イベントレポート

CEATEC 2019

「ANAアバターには、世界を変える力がつまっている」、ANAホールディングスの社長が講演

ANAホールディングス社長みずから「4本腕」になってアピール、綾瀬はるかさんも「アバターイン!」

ANAホールディングス代表取締役社長の片野坂真哉氏、4本の腕でアバターをアピール
アバター「newme」と女優の綾瀬はるかさん

 「私ども、ANAホールディングスは今日この場で、瞬間移動を発表します」――10月15日、CEATECのKEYNOTEとしてANAホールディングスの片野坂真哉氏(代表取締役社長)が講演を行い、ANAアバターを活用した瞬間移動技術についてアピールした。

 講演の後半には、女優の綾瀬はるかさんも登場し、アバターで釣りを体験。「これが普及したら、色々なところにアバターで出かけることができますね」と笑顔を見せた。

 片野坂社長は、「瞬間移動はフィクションの世界のものだと思われている方もいると思いますが、もうすでに現実のものになりつつあります」と現実のビジネスとしてアバターを活用した瞬間移動に真剣に取り組んでいることを強調した。

「瞬間移動で何が可能になるのか、想像してみてください」~それを実現するのがアバターなのです!

 片野坂社長は語る。

 「瞬間移動で何が可能になるのか、想像してみください。地球上のあらゆる場所に行ってみたいと考え、南米のアマゾン、氷のエベレスト、ペンギンのいる南極といった場所に瞬時に移動してその景色を楽しみ、音を聞き、風を感じる世界を想像してみください。これまで十分な医療を受けることができなかった人々のもとに、医師が瞬間的に移動し、医術や指導を行う。そういう世界を想像してみてください。遠く離れた家族に急に会いたくなった。お母さん?ちょっとお金を貸して欲しいんだけど?と相談したくなった。その瞬間に、自分の実家に瞬間移動してハイタッチやハグをする。そういう世界を想像してください。さらには宇宙空間に飛び出してみる。こんなことは可能なんでしょうか?答えはイエスです。それを実現するのがアバターなのです!」

ANAホールディングスの片野坂真哉氏(代表取締役社長)
ANAアバターXPRIZE(賞金総額10億円)が開催されている

 ANAがアバター事業に取り組むきっかけとなったのは、XPRIZE財団が実施している賞金レース「XPRIZE」という。

 国際賞金レースの次のグランプリのテーマを決めるコンペティションでグランプリとなったのが、ANAチームが提案したANAアバター。現在、賞金総額10億円をかけて、「ANAアバターXPRIZE」が実施されている。このコンペティションには、世界81カ国、820チームが参加を表明している。

アバターへ「アバターイン」して、瞬間移動なぜ、そんなにアバターに取り組むのか?

 片野坂氏は、「何故、そこまでアバター技術開発に取り組んでいるのかは、今日の講演を聞いてもらえば、皆さん理解してくれると思います」と説明した。

 「遠隔地にあるアバターに入り込み、視覚、聴覚、触覚といったものを共有することで、あたかも自分がその場にいるような体験ができます。この『入り込む』アクションを、私たちはアバターインと名付けました。すなわち、アバターインすることで、私たちは世界中のどこへでも瞬間移動ができるようになるのです」と話した。

 そして、「何故、ANAが瞬間移動に取り組むのか?」と多くの人が感じた疑問について片野坂氏は言及した。

 「そもそも、瞬間移動が可能になったら、飛行機の必要がなくなるのではないか?何故、そんなにアバターに入れ込むのか?という質問を多くの方から受けます。実は世界の人口77万人のうち、飛行機を利用している方は6%に過ぎません。94%の人はまだ飛行機を利用されていないのです。病気などの身体的理由で飛行機を利用することが困難な人もいれば、社会的ルール、経済的格差が理由で移動ができない人もいます。そうした制限をはじめ、全ての人類が物理的な制限、身体的な制限を超え、距離も超えて移動し合い、つながりあい、支え合うことができる世界を作ることは、飛行機を飛ばすことと同じくらい重要なことなのです。」

 片野坂氏は、ここからANA誕生の時を振り返り、67年前、2機のヘリコプターからスタートし、そこからプロップ、ジェット機と最新鋭のジェット旅客機を導入し、世界中の人と人をつなぐことを進めてきたことに触れた。

 「アバターがもたらす世界を一番先頭でかなえていきたい。世界中のどこへでも、宇宙でも、意識をトランスポーテーションすることで、そこにいるような体験ができるようになります。アバターによって、人間は経験やスキルをシェアできるようになります。今離れているアバターが、自分と同じように触感を得られると、シェフが若者に経験を伝えるといったことができるようになるでしょう。お医者さんになりたい若者に、天才外科医が自分の技術を指導することが容易にできるようになるでしょう。書道の名人が文字を書く動きと全く同じ動きを、遠く離れた島にいる子供がビーチの砂に同じ文字を書くといったことが、次々と可能になります。自動運転の技術が次々に進展していますが、ひょっとすると、アバターによる自動運転の方が先に実現するかもしれません」と、新しい世界をアバターが実現すると言及した。

2025年に介護士アバター、2030年にレスキュー隊……「アバター≒自分」の時代も2050年に!

