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IoTはレッドオーシャン? LPWAはソリューションとしてのコストと期間での評価へ

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第22回)

 LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。

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特定キャリア以外は「広く浅く」がLPWAへのアプローチの基本に

 前回までで、20種類ほどのLPWAを紹介したが、最後に今後の展開の予測などをしつつ、LPWA編の総括としたい。

 2018年から2019年にかけ、主に国外のさまざまな展示会を回った限りで言えば、特定のキャリアを除くと「広く浅く」というのが、LPWAに対するアプローチの基本になっているように思われる。

 この「広く浅く」とは、自社でイニシアチブを取って「この規格1本で進める」というアプローチを取るメーカーが少なく、「顧客のニーズに合わせ、LoRaでもSigFoxでも、NB-IoTでも(モジュールさえあれば)何でも対応できます」という姿勢のメーカーが圧倒的に多かったということだ。

 これは主にソリューションベンダー(さまざまなエンドデバイスとゲートウェイを提供するとともに、顧客のニーズに合わせたカスタマイズを手掛けるベンダー)には共通の態度で、具体的には以下のどちらか、あるいは両方をサポートするというものだ。

  1. 自社のデバイスとゲートウェイの間はそれぞれの方法(Wi-Fi、BLE、ZigBeeなど……。中にはOPC-UAなんてベンダーも台湾では見かけた)で繋ぎ、ゲートウェイにLPWAモジュールを装着してバックボーンに接続
  2. ゲートウェイにLPWAモジュールを装着し、これでLPWA対応デバイスと接続する。バックボーンとは、元々のゲートウェイが持つネットワーク(Ethernet、Wi-Fi、etc...)で接続

 LPWAモジュールはUSBドングルタイプが主流なので、対応するLPWA規格は「USBドングルのかたちでモジュールが提供され」、「プロトコルが公開されている」ものなら何でもいい、ということになる。

 プロトコルが公開されている必要があるのは、2.のケースでルーティング機能をゲートウェイの側に実装する必要があるためだ。逆に、1.のケースだけでよければ、USBドングルのAPIさえ公開されていれば利用できるため、必ずしもプロトコルが公開されている必要はない。

 とはいえ、1.のケースにしても、2.のケースにしても、実装と検証にそれなりの手間が掛かる。理論上は「何でも」ではあっても、標準的に用意されているのはSigFoxとLoRa、それとLTE系のCat.1、Cat.M1、Cat.NB1というあたりで、そのほかのLPWA規格は応相談という対応がほとんどであった。

メジャーなLPWAはSigFox、LoRa、LTE系のCat.1、Cat.M1、Cat.NB1の5つ

 現状では、SigFoxとLoRa、それとLTE系のCat.1、Cat.M1、Cat.NB1の5つが、比較的メジャーなLPWA規格、という認識はおそらく間違っていない。

 この中で一番柔軟性が高く、それなりに企業が群がりつつあるのがLoRaだろう。最大の理由は、プライベートネットワークを提供しやすいことだ。特に屋外利用(農業や漁業など)で利用する動きが国内では目立つが、これは海外も同様だ。

 7月30日のことだが、LoRaを使って到達距離766km(476マイル)という記録が打ち立てられている。

 もっとも、これはベースステーションがスペインのアリサ(Ariza)上空2万4859mに打ち上げられた気球上にあり、そこから送信された信号を、フランスのシャンルッス(Chamrousse)というスキー場に置かれたサテライトで受信するという、あまり現実的に意味がある状況とは言い難いものではある。

 ただ、25mWの信号出力でも800km近いカバレッジが実現できるという実証例になったことだけは間違いない。これは極端な例としても、やはり広い範囲の接続という用途に向け、いろいろな事例が出て来つつある。

カバー率の高さなどの技術面に加え、継続提供も普及拡大のポイント

 では、LoRaが本命なのか?というと、これも難しいところだ。プライベートネットワークの欠点は、ベースステーションの設置や運用を誰が担うのかという点にある。利用者がそのまま担えるような状況ならあまり問題にならないかもしれないが、そうでない場合には、コストが馬鹿にならない。

 こうしたケースでは往々にして、SigFoxやLTE系LPWAのように、キャリアがそうしたオペレーションを担ってくれる方が実は安いということがあり得る。また、限られた範囲内でだけ利用するならプライベートネットワークでもいいのだろうが、利用範囲が広ければLoRaなどでは分が悪い。

 SigFoxも似たようなものだが、携帯電話網のインフラを利用するLTEの面積カバー率の高さは圧倒的で、ほかの追従を許さない。LPWAの場合、利用が想定される場所が人口カバー率とそれほどリンクしておらず、それこそ農業向けや漁業向けの場合、人口密度が猛烈に低い場所で利用されるので、LoRaのパブリックネットワークでどこまで利用されるのかと言えば、なかなか厳しいことが想像できる。

 技術的ではない要素としては、「そのサービスがどこまで継続して提供されるか」という側面も、やはり関係してくる。要するに、そのサービスを提供するベンダーの企業体力がどの程度あるかという話だ。最近紹介したZETAELTRESUNISONetといった新興の規格では、技術的な特徴もさることながら、このポイントもかなり大きな比重になる。

 同じことは、Wi-Fi HaLoWWeightless-Pにも言える。今は「卵と鶏」状態であり、Wi-Fi HaLoWなどは、せっかく「802.11ah推進協議会」を立ち上げても、このままの状況が続けば「やはりビジネスにならなさそうだ」と脱落するメンバー企業が出て、よりビジネスが難しくなるような状況に陥りかねない。

 そこで果たして踏ん張れる企業がどれだけあるのかが、シビアに問われる状況になりつつあると筆者は考える。その意味では、その規格を積極的に使う用途が既にあり、実際に普及を始めているWi-SUNや、WirelessHARTISA100.11aは、広範に使われるようにはならないとしても、ほかのLPWA規格に代替されることなく、じわじわと増えていくかたちが既に見えている。

 こうした用途を見つけられるLPWA規格は、大きく広がるかどうかはともかく、今後も生き残っていくことが可能かもしれない(EnOceanや、先に紹介したUNISONetがこの類だろうか。ELTRESもここに入れてもいいかもしれない)。

IoTはレッドオーシャン? ソリューションとしてのコストと期間でLPWAを評価

 最近、IoTのマーケットが、いわゆる“Blue Ocean”から“Red Ocean”へと変わってきた、という議論がある。要するに“IoT”という名前を出すだけでビジネスが成立する状況ではなくなっており、何をどうやって、どのくらいのコストと期間でソリューションを提供するかが厳しく問われる時代になってきた感がある。

 そこで各社ともPoC(Proof of Concept)構築について、期間の短縮や効率の改善に向け、さまざまなツールやソリューションを争うように出している状況だ。LPWAも当然この動きの中に組み込まれることになる。今はとりあえず各社が「LPWAが使えます」という部分で争っている感があるが、2020年あたりには、IoTソリューションの一部として組み込まれた状態での評価に移ってゆくだろう。ここでどういう差別化要因を出せるかが、各規格に求められるものになってくるだろう。

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大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/