2018年11月12日 11:12
「CEATEC JAPAN 2018」が、2018年10月16日~19日に、千葉県の幕張メッセで開催された。
今年で19回目を迎えたCEATEC JAPANは、2016年に「CPS/IoT Exhibition」へと大きく舵を切ってから3回目の開催となり、IoTを活用したあらゆる産業、業種による「共創」の場として、国内外からも注目を集め、725社/団体が出展、会期中には15万6063人が来場した。
今回、本誌では、会期前の2018年10月13日午前0時に開始した会場設営から、19日深夜の撤収までの間、関係者への密着取材を敢行した。超スマート社会「Society 5.0」を推進する日本最大規模のイベントである「CEATEC JAPAN 2018」の舞台裏はどうなっているのか。5回に渡ってレポートする。
はじまりは深夜0時、まずは「鍵の受け取り」から【会期 3日前】
密着取材のチームが、幕張メッセに集合したのは、会期のほぼ3日前、12日午後11時30分だった。
街灯の電気だけが灯り、車の往来がほとんどない静寂のなか、幕張メッセで、唯一、24時間通用が可能な東2ゲート周りだけ、警備員を含めて数人の人の姿が見える。いよいよCEATEC JAPAN 2018の最初の一歩が始まる瞬間だ。
深夜0時を少し回る前に、CEATEC JAPAN実施協議会の鹿野清エグゼクティブプロデューサーをはじめとするCEATEC JAPAN関係者が、東2ゲートから幕張メッセの構内に入る。取材チームも同行する形で、幕張メッセのゲートをくぐった。
暗い道を進むと、幕張メッセを管理する総合管理センターにたどり着く。最初の仕事は、ここで会場の鍵を受け取ることだ。
総合管理センターの前に、徐々に関係者が集まってくる。
彼らは、電気工事や施工、セキュリティをはじめとする各部門の責任者たち。その数は約10人。この約10人の集合から、会期中15万6063人が来場した大規模イベントの会場準備が始まることになる。
CEATEC JAPAN実施協議会の鹿野エグゼクティブプロデューサーは、幕張メッセの総合管理センターでひと通りの説明を受けたあと、鍵を受け取り、書類にサインをする。
鍵は、使用するホール1~3、ホール4~6ごとに、箱に入れられており、会期中、主催者がこの鍵を管理することになる。そして、会期が終了する19日午前0時過ぎまでに、すべてを撤収し、この鍵を返すことが条件だ。
鹿野エグゼクティブプロデューサーは、鍵の箱を、まだ準備がなにも整っていないオペレーション事務局に運び、そこで改めて箱を開錠。警備員や担当者がこの鍵を受け取り、搬入口などの扉を開ける。
鹿野エグゼクティブプロデューサーも、その鍵のひとつを持って、扉の鍵を開けた。
扉が開錠されると、一斉に搬入が始まる。関係者に聞くと、深夜0時過ぎという時間帯にも関わらず、この時点で約300人が参加しているという。
鹿野エグゼクティブプロデューサーは、すぐに2階に駆け上がり、まだなにもない会場内が一望できる場所に移った。展示会場には作業を行う人たちが次々と散らばるように入り始め、さらに高所作業を行うための数台のクレーン車や、事務局などに設置するための机や椅子などを積み込んだトラックが何台も入ってくる。
その様子を見ながら、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、「この風景をみると、『いよいよ来たな』という気持ちになる。だが、その一方で、このまっさらな状態から、思い通りのものが出来上がるのかどうか、という不安を感じる瞬間でもある」と静かに語る。
図面ではわからない「現物」が、これから目の前に組み上がっていくことになる。そして、ここから、CEATEC JAPAN 2018の「序章」ともいえる始まりを迎えることになる。
設営開始、電気工事と測量と……
最初に行われた作業は、各小間に向けた電気幹線ケーブルやLANケーブルの敷設、墨だし作業、タペストリーの掲示、そして、一部ブースのカーペット張りや簡易なブースの設営だ。これらは、午前6時までに終えなくてはならない。早くも時間との勝負が始まる。
