアが担ってくれるとなれば、それはそれで魅力ですよね?

[大原氏] 我々はまだ、競合した際の価格競争に関して、そこまでは見えていません。まだLTE系のサービスも始まったばかりですし、そのあたりは様子を見ながら、という感じになりますね。

――ちなみに、今年のうちに海外展開をスタートさせたいと仰ってましたが、ある程度のプレセンスを海外で出せるようになるまで、どの程度の期間がかかると予想しておられますか?

[大原氏] まずは日本でもっとプレゼンスを出したいですね。

――では日本ではいつぐらいにプレセンスを出せるようになるご予定ですか?

[大原氏] これは資金面にも絡んでいるのですが、今のところ国内では自社だけでやるよりパートナー制度に取り組んでいく必要があると考えています。それによって今から2年後には、ある程度のプレセンスが出せるようにしたい、と。

 弊社はスタートアップですが、2年後あたりまでに、会社としてある程度堅実に成り立つ状態にし、投資家にアピールして資金を入れる、パートナーともしっかり組んで、という計画です。

――その頃にはスタートアップから脱して、大企業とは言わないまでも普通の企業になることを目指す、と。

[大原氏] そうですね。

――現実問題としてその時にはソナスさんは単独でやっていける状態になっているのでしょうか?

[大原氏] 2年後のタイミングには市場も見えていて、黒字化もちょっとづつ見えてきている、といった状態にしたいですね。

後編へ続く

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大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/