イベントレポート

CEATEC 2019

マイクロソフトがCEATEC基調講演のトップバッターに!「Windows for IoT」の取り組みをアピール

エッジデバイス向けなどを強化、大成建設などとの協業も

 「CEATEC 2019」が、2019年10月15日から、千葉県千葉市の幕張メッセで開幕した。開催初日の午前10時30分からは、コンファレンスの皮切りとなる20周年記念特別基調講演が行われた。

 同基調講演には、米マイクロソフト IoT and Mixed Reality Sales担当のRodney Clark(ロドニー・クラーク)バイスプレジデントと、米マイクロソフト Partner Program Management担当のIan LeGrow(イアン・レグロー)氏が登壇。

 「Society 5.0を実現するIntelligent Edge Intelligent Cloud」をテーマに講演。そのなかで、同社のAIやIoTを活用した「次世代スマートビルディング」に関する大成建設との協業、エッジデバイス向けOSである「Windows 10 IoT」の最新情報などについて言及。さらに、日本のパートナー企業や顧客も登壇して、国内における最新事例などについても説明した。

 なお、当初登壇が予定されていた米マイクロソフト Consumer & Device Sales担当のニック・パーカーコーポレートバイスプレジデントは、台風19号の影響で来日できなかった。

Society 5.0に対するマイクロソフトの取り組みを紹介

 米マイクロソフトのIoT and Mixed Reality Sales担当Rodney Clark(ロドニー・クラーク)バイスプレジデントは、「今日は、マイクロソフトとして、Society 5.0に対してどんな取り組みを行っているのかについて話をする」と前置きし、「AIは、Society 5.0においても、あるいは企業のデジタルトランスフォーメーションにおいても有効なものである。また、エッジには豊富なデータがあり、これをクラウドやAIと組み合わせることで社会課題の解決につなげることができる」などと語り、日本政府主導の「Society 5.0」との関連性に触れながら、同社の取り組みを紹介した。

米マイクロソフトのIoT and Mixed Reality Sales担当Rodney Clark(ロドニー・クラーク)バイスプレジデント

JTBやナビタイム、アステラス製薬との協業事例を紹介

 冒頭に紹介したのは、JTBおよびナビタイムジャパン、そして、アステラス製薬との協業事例だ。

 JTBおよびナビタイムジャパンとの協業では、Microsoft Azureを活用して、英語、中国語に対応した外国人向け観光支援アプリケーション「AI Miko」を紹介。JTBが持つ膨大な日本全国の旅行情報と、ナビタイムジャパンが持つ経路探索技術、交通機関の経路検索データをつなぎあわせて、観光やビジネスに利用できるというものだ。また、アステラス製薬では、骨粗鬆症の患者に対して、HoloLensを使用して、臓器や骨などの映像を見せながら、服薬アドヒアランスの向上につなげる活動を行っていることを紹介した。

 さらに、マイクロソフトでは、デジタルフィードバックループにより、データとAIを中心に改善を続ける取り組みを提案していることに触れながら、こうした取り組みの事例として、大成建設との共創により、AIおよびIoTを活用した施設運用や保守事業の変革に向けて協業を開始することを新たに発表してみせた。

大成建設は保守・サービスをIT化「地震後の健全性確認」「運営管理」「作業見える化」

 大成建設では、従来は設計施工から4~5年間といった期間だけ、保守サポートを行っていたが、不動産価値の維持、利用者の満足度最大化、建物運営管理業務の効率化といった観点から、新たな事業創出を目指し、2019年7月に、社内にAI・IoTビジネス推進部を設立。

 Microsoft AzureおよびWindows 10 IoTベースのエッジデバイスを利用して、建物や利用者のさまざまなデータを収集。AIによる分析結果をもとに、建物設備の自動制御などを行うクラウドサービス基盤を構築し、45~50年という長期間に渡って各種サービスを提供することを目指すという。

 大成建設の岩田丈常務執行役員は、「Society 5.0を実現するには業種、業態の垣根を超えた共創が必要。また、持続的な成長のためには新たなパートナーとの協業や、新たなビジネスモデルの創出が必要である。データを活用した顧客にとっての価値創造ができ、それを提供できる企業が勝ち組になる。それは建設業界も例外ではない。大成建設は保守、サービスに着目し、建物のライフサイクル全体の収益源の対象にしていくことになる」などと述べた。

 具体的には、「地震発生直後の建物健全性把握」、「施設統合運営管理」、「生産施設従業員の作業状況見える化」を提供する。

「建物の安全確認を2分間で」

 「地震発生直後の建物健全性把握」では、建物内に加速度センサーを配置し、地震発生直後に建物の健全性を迅速に評価して、建物の所有者や管理者にタイムリーに情報を通知。正確かつ迅速な情報伝達によって、BCP初期対応支援を行う。

