期待のネット新技術

広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第11回)

 LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。

On-Ramp Wirelessが開発した「RPMA」元は変調方式を含む通信方式の技術的な名称

 今週紹介するのは「RPMA」だ。Random Phase Multiple Accessの略で、通信方式というよりは、変調方式を含む通信方式の技術的な名称とした方が正確だとは思うが、このRPMAという呼び名で一般的に通用してしまっている(というか、この変調方式を使う通信規格がほかに存在しない)こともあり、現在もこの呼び名“RPMA”として広く知られている。

 RPMAは、もともとSan Diegoで創業されたOn-Ramp Wirelessが開発したものであり、当初は旧社名である「On-Ramp」の名で知られていたこともある。そのOn-Ramp Wirelessは当時、38の事業者に対してプライベートなLPWAネットワークを提供していた。

 しかし、2016年に方針を転換。プライベートネットワークだけでなく、パブリックネットワーク向けにもサービスを提供することを決め、そのタイミングで社名もIngenu(アンジェヌ)へ変更している。

2.4GHz帯を利用し、1アクセスポイントで768平方kmをカバー、単三1本で10年以上の低消費電力

 ではそのRPMAはどんなものか? という疑問が湧くわけだが、核となる部分は、当時On-Rampが32の特許を取得して固めており、一般公開はされていない。ただ、その特徴については、以下のように説明されている。

  • 利用周波数は2.4GHz帯のISMバンド。このため、利用にあたって免許を取得する必要ない
  • 変調方式の詳細などは不明。ただ、送信時にフレームサイズを超えない程度の時間、ランダムに遅延を入れた後で送信を行う。またSpreading/interleave/ビタビアルゴリズムを利用した畳み込みと、CRCを利用したエラーチェックが行われることが明らかにされている
  • 国によっても異なるが、米国やオーストラリアでは、1アクセスポイント(基地局)で300平方マイル(768平方km)[*1]を、そのほかの国でも、1アクセスポイントで33平方マイル(84.5平方km)と、広大なエリアをカバーできる
  • 1アクセスポイントで、複数デバイスからのデータを最大で1万9000bps/MHzのスループットで受信できる。これはLPWA規格と比べて54倍ほどと、相対的に大きなスループットになる
  • 個々のデバイスにおける転送速度は、アップロード31Kbps/ダウンロード15.6Kbps程度で、さほど高速ではないが、IoTデバイス向けには十分な帯域が用意される
  • チャネル幅は1MHz単位だが、どの程度の帯域を利用するかは事業者ごとに選択できる。理論上は80MHzの帯域を利用して40チャネルの同時利用が可能だが、広帯域化は消費電力増に繋がり、当然トレードオフとなる
  • 1アクセスポイントあたり、数万台のデバイスを収容できる。複数のアクセスポイントを利用する(とともに、チャネル数を最大まで増やす)ことで、最大で100億台オーダーのデバイスを接続可能

[*1]……以前のWhite Paperによれば176平方マイルという話であったが、最新のWhite Paperでは300平方マイルになっている

 上記の特徴のうち、スループットについては、1つのアクセスポイントは、1時間に最大53万5117メッセージの処理が可能(アメリカおよびオーストラリアにおける理論値)とされ、同条件だとSigFoxは523、LoRaは2645とされていた。

 ちなみに双方向通信もサポートしており、同条件下で、アクセスポイントあたり1時間に28万8000メッセージ時の処理能力があるとされていた。

 また、消費電力については、 低速な分、デバイス個々の電池寿命は長く、単三電池1本で10年以上が可能とされている。

 事例で言えば、San Diego Gas & Electric'sの場合、4100平方マイルの地域を2402MHzの1MHzだけでカバーしているそうで、アクセスポイント同士が十分に離れているか、デバイスの密度がそれほど高くない場合には、少ないチャネルで広大な面積をカバーできる。しかし、デバイスの密度が高いか、アクセスポイント同士が近接している場合には、チャネル数を増やすことで同時通信能力を高められるというわけだ。

もちろん通信頻度によってバッテリー寿命は大きく変わるが、通信量が24時間あたり200KB以下なら、21.8年もの電池寿命があるとされる。出典はIngenuの"LONGER BATTERY LIFE"

