期待のネット新技術
おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供 PHYとMACが規定され、Classは3種類
【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第3回)
2019年3月19日 06:00
LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。
この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。
「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧
- 省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?
- 世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」
- おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供
- M2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージのハイエンドLPWA?
- MCT向け省電力規格「LTE Cat.M1」、国内提供は要免許で携帯電話キャリアが中心に
- 単三2本で約10年稼働の省電力規格、“NB-IoT”こと「LTE Cat.NB1」
- 2Gしか通信インフラのない地域向けのLPWA「EC-GSM-IoT」
- 1km超で通信可能な「Wi-Fi HaLow」こと「IEEE 802.11ah」
- 日本発の規格「Wi-SUN」、スマートメーター向けに展開
- メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
- 広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」
- 通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
- 20万台ものデバイスが対応、3ホップメッシュが可能な「WirelessHART」
- 柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
- バッテリーレスで動作する“超”低消費電力の「EnOcean」
- 周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」
- 4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」
- ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
- メッシュ前提の転送方式「CTF」を採用した「UNISONet」
- 最大150kbps、単三で電池寿命20年のIoTアプリ向け「Milli 5」
- 433MHz帯の利用で到達距離と低消費電力を両立した「DASH7」
- IoTはレッドオーシャン? LPWAはコストと期間での評価へ
- UNISONet 7つの特徴、今後と海外への展開は?~ソナスインタビュー前編
- LoRaやNB-IoTでカバーできないニッチメジャーを目指す ~ソナスインタビュー後編
SigFoxの対抗馬「LoRa」の特徴は?
SigFoxの対抗馬として、こちらも普及しているものに「LoRa」(または「LoRaWAN」)がある。LoRaはLong Rangeの略で、元々はフランスのCycleoという会社が開発した技術だが、同社は2012年、米Semtechに買収される。
この買収で、Cycleoの持っていたプロトコルをはじめとするLoRaの通信技術は、全てSemtechの傘下に入った。だが、Semtechは、LoRaに関連してCycleoが取得した特許も含め、全てをオープン化する決断を行い、2015年にLoRa Allianceを立ち上げる。
LoRa Allianceは、非営利の業界団体として設立され、創立メンバーはSemtech以外にBelgacom、Bouygues Telecom、Cisco、IBM、KPN、MicroChip、Orange、Singtel、Swisscomなどが名前を連ねた。現時点でAllianceのメンバーとして登録されているのは、教育機関を含め428団体と、結構な規模だ。
それでは、そのLoRaの特徴を挙げていこう。
LoRaで規定されているのはPHYとMACのみ
LoRaで規定されているのはPHYとMACのみとなるが、PHYは「LoRa Modulation」から下の部分で、その上にクラス(後述)別にMAC層が定められている。その上層はアプリケーションで直接ハンドリングするかたちとなる。
国別に定義されたISM Bandの周波数帯を利用
利用する周波数帯はISM Bandで、具体的には「LoRaWAN Regional Parameters」という仕様書の中で国別に定義されている。日本の場合はAS923MHz ISM Bandが利用されることになっている。
変調方式はCSS Modulationベースの独自スペクトル拡散
変調方式は「CSS(Chirp Spread Spectrum)Modulation」と呼ばれる方式をベースにした独自のスペクトル拡散変調方式を利用している。ただし、データレートは利用できる周波数帯によって、かなり差がある。
それもあって、LoRa Allianceでは転送レートを0.3~50kbpsとしている。ちなみに仕様上は、Bluetoothなどでも使われている位相連続FSK(GFSK:Gaussian filtered Frequency Shift Keying)の利用も可能で、この場合だと最大で100kbpsの通信が可能だ。
ここまではあくまでも技術的な話であり、実際は各国の法規制などに影響される。また、実際の転送速度は、データ転送速度を上げると必然的に送信時の消費電力も上昇するため、かなり抑えられている。このあたりは、LoRaのプロバイダーと、運用するアプリケーションの要件に依存してくることになる。
なお、ダイナミックに転送レートを変化させる「ADR(Adaptive Data Rate)」の仕組みも用意されていて、これを利用すれば転送速度と消費電力のバランスを取ることもできる。
カバーレンジはおおむね10km