 今後の技術発展の予測として、2025年までに介護士と同じ動きをするアバターが登場すると予測。さらに2030年までにはレスキュー隊と同じことができるアバターが登場し、人間が近づけない場所で救助活動などを行うようになると話した。

 2040年になると脳からの指示でアバターが動けるようになり、頭で思うだけでリンゴを取れるようになり、「ニュートンもビックリするのではないかと思います。腕の不自由な方が、アバターを通じて腕を自由に使うといったことが当たり前になると思います」と大きな進化が続くという。

 さらに大きな変化が訪れるのは2050年と予測。「アバターと自分の差が一切なくなり、視覚、聴覚、触覚だけでなく、嗅覚、味覚まで全く人間と同じような体験が、アバターを通じて、できるようになります。遠く離れた自分が本当の自分になる時代が来ます」。

「アバターがいる街」を様々な人たちと協力して実現していく

 こうした技術進化と共に重要な要素として、「アバターの社会インフラ化が欠かせません。アバターの社会実装が欠かせません」と指摘した。

 世界中のあらゆる場所で、アバターが人間に代わって体験するようになるためには、世界中にアバターが設置されていることが必須となる。

 「その実現は私たちだけではできません。自治体の皆さんや、各方面のデベロッパーの皆さんなどの協力を得て、アバターがいる街作りを進める必要があります。アバターロボット作りは世界中で進展していきますが、誰もが安く、気軽にアバターを導入できることが必要です」(片野坂氏)

 この観点からANAが独自開発したアバターが「newme」だ。「私も名前を聞いた時には、アバターインをもじって、アバタニーなんて提案をしたが、開発担当者によれば、newmeとは新しい自分を意味しているといわれ、納得しました。これはロボットではなく、あなた自身の人格が吹き込まれたものとなっている」。

【最新アバターnewme】
「newme」とは「新しい自分」なのだという

 さまざまな人のアバターとなるため、大きさ、色はさまざま。世界中での普及を視野に入れているが、パートナーと協力し、国内で普及を進めていく。そして「是非、ご来場の皆さんもnewmeを導入し、瞬間移動を実践してください」と呼びかけた。

「アバターにこそ、人類の夢、世界を変える力がつまっている」来年のオリンピックに、1000体のアバターが稼働!

 具体的な計画としては、2020年、オリンピック開催に向け1000体のnewmeを設置する。「担当者に、2020年に2020体の設置はどうか?と提案しましたが、まずは1000体からということになりました」という。すでにパートナー企業として自治体、大学、流通など複数の企業が共同で開発を進めている。

 「今はアバター社会の始まりでしかありません。しかし、インターネットが普及し社会が大きく変化したように、アバター社会が到来すると思います。その理由は、アバターにこそ、人類の夢、世界を変える力がつまっているからです。ANAホールディングスでは来年の春、アバターのプラットフォームをローンチして、サービスインします。アバターを動かすアプリを使い、社会インフラとしてアバターを使えるようになります。Society5.0実現にはアバターは不可欠だと思っています。アバターによる、デジタルからリアルへの働きかけと、多様な人の創造と想像によって、社会のさまざまな重要課題を解決していきます。SDGsにも貢献するものになると思います。より平等で、平和な社会の実現に向け、皆さんも一緒に取り組んでいただけないでしょうか?」と会場の参加者に呼びかけた。

 ちなみに、newmeのマークはドラえもんのどこでもドアをかたどったもので、どこでもドア感覚での移動を実現するという意味が込められているという。

まずアバターから登場した女優の綾瀬はるかさん
綾瀬はるかさんがアバターで登場、アバターでの釣り体験も

 講演の後半には、女優の綾瀬はるかさんが登場した。最初はnewme上の綾瀬さんが登場。その後で実物の綾瀬さんが登場した。

 綾瀬さんはタブレットからアバターを使って、CEATEC会場のANAブースを見学した。慣れないながらもタブレットを操作し、アバター経由で、大分県で釣りを楽しむアトラクションに挑戦。幕張メッセの会場から、大分県に置かれた釣りアバターを通して釣りの感触を楽しむことができるというアトラクションだ。

タブレットを通して、綾瀬さんがアバター経由で釣りにチャレンジ
ウェアラブルアバターを装着した片野坂氏。「すごく重いです」と率直な感想を漏らした

 さらに片野坂社長はウェアラブルアバターを装着して登場。離れたところにいるANAのスタッフが操作しているというウェアラブルアバターに、「重いです」と片野坂氏。会場からは率直な感想に笑い声が起こった。

 ANAがハワイに就航させているエアバス「FLYING HONU」をイメージした亀のぬいぐるみを、片野坂氏のウェアラブルアバターに手渡した綾瀬さんは、「社長の手のような手じゃないような不思議な感触ですね」と笑顔で答えた。

 片野坂氏は、「同じ技術を使いながら、目的に応じて色々なことができます。アイデアは無限大なので、色々とトライしてみたい」と話すと、綾瀬さんも深き、「とても楽しく体験させていただいて、これが普及したら色々なところで色々な体験ができそうです」と笑顔で話した。

【ANAブースに出展されたnewme】
ANAブースに出展されたnewme。[ブースレポート|出展前インタビュー]

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