12月9日、松下電器産業は家庭向けの高速PLCアダプタを発売した。PLC(電力線搬送通信)は、家庭内に既に配線されている電力線を通信回線として利用するもので、家庭内LANの構築にあたって新たな配線工事などが不要となる点がメリットだ。一方で、高速PLCに対しては、現在の技術では漏洩電波の影響が大きく、使用を認めるべきではないという声も多く、12月7日にはアマチュア無線家などが総務省に対して認可取消を求める行政訴訟を起こすと発表した。PLCを巡っては、これまで長期間に渡り、技術開発や利用条件についての議論などが続けられてきた。ここでは、本誌でこれまでに取り上げたPLC関連の記事59本を見ながら、製品化までの経緯を振り返る。
● ~2000年:当初は「アクセスライン」として期待されたPLC
INTERNET Watchの古い記事では、1997年にNorthern Telecomが電線を使ったインターネット接続技術を開発したというニュースを取り上げている。2000年には米国企業が電力線ネットワーク技術の開発を進めているという話題が多くなり、日本国内でも電力会社を中心に電力線ネットワークへの取り組みが始まっている。この当時は、家庭へのアクセスラインとしてPLCの利用が期待されていた。2000年はADSLがようやく実用化された頃であり、家庭へのブロードバンド回線として電話線(ADSL)や同軸ケーブル(CATV)、光ファイバ(FTTH)、無線といった様々な候補が挙がる中で、電柱から家までの引き込み線として電力線を使ったインターネット接続サービスも有望な方式だと考えられていたためだ。
● 2001~2002年:高速化に向けた規制緩和は、「時期尚早」として見送り
PLCの課題は高速化にあった。電力線に重畳できる信号の周波数は、電波法によって10k~450kHzに規制されていた。既にこの周波数帯を使用するPLCモデムは存在していたが、速度は9.6kbps程度だった。この帯域をフル活用してもそれほどの高速化は望めないことから、メーカーなどではさらに高い周波数帯(2M~30MHz帯)の利用を可能とする規制緩和を求めていた。しかし、この帯域を使用した場合には、電力線から漏洩する電波がアマチュア無線や短波放送、電波天文などに大きな影響を与える危険性があるとして、安易に規制緩和を行なうべきではないという意見が多く挙がった。結果として、2002年の段階では時期尚早との結論に至り、規制緩和は見送りとなった。
● 2003~2004年:実用化に向けた実験がスタート、家庭内LANとしての用途が中心に
いったんは“時期尚早”として規制緩和は見送られたが、2003年には総務省がPLCの実用化に向けて、漏洩電波の低減技術開発を目的とする実験制度導入の検討を始める。2004年にはこの実験制度が開始され、メーカーや電力会社などが高速PLCの実証実験を開始する。この頃になると、家庭へのアクセスラインとしてはADSLの普及が進み、FTTHの加入者も増えだしたことなどから、PLCは情報家電などで利用する家庭内LANとしての用途が有力だとして、展示会などでも家庭内での利用を意識した展示が中心となっていった。
● 2005年:実証実験が続けられる中、総務省が使用条件案を提示
高速PLCの実用化に向けて、多くの通信機器メーカーが実証実験を開始した。展示会でのデモも多く行なわれるようになり、この頃になるとモデムもいかにも実験用の箱といった形状から、製品化を意識したデザインのものが多くなってきた。総務省では、高速PLCと既存の無線との共存の可能性や条件について検討する研究会を開催。屋内配線を利用する高速PLCについて条件案を提示した。
● 2006年:ついに高速PLCが製品化、一方では依然反対の声も
総務省の情報通信審議会は6月、屋内での高速PLCの設備について、電磁妨害波に関する許容値と測定法を定めた答申を行ない、総務省ではこれを受けて関係規則などを改正。12月9日には松下電器産業が国内初の高速PLCアダプタ「BL-PA100」を発売し、今後各社も発売を予定している。一方で、12月7日にはアマチュア無線家などが、総務省に対して高速PLCの認可取消を求める行政訴訟を起こすと発表するなど、依然として高速PLCに対しては反対の声も多い。
(2006/12/21)
[編集部]
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