趣味のインターネット地図ウォッチ
歴史好きにはたまらない! 江戸時代なのに現代風デザインの地図サイト「れきちず」が3D表示に対応
地図データをベクトルタイル化。「江戸切絵図」から町家領域の抽出も
2024年5月22日 06:55
株式会社MIERUNEは5月1日、歴史地図を現代のウェブ地図のデザインで再現したサイト「れきちず」をバージョンアップし、地図データをベクトルタイル化して地形の3D表示を可能にした。
「れきちず」はMIERUNEのデザイナー・加藤創氏が個人で開発した歴史地図閲覧サービス。江戸時代後期の関東地方を現代風に描いており、Googleマップのような一般的なウェブ地図サービスと同じように地図を拡大・縮小・スクロールすることが可能で、歴史的なスポットやランドマークをアイコンと色分けで表示している。現代の地図デザインで表現することで歴史地図への理解を容易にし、位置関係や当時の地理的特徴を現代の視点から捉えることができる。
同サービスは2023年8月に加藤氏の個人サイトで公開されて大きな話題を呼び、テレビや雑誌で紹介されたほか、加藤氏はこの取り組みによって「デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー’23/第29回 AMDアワード」にて「江並直美賞(新人賞)」も受賞した。
加藤氏が勤務するMIERUNEは、社員の個人プロジェクトである「れきちず」の事業を継承することを2023年12月に発表。この事業継承は「れきちず」の運用体制の強化を目的としたもので、プロジェクトリーダーとして引き続き加藤氏が携わることになった。
今回のバージョンアップでは、「れきちず」の管理がMIERUNEに移管されたことに加えて、2つの点で機能強化が図られている。1つめは地図データのベクトルタイル化だ。「れきちず」の公開時は、地図の内容を画像で表示する「ラスタータイル」が使われていたが、今回、地図の内容を点・線・面や色などの数値情報として格納する「ベクトルタイル」に変更されたことで、地図を回転させても注記(地図上の文字)の方向が変わらず、地形も3Dで立体的に見ることができるようになった。
MIERUNEの執行役員CTOを務める井口奏大氏と、プロジェクトリーダーの加藤氏は、今回のベクトルタイル化について以下のように語る。
「(ベクトルタイル化のメリットの)1つめは品質の向上があります。ベクトルデータの描画になるため無段階拡大が可能です。2つめはデザインの柔軟性で、ブラウザーで着色・描画できるので、1つのデータから多彩なデザインを作成できるようになります。開発にあたっては、一次データからベクトルタイルまでのパイプラインの構築に苦心しました。」(井口氏)
「江戸時代やそれ以前のように移動手段が徒歩しかなかった時代、人々は山や峠を越えて往来していました。地形が3Dになることで、従来は平面的にしか表示できなかった道や集落を立体的に理解することができるようになったと思います。ご近所を見ていただくのはもちろん、宿場町や史跡などを訪れた際にGPS機能をオンにして当時に思いを馳せながら歩いていただくと面白いかもしれません。」(加藤氏)
もう1つの機能強化ポイントは、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設(ROIS-DS)の人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)と共同で、「江戸切絵図」の町家領域を抽出し、地図上で見られるようにした点だ。
日本橋や内藤新宿付近で薄茶色に塗られたエリアがそれで、現在は「築地八町堀日本橋南絵図」「駿河台小川町絵図」「内藤新宿千駄ヶ谷絵図」の3図のみだが、今後拡大する予定とのこと。なお、このデータはGIS形式のオープンデータとしても公開しており、CODHのウェブサイトから無料でダウンロードできる。
CODHと共同で取り組んだことについて加藤氏は以下のように語る。
「人文学オープンデータ共同利用センターの方も『れきちず』に以前から興味を持っていただいていたようで、『地理空間と言語処理』の勉強会での発表をきっかけに、『れきちず』へのデータの追加についてご相談をいただきました。今回の町家の抽出は、もともと江戸の人口密集地域の表示を目的としており、それに適したデータとして江戸切絵図を選びました。今後は江戸切絵図全29枚から町家を抽出する作業を進めてまいります。また、江戸切絵図に限らず、さまざまなデータを収集して『れきちず』上に追加したり、重ねたりしていく方針です。」(加藤氏)
加藤氏は「れきちず」の運営がMIERUNEに移管されたことについて、「私はデザイナーで、技術のことを得意としていない人間であり、旧『れきちず』を開設する際に技術面で手間取り多くの時間を要しました。会社に移管されたことで技術のことを一任することができ、地図のデータ制作の方に注力できるようになったと考えています」とコメントしており、今後のデータの拡充に意欲的だ。
さらに、現代地図を重ねて透過表示で見られる機能について、現在は地理院タイルを表示可能となっているが、今後は他の地図との重ね機能についても検討中とのことで、今後のさらなる機能強化とデータの充実が期待される。
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