小間ごとの電気幹線ケーブルの敷設は、縦横に何本も交差する溝のなかに行う。2本の鉄の棒を使って、重たい鉄板の両端を持ち上げて、蓋を開け、そこにケーブルを引き込んで敷設する。工事者は、大きな紙の図面を何度も見ながら、正しく敷設工事が行われているかを確認する。重たい鉄板と、重たいケーブルを扱う作業はかなりの重労働といえるだろう。溝の深さは大人の下半身が埋まるほどであり、誤って落ちると危険だ。溝の蓋を開けている場所には赤いパイロンを立てて、注意を促している。
一方で、墨だしと呼ばれる作業は、各出展者のブースの場所とエリアを指定する作業だ。横方向に2本の長いメジャーを平行に床に張り付け、縦にもう一本のメジャーを組み合わせて、所定の場所に白いテープで印をつけていく。これを目印に、各社がブースを組み上げることになる。
小さい小間の場合には、墨だしの終了とともに、ブースの設営作業が始まる。パイプと薄い板を使って、短時間にブースを組み上げていく。会場内に設営する出展者の控え室なども、同じ素材を使って同時に作られていった。
また、一部のエリアには、早くもカーペットが敷かれはじめた。それぞれのブースにあわせた異なるカラーのカーペットが敷かれたほか、なかには複数のカーペットの色を組み合わせてデザインしたものもあった。
天井から吊るすタペストリーも、早い段階で行う作業のひとつだ。幕張メッセは、天井が高いのが特徴。それだけに高さを持ったクレーンを使用する必要がある。ブースが設営されてからではクレーンが入りにくいため、この段階で作業を行うのだ。
展示テーマごとにエリアを示すタペストリーのほか、一部出展者は自らのブースの上に、ロゴが入ったタペストリーを吊した。
予定時刻である午前6時前までに、これらの作業はすべて完了した。いわば、ここまでが、ベースとなるインフラを作り上げた状態だ。
住宅になぞらえれば、宅地分譲のために土地が分割され、電気やガス、水道、通信のインフラまでが整った状況ともいえる。これから、この上に住宅を建てる作業が始まる。いよいよ各出展者のブース施工業者が、幕張メッセのなかに入り、ブースを設営していくことになる。
午前6時、出展者によるブース設営開始大型トラックが会場内に続々と……
電源ケーブルやLANケーブルの敷設や墨だし、タペストリーの設置、カーペットが敷き終わると、出展者によるブース設営がいよいよ開始される。
午前6時から設営が開始できるのは、20小間以上の展示スペースを持つ出展者である。
本来ならば、午前8時から、これらの企業による設営が開始される予定であったが、今年の場合は、設営のために用意された日が3日間であり、例年よりも1日少ない。そこで設営開始時間は、当初予定されていた午前8時から2時間前倒しでブース設営が開始された。
午前6時を前に、荷物を搬入したり、ブース設置のための機器を搬入するためのトラックは、一度、L駐車場と呼ばれる幕張メッセの一番離れた駐車場で待機。指定された時間に合わせて、幕張メッセの構内に入ることになる。
20小間以上のブースになると、大きなフレームでブースを構成することが多い。天井からフレームを吊して柱を無くす設営方法を取るブース、柱を使いながらしっかりとした構造で作り上げるブース、フレームをカンバンで隠し、ロゴが目立つようなインパクトの強い作りにするブースなど、作り方は様々だ。それによって、フレームの組み上げ方も異なる。リフターでフレームを持ち上げたり、2台のクレーンでフレームを持ちあげたりといったように、手法も異なる。
また、人の大きさを超えるような造形物を、大型トラックで搬入するブースも多い。ユニークな形状の造形物もトラックで運ばれてくる。各社各様で、それぞれの企業イメージや出展テーマにあわせたブースづくりを進めていた。
CEATEC JAPAN 2018で、静かに注目されていたのが、ボッシュの設営だ。今回のボッシュのブースは、日本法人が担当したのではなく、ドイツ本社のイベント専門チームが直接設営に携わったからだ。
船で輸送する40フィートコンテナ2台で、設営のための材料を持ち込んでおり、会場にも、このコンテナを運び込むことができるトレーラーを使って、直接コンテナを運び込んできた。
欧米の大型イベントの場合、1週間程度をかけて設営することが多い。だが、今回のCEATEC JAPAN 2018で設営に使える時間は、わずか3日間。半分以下の短期間という条件で設営に挑戦することになったのだ。
周りでは日本人による設営が進むなか、ボッシュのドイツ本社のメンバーは、慣れない土地で、短い時間内に、急ピッチでブース設営を進めていった。15日夕方までにはボッシュは予定通りにブースを設営。日本のイベントならではともいえる、短時間での高品質なブースの設営をボッシュは見事にクリアしてみせた。