 このRPMAとCellular(CDMAないしLTE)、それとUltranarrowband(恐らくはLoRaあたりではないかと思う)の特徴を比較したのが以下の表だ。RPMAはLink Budgetが非常に大きいが、主に受信感度が142dBmで、アンテナゲインも17dBmとこれまた大きいことが主要因と思われる。ここから、より広大なカバーエリアをサポートできる、というのがIngenuの主張だ。

LTEはLTE Cat.NB1やCat.M1などではなく、Cat.3以上を想定している模様。出典はIngenuの"HOW RPMA WORKS"

 このアンテナ感度について言えば、より低い900MHz帯あるいは868MHz帯に比べ、2.4GHz帯の方が法律の規制などがない分、アンテナ利得を上げられるとしており、特に米国の場合は、追加のセクター化などを利用することで、EIPR(実効輻射電力)を36dBm以上(44dBm近くまで)引き上げられる、としている。

 Link Budgetが大きければ、長距離まで到達させることは難しくないわけで、2.4GHz帯を利用するにも関わらず、ISM Bandの規格以上にカバレッジ範囲を広げられるという仕組みだ。

RPMAのカバーする用途と、国内外での展開

 RPMAは独自規格ということもあり、以前はIngenu(やOn-Ramp)が自社でRFモジュールを提供するのみだった。ところが、現在ではIngenu以外からもRFモジュールが5製品提供されている。また、モジュールを搭載したさまざまな用途(農業/資産追跡/オイル&ガス/医療/スマートシティ/スマートグリッド/スマートメーター)向けの製品が広く提供されるだけでなく、これを利用した上位アプリケーションや、IoTプラットフォームなどもサードパーティーから提供され、確実にエコシステムが構築されつつある。

 加えて、冒頭に書いたように、現在同社ではパブリックネットワークの構築も手掛けている。現時点では以下のように米国のみで、絶対的な拠点数としては大したことがない、という言い方もできるが、何しろ1アクセスポイントあたりのカバー範囲が、ほかのLPWAに比べて広い(300平方マイルということは単純計算で27km四方だから、実際には半径16~17lmの円に近い)分、基地局数は抑えられるわけだ。

緑のエリアがカバレッジ範囲。原稿執筆時点での米国内の運用中の拠点は42カ所、部分的なカバレッジを提供している拠点が4カ所、近日提供開始を予定している拠点が20カ所となっている

 例えば、テキサス州オースチンの場合、カバーすべき924平方マイルほどのエリアで、人口の97%をカバーできる。ちなみに人口そのものは99万3640人で、平方マイルあたりの人口密度は2115人だ、この広さと人口をカバーするのに必要なアクセスポイントの数は、たった8つだという。

 もちろんこれはInguneのアクセスポイントを利用する場合の話で、自分でアクセスポイントを設置しても構わない。Inguneはカバレッジがある場所であれば、「Devkit」を使ってすぐ開発ができるとした上で、カバレッジがない場所では、アクセスポイントとDevKit×2をパッケージにした「Exploration Kit」を用意している。

 これを用いれば、アクセスポイントに接続するインターネット回線だけを用意すれば、自分でRPMAのカバレッジを用意できることになる。実際に国内でも、2016年頃に長谷工アネシスの提供していた高圧一括受電サービスで、RPMAが利用されていた。

 このケースでは、マンションの中にアクセスポイントが設置されるとともに、各家庭にRPMA搭載のスマートメーターを設置。30分間隔で各家庭の消費電力をモニタリングするというものだ。ただ、長谷工アネシスは同サービスを2018年7月にNext Powerへ事業継承してしまっており、現時点で利用されているかどうかは定かではない。よほど大規模・高層なマンションでない限りは1つのアクセスポイントでカバーできるので、同様のニーズは今後も増えていくだろう。

 さらに、2015年の事例で言えば、WellAwareという油田管理会社が、自社の管理する多数の油田のモニタリング装置をネットワーク化したものがある。この際、既存の携帯電話のネットワークカバレッジ外のケースがあまりに多かったが、900MHz帯でカバーしようとすると初期投資が、衛星通信ではオペレーションコストがそれぞれ高くなりすぎるため、RPMAを採用したのだという。このように、非常に広範囲のカバレッジが必要な場合にコストパフォーマンスに優れた方式として、RPMAは今後も利用されていきそうだ。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/