 「地震発生後に復旧作業のために建物に入ることができるかどうかを判断するのには専門家の判断が必要だが、それには時間がかかる。2分間という短い時間内に、安全、要点検、危険という3段階で建物の健全性の判断を行い、施設管理者などに通知することで、短時間で復旧作業などを開始することができる。これまでは同様の設備を導入するには、多くの費用がかかったが、100万円前後で導入できるようにコストダウンを図り、広く活用してもらうようにする。今後、数年間で1000件程度の導入を予定している」という。

建物オーナーの負担が増えている「ランニングコスト」を最小に

 「施設統合運営管理」では、マイクロソフトのリファレンスモデルやテクノロジー、ビジョンを組み合わせた「スマートビルディングソリューション」を活用。

 来年度以降の事業化を目指して、まずはビル管理者向けに建設運用管理業務の効率化支援サービスを提供。さらに、設計・施工と建物運営管理をパッケージ化したビジネスモデルの展開を進める。大成建設では、同社のファシリティマネジメントソリューション「CAFM」と、施設の構成要素を3次元のモデルとして配置する再現する「BIM」を活用。これによって実現する次世代施設統合運営ソリューションと位置づけている。

 「建物竣工後のランニングコストは、建設時に必要なイニシャルコストよりも高くなるとされており、建物オーナーには大きな負担となっている。新たなサービスでは、建設運営管理費を最小化することができる」とする。

Windows 10 IoTで作業情報を見える化

 「生産施設での従業員の作業状況見える化」では、施設や装置の改善に加えて、従業員の作業状況をモニタリングし、そこから得られるさまざまなデータを活用した新しいソリューションを開発。「従業員の心拍、体温、姿勢などの身体の状態のほか、所在、作業環境といったデータを、Windows 10 IoTベースのエッジデバイス経由で随時取得して、Microsoft Azure上に蓄積し、関連情報をモニタリング。

 同時に、AIによる分析などを行うことで、従業員の作業負荷軽減や、労働環境を改善するための効率的な作業計画立案、作業状況を考慮した動線・レイアウトなどを検討し、最適な指示やアクションの提示を支援する」とした。「自動化だけが生産施設の効率化ではない。それに加えて、いかに人が効率的に働くことができるかが重要である。人がいてはいけない場所に人が長時間いることを検知して、警告するといった安全対策にもつながる」という。

 岩田常務執行役員は、説明の最後に、「デジタル変革を推進する上で、建築、土木、エンジニアリング、都市開発に関するナレッジをマイクロソフトのクラウドや最先端技術、セキュリティと組み合わせることで、新たな価値を創造する」とした。

大成建設の岩田丈常務執行役員

「Windows for IoT」を推進!小規模向け「Core」、フル機能「Enterprise」など、NXP i.MXプロセッサにも新たに対応

 続いて登壇した米マイクロソフトのPartner Program Management担当のIan LeGrow(イアン・レグロー)氏は、フォーチュン500社の95%の企業でマイクロソフトのテクノロジーを利用していること、全世界54カ所のデータセンターからサービスを提供していることなどを示したのに続き、20年以上にわたり、エンタープライズレベルの組み込みデバイス向けOSを提供し、その流れを組む製品である「Windows for IoT」の新たな製品群を発表してみせた。

 レグロー氏は、「Windows for IoTは、スマート、セキュア、ファーストという3つの領域に焦点を当てて開発したものである。あらゆる規模のデバイス開発者が、スマートで、安全なIoTデバイスを活用して、デジタルトランスフォーメーションを迅速に提供できるように支援できる」と述べた。また、「Society 5.0においては、スマートシティ、スマートビルディング、スマートインフラストラクチャーにフォーカスが当たっており、これらのインテリジェントエッジのデバイスの基盤として、Windows for IoTを、スケーラブルなオペレーティングシステムのファミリーとして提供できる。Windowsは、毎日9億人が利用し、それをもとに検証したデータを活用できる。また、ソリューションの構築においては、Visual Studioのツールも活用できる。全てが同じ基盤の上で構築されていることは大きな特徴である」などとした。

米マイクロソフトのPartner Program Management担当のIan LeGrow(イアン・レグロー)氏
「Core」「Enterprise」「Server Iot 2019」の3エディション

 今回の基調講演では、小規模なスマートデバイス向けに構築され、管理容易性とセキュリティを実現し、長期的なOSサポートとOTA (Over-the-Air) によるデバイスのアップデートおよび監視機能を提供する「Windows 10 IoT Core」、Windows 10 IoTのフル機能バージョンであり、エンタープライズレベルの管理性と固定機能、スマートデバイス向けのロックダウン機能などを提供する「Windows 10 IoT Enterprise」、要求が厳しいエッジコンピューティングのワークロード向けに構築され、ネットワーク接続されたアプリケーションの大規模データベースやネットワーク、ウェブサービスのデータの接続、保存、分析に利用できる「Windows Server IoT 2019」を発表してみせた。