カバーレンジはおおむね10kmほどだが、LoRaモジュールを提供している村田製作所のFAQ「LoRa Module FAQ」(英文)によれば、「一般に10km以上、15km~20kmとされており、『通常10km』とお答えしている。ただし、実際に我々が屋内で試した結果では、現時点での到達距離は最大7kmだった。このため、実際にはさらに到達距離は伸びるはずである」とされている。
実際、LoRaの利用シーンは屋内というよりも屋外なので、おおむね10km程度のカバーレンジを持つと考えられる。
MAC層はClass A~Cの3種類
MAC層は、Class A~Cという3種類のClassを持ち、例えば農業向けなら、Class Aは気温や湿度のセンサー、Class Bは温室の窓の開閉管理、Class Cは害獣の防犯センサーなどに使えるかたちになるだろう。
このうちClass Aは、センサーノードなどバッテリーで動作するエンドデバイス向けのClassで、1回の送信スロットと、その後に短い2つの受信スロットを組み合わせたものだ。送受信のタイミングは時間軸の乱数ベースで決定される仕組みとなっている。ちなみに、受信はあくまで送信の直後のみに設定されており、常時受信を行うような動作は考慮されていない。
Class Bは、バッテリー動作を想定しつつ、リモートからの制御などにも対応したものだ。Class Aと同様に乱数ベースでの送信と、これに伴う受信を行うほか、3つのクラスの図では、Class Bに"Slotted comunications synchronized with a beacon"という文言があるように、定期的な受信が可能だ。ゲートウェイなどから時間同期のビーコンも受信可能で、これを利用すれば、反応時間はともかくサーバーとインタラクティブな送受信が行える。
そして、Class Cは、"Devices which can afford to listen continuously"と画像にもあるように、送信時以外は常に受信することを許すモデルだ。こちらは反応時間を最小に抑えたいようなデバイス用途向けとなっている。
なお、MAC層では、ネットワーク識別のための「NwkSKey」(64bit EUI)、アプリケーション識別のための「AppSKey」(64bit EUI)、デバイス識別のための「DevAddr」(128bit EUI)の3つが用意されており、これらを利用してエンドデバイスのアクティベーションなどが可能になっている。
また、最初にも触れた通り、MAC層には「MAC Frame Payload Encryption」が用意されており、NwkSKeyやAppSKeyを利用することで、ペイロードのAES128暗号化が可能だ。これにより、MAC層以上で通信の安全性を高められるとされている。
LoRaの国内外における普及状況
このLoRaなのだが、LoRa Allianceが結成されて以後は急速に普及を始めている。現在51カ国で100の事業者がLoRaのサービスを提供しており、プライベートなサービスを含めれば、100カ国で利用できるとしている。
日本では現在、NTTドコモ、ソフトバンク、The Things Network Foundation、SenseWayの4社がサービスを提供中だ。
このうちThe Things Network Foundationは、国内の基地局が25と、今のところそれほど規模は大きくない一方、全世界で利用できる点がメリットとなる。残る3社のカバー範囲は日本全土だが、当然完璧にすべてのエリアをカバーするのは不可能だ。このため、例えばSenseWayでは、基地局対応エリア外に対してゲートウェイをレンタルするといった対応を行っている。
LoRaの国内における提供価格
価格に関しては、LoRa Allianceとしては「サービスプロバイダーとの直接交渉」とはしているが、そう高くない。
例えば、SenseWayでは価格表を公開している。このうち、最も安価な2時間おきに1日12回の接続するケースでは、月額30円(税別)でしかない。さすがに5秒間隔では、1日の接続回数が1万7280回にもなるが、月額は1000円(税別)だ。
Class Cデバイスの例として、先に防犯センサーを挙げたが、これでもせいぜい1分間隔で十分だし、その場合も1日1440回の接続で400円(税別)でしかない。
対応する製品も多い。LoRa Allianceでは認証プログラムをスタートしているが、認証を受けた製品は現時点で142製品ほどだ。MCUベンダーで言えば、STMicroelectronics、Microchip、Cypress、Renesasなどから、LoRaのRFを搭載したMCUやモジュールが出荷されているし、モジュールだけであれば、村田製作所やロームなども手掛けていて、国内でも入手は容易だ。
SigFoxとの違いを挙げれば、通信の頻度と通信方式以外に、サービスの提供形態が異なることだろう。SigFoxの場合、自分で基地局を立てて使うことは不可能で、プロバイダー(日本であればKCCS)と契約するしかない。
LoRaの場合は、ゲートウェイを用意すれば通信ができるので、例えば工場内のセンサーをLoRaで繋ぎたいという場合に、数カ所分のゲートウェイを調達すれば、通信プロバイダと契約しなくてもネットワークを構築できる。
一方で、SigFoxで提供されているウェブサービスにあたるものは、LoRaでは標準では提供されない。サービスプロバイダーがウェブサービスを提供する場合もあるが、それは独自のものとなる。これを逆手にとって独自のサービスを提供している、例えばSORACOMプラットフォームのようなものや、オープンソースの「LoRa Server」も存在するので、ある意味、選択肢が増えているという見方もできる。
2018年11月には日本LoRaアライアンス普及開発推進協会も設立されており、こちらも今後、さらに活発に普及に向けて展開していくものと思われる。
【お詫びと訂正 11:43】
記事初出時、SenseWayが提供する接続サービスの価格に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
誤:さすがに5秒間隔の接続は月額1万7280円(税別)と高くなるが、ここまでの頻度が必要なケースは、もうLoRa以外の接続を考えてもいいように思われる。
Class Cデバイスの例として、先に防犯センサーを挙げたが、これでもせいぜい1分間隔で十分だし、その場合は月額1440円(税別)でしかない。これなら比較的現実的だろう。
正:さすがに5秒間隔では、1日の接続回数が1万7280回にもなるが、月額は1000円(税別)だ。
Class Cデバイスの例として、先に防犯センサーを挙げたが、これでもせいぜい1分間隔で十分だし、その場合も1日1440回の接続で400円(税別)でしかない。
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