期待のネット新技術
ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第18回)
2019年7月9日 06:00
LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。
この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。
「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧
- 省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?
- 世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」
- おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供
- M2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージのハイエンドLPWA?
- MCT向け省電力規格「LTE Cat.M1」、国内提供は要免許で携帯電話キャリアが中心に
- 単三2本で約10年稼働の省電力規格、“NB-IoT”こと「LTE Cat.NB1」
- 2Gしか通信インフラのない地域向けのLPWA「EC-GSM-IoT」
- 1km超で通信可能な「Wi-Fi HaLow」こと「IEEE 802.11ah」
- 日本発の規格「Wi-SUN」、スマートメーター向けに展開
- メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
- 広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」
- 通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
- 20万台ものデバイスが対応、3ホップメッシュが可能な「WirelessHART」
- 柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
- バッテリーレスで動作する“超”低消費電力の「EnOcean」
- 周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」
- 4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」
- ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
- メッシュ前提の転送方式「CTF」を採用した「UNISONet」
- 最大150kbps、単三で電池寿命20年のIoTアプリ向け「Milli 5」
- 433MHz帯の利用で到達距離と低消費電力を両立した「DASH7」
- IoTはレッドオーシャン? LPWAはコストと期間での評価へ
- UNISONet 7つの特徴、今後と海外への展開は?~ソナスインタビュー前編
- LoRaやNB-IoTでカバーできないニッチメジャーを目指す ~ソナスインタビュー後編
ソニーが開発した「ELTRES」、2019年5月に正式サービス開始へ
今回紹介するのは、ソニーの「ELTRES」だ。まだ正式サービスこそスタートしていないものの、プレサービスは2018年9月28日に開始されている。2019年5月28日にはパートナープログラムの受付開始とともに、通信モジュールも発表しており、9月に予定されている正式サービス開始に向けて、準備に余念がない。
もともとELTRESは、ソニーセミコンダクタソリューションズが2017年4月に発表した、「独自の低消費電力広域(LPWA)ネットワーク技術」を元にしている。このときに仕様とされたのは、以下のようなものだ。
- 通信はデバイスから基地局への片方向送信のみ(双方向通信は検討中)
- 到達距離は、障害物がない場合で100km以上
- 時速100kmでの移動中の通信も可能
- 利用周波数帯はISM Bandの920.6MHz~928.0MHz。これを38に分割したうち1つのチャンネルを利用
- 信号出力(空中線電力)は20mW
- 0.4秒間に複数送信される信号の波形を合成して高感度(-142dBm)を実現
- 実転送レートは80bps
- 主変調方式にはπ/2シフトBPSKを、副変調方式には線形チャープ変調(オプション)を利用
- 内蔵GPSモジュールの信号から正確な時刻を取得し、送受信のタイミングを補正
- 誤り訂正にはLDPCを採用
- 電池寿命は位置データを1日1回の頻度で送信した場合、CR2477相当のコイン電池で約10年
ちなみに送信電波は、「ARIB STD T-108」(920MHz帯テレメーター用、テレコントロール用およびデータ伝送用無線設備)に準拠している。
また、新たな誤り訂正技術を開発するとともに、伝送路を推定するためのパイロット信号を埋め込んで送信する手法も採用している。このほか、テレビなどに利用される、高ダイナミックレンジを持ち相互変調歪に強いチューナーを搭載して、混信などへの耐性を高める工夫を凝らしているという。
274kmの到達距離、時速40kmでの移動中も通信可能
同社はこの技術を、2017年5月に開催された「IoT/M2M展【春】」で展示するとともに、2017年度から各地で実証実験を繰り返していた。