NXP i.MXプロセッサに対応した「Windows 10 IoT Core BSP」も

 さらに、プロセッサーの選択肢を拡大するために、新たにNXP i.MXプロセッサファミリー向けの「Windows 10 IoT Core Board Support Packages(BSP)」の一般提供の開始を発表した。

 レグロー氏は、「Windows 10 IoT Core により、インテリジェントエッジにおける安全で電力効率性に優れたデバイスを実現できる。開発者は、慣れ親しんだWindows開発環境を使用して、新たなインテリジェントデバイスを迅速に構築し、強力なAzure IoTプラットフォームを活用できる。NXP i.MXとWindows 10 IoT Coreを組み合わせることで、デバイス開発企業は、安全で信頼性が高いコネクテッドデバイスの選択肢をさらに拡大できる」とした。

 基調講演では、NXPジャパンの原島弘明社長が登壇。「BSPは、NXPとマイクロソフトのエンジニアが緊密な連携のもとに開発したものである。BSPは、クオリティの高いコマーシャルレディの製品を実現することで、市場への導入期間の短縮化を図ることができる。Windows 10 IoT Coreには、推論エンジンをはじめとする機能が統合されており、ワールドクラスのセキュリティを実現できる。そして、10年間のOSアップデートも提供され、インダストリアルマーケットにおいて、最適化したものになっている。BSPは、すぐに出荷できる状況にある。グローバルにはすでに100社以上のパートナーがおり、今後、ソリューションベースでのビジネスが拡大していくことを期待している」などと語った。

i.MX 8M Miniアプリケーション・プロセッサ評価キットを持つ原島弘明社長

 そのほか、インサイダー向けプレビューとして、「Windows ML コンテナ」の提供を開始。さらに、SQL Server 2019と同等バイナリを持ち、最新の SQL Server 2019の機能を組み込みデバイス開発者に提供する「SQL Server IoT 2019」の提供を開始することも発表した。

 一方で、レグロー氏は、全世界に20億人以上のフロントラインワーカーがいるものの、これらの労働者は、生産性を高めるために必要なテクノロジーを持っておらず、それがビジネス上の問題になっていることを指摘。さらに、ソトウェアエンジニアを雇用している企業は、平均で11%の成長を遂げていること、ソフトウェアエンジニアは、機械エンジニアの3倍の速度で成長していることなどを示しながら、「新たなスキルが求められており、デジタル変革にはエコシステムが重要な役割を果たすことになる」などと説明した。

 ここでは、パナソニック コネクテッドソリューションズ社の坂元寛明副社長が登壇。同社が取り組む現場プロセスイノベーションの事業展開加速に向けたマイクロソフトとの協業について説明した。

パナソニック コネクテッドソリューションズ社の坂元寛明副社長

 坂元副社長は、「現場プロセスイノベーションは、作る、運ぶ、売るといった領域において、パナソニックが製造業で培ったノウハウやロボティクスを活用し、プロセスを革新し、困りごとを解決することを目指している。この困りごとは私自身の困りごとでもある。30年間やってきたのは、知識、経験、熱意により、予測に基づいて実行し、その結果でのみ判断するということの繰り返しであった。だが、予測ははずれる。そのためにさまざまなロスが発生する。BtoB事業において目指すところは予測精度を高めることに尽きる。それを実現するには、AI、IoT、クラウドが不可欠である。エッジデバイスを活用して人とモノ、モノとモノをつなげ、必要なデータをクレンジングし、それをクラウドにあげて、抽出したデータを分析、提案して、よりよい予測につなげるといった世の中を目指していくことになる。パナソニックの尖ったデバイスで良質なデータを吸い上げ、マイクロソフトのクラウドで分析し、両社でソリューションを提供していくことになる。たとえば空調機器の調子が悪いときには、タフブックを利用して、3Dカメラで撮影し、データを直接保存して、短時間に、安全を確保しながら不調の原因を究明できる。今後も、こうした取り組みなどを通じて、マイクロソフトとともに、Society 5.0の実現に向けた提案を加速していく」と語った。

 最後に登壇した米マイクロソフトのクラークバイスプレジデントは、「マイクロソフトは、価値を迅速に、現実のものにするために必要となるものを全て持っている。デジタルフィードバックループは、複雑な世界のなかで、リソースや運用管理、コスト管理を維持しながら、デジタルトランスフォーメーションを支援するものになる。マイクロソフトは、地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるように支援する」などと述べて、講演を締めくくった。

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