ちなみに実証実験では、富士山の5合目に設置した基地局で、274km離れた奈良県の日出ヶ岳から送信したデータを受信できたとのことだ。また、ナイタイ高原牧場(北海道)に設置した基地局では、十勝平野ほぼ全域(半径50km)をカバー可能で、実測では85km離れた場所からの受信も可能だったなどの実績が示されている。さらに、時速40km程度で走行中の車内から安定して通信が行えた。さらに、時速100kmでも、さすがに安定はしなかったが通信はできたとの話も出ている。
ETSIで標準規格化、Mode Aに加えB/Cの通信モードを追加
2017年の時点では、事業化の具体的なプランなどは明らかにされていなかったのだが、2018年9月、この技術を「ELTRES」と名付けて3カ月間のプレサービスを開始すること、およびETSIにおいて標準規格化されたことが明らかにされた。
ちなみに、そのETSIの標準規格は、「ETSI TS(Technical Specification) 103 357 V1.1.1(PDF)」に収録されている。ETSI TS 103 357は"Short Range Devices;Low Throughput Networks (LTN); Protocols for radio interface A"をまとめたもので、この第5章の「four family」がELTRESに相当する。
基本的には2017年4月に発表された内容と同じだが、通信モードが3種類になっている点が目を引く。おそらく「Mode A」が2017年4月時点のもので、160kHzのチャネル幅、送信時間は393.2ms程度とされている。このほかに50.8kHz幅で送信時間189.4msの「Mode B」、101.6kHz幅で送信時間94.7msの「Mode C」が追加されている。
このあたりは、フィールドテストの中で追加や変更がなされた部分だろう。またETSI TS 103 357はあくまでもRadio Interfaceの定義で、実際、PHY層とMAC層の定義しかなされていない。このため、プロトコル層に関しては、引き続き不明なままとなっている。
話を戻すと、2018年9月から3カ月間実施されたプレサービスで提供された専用端末は、3分間隔で送信を行う仕様のためか、単3電池2本の寿命が約6日と恐ろしく短いものだった。もっとも、先に挙げた「1日1回の送信で約10年」というのは、CR2477の公称容量である1000mAhで、およそ3650回の送信が可能ということであり、送信1回あたりだと0.274mAhほどになる。
3分ごとの送信ということは、1日では480回、6日で2880回となる。マンガン乾電池の場合、単32本の公称容量は2000mAhなので、送信1回あたりの消費電力は0.694mAhとなり、想定数値の倍以上ではある。ただし、プロトタイプで、送信以外にGPSによる位置情報の取得機能なども含まれるため、この程度の差は許容範囲だろう。
5月に登場した専用通信モジュールでは、もう少し消費電力が下がっているかもしれないが、スペックには詳細が記載されていない。
パブリック/プライベート双方のネットワーク形態で、2020年前半には全国展開へ?
そのELTRESは、どのようなかたちのサービスになるのだろうか。総務省の平成30年度情報通信審議会情報通信技術分科会IPネットワーク設備委員会(第35回)において、ソニーネットワークコミュニケーションズが出した資料(PDF)によれば、Sigfoxなどと同じく、基地局を設置したソニーネットワークコミュニケーションズと契約して利用するパブリックネットワークと、ユーザーが独自に基地局を設置して利用できるプライベートネットワーク双方の形態が考慮されているようだ。
ただ、プライベートネットワークに関しては、どのくらいの密度、あるいはカバレッジを想定して基地局サービスを開始するのかが現時点では分からない。これは、1つの基地局でどのくらいのデバイスを収容できるかにもかかわるので、事業性がどの程度あるかの判断は難しいところだ。なお、2020年前半中には全国展開を目指したい、という意向は一応表明されている。
これに比べ、プライベートネットワークの方はイメージしやすい。1基地局あたりの収容デバイス数などの情報は欲しいものの、先のナイタイ高原牧場のようなケースで、牛や羊にタグを付けてトラッキングするようなケースは、プライベートネットワークのモデルとしては最適だろう。
ただ、もう1つはっきりとしない点は、「では障害物があるとどうか?」というあたりだ。ナイタイ高原牧場は標高800mに位置しており、地図で見ると確かに牧場全体(1700haもあるそうだ)に障害物は見当たらず、通信が可能なようだ。
しかし、例えばエリア内に林や森があったり、建物があるといったケースで、カバレッジに穴が開かないのか? あるいは都市部とまでは言わなくとも地方の主要街道沿いなどで、それなりの高さの建物が立っていたりする場合にも通信に支障はないのか? といった情報は、今のところ明らかになっていない。
中部電力は2017年5月に、愛知県豊田市全域を対象にELTRES(当時の表現ではソニーのLPWA)を利用した電柱の高度利用に関する実証実験を開始すると発表したが、こちらの実験結果は、筆者が調べた限りでは公開されていない。このあたりの情報が出てくれば、ELTRESの現実性がもう少し見極めが付きそうである。
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