13日午前6時から始まった20小間以上の出展者によるブース設営に続き、午前11時には、すべての出展者がブース設営を開始し、展示会場はトラックやクレーン、設営機器、多くの作業者などでごった返した。通路にも様々な機器や材料が置かれ、通行するのにも注意が必要だ。
そうしたなか、13日の作業は午後6時で終了した。この時点で多くの企業が外観を完成しつつあった。続く14日は、午前8時から設営作業が開始され、この日になって、電話接続やネット接続の確認作業や、装飾違反の確認作業なども行われた。一部の出展者では、14日午後から、コンパニオンによるナレーションの練習もはじまっている。
ブースの設営作業は、16日の開場前まで行うことができるが、15日午後2時からは、報道関係者を対象にした事前公開「メディアコンベンション」が開催されるため、報道関係者をブースに招く企業は、それまでに完成させてなくてはならない。
とくに、大きな小間を設置した企業の多くは、メディアコンベンションに参加するため、15日午前中がリミットとなる。出展者によって、展示の規模が異なり、さらに、タイムリミットも異なるが、最高のブースづくりを目指して各社が作業を進めている姿があちこちでみられた。
うまく行ったものと、行かなかったものと……【会期 2日前】
設営2日目となった14日午前。
鹿野エグゼクティブプロデューサーは、ホール4~5に設置した主催者企画/特別テーマエリアの出来上がりつつあるブースを見て、一瞬、表情を曇らせた。
主催者企画となるイノベーショントークステージは、広いステージとともに、後方には段差を持った席を用意してステージが見やすいように工夫。入口には118型のLEDディスプレイを2台設置し、ここに講演の様子やスケジュールなどを表示する仕組みが完成した。そして、IoTタウンのステージも明るい雰囲気で設営が完了したことには、合格点を与えた。
だが、一部には、思い通りに出来あがっていないものもあった。設計図上はうまくできていても、実際に出来上がってみると、思惑とは異なるものになっているというのはよくあることだ。
鹿野エグゼクティブプロデューサーが、とくに気になったのは、数多くの海外企業が出展するCo-Creation Parkのピッチエリアだ。
ピッチエリアは、出展企業各社がプレゼンテーションを行うステージで、Co-Creation Parkの中央部にある。このステージの後ろ側には、カーテンのような装飾が施されていたが、それが周りからの視認性を妨げてしまい、目立つようなステージづくりにはなっていなかったのだ。そこで、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、ステージ上を目立たせるためのデザイン変更の提案を行い、すぐに修正を加え始めた。
最初はカーテンの色変更という提案もあったが、最終的には、カーテンのような装飾を取ることを決定。あらゆる方向からプレゼンテーションが行われていることがわかる形にした。
もうひとつ、鹿野エグゼクティブプロデューサーが表情を曇らせた場所があった。それはメイン入口となるホール5に設置するキービジュアルのイメージだ。
キービジュアルは、今年から採用した新たな取り組みだ。
青や紫、緑、黄色、ピンクなどの色が混ざり合ったこのキービジュアルは、様々な産業が枠を超えて出展したり、会場内の様々な展示が融合したりといった新たなCEATEC JAPANの様子を表現している。そして、「今後のCEATEC JAPANのシンボルに育て上げたい」と、鹿野エグゼクティブプロデューサーが考える重要な意味を持ったものだ。
だが、最初にできたものは、残念ながら、象徴といえるようなデザインにはなっていなかった。
設計では、5ホールの会場入口から、色を配した布のタペストリーを用いて、それらが重なり合って、キービジュアルに到達し、キービショアルはその融合として輝くようなイメージで、立体感を持たせることを狙った。そして、その場所が、CEATEC JAPANのアイコンとして、あるいは最大のフォトスポットとして利用されることを意図したのだが、出来上がったものは、そのコンセプトとは大きくかけ離れたものになっていたのだ。ここでも、鹿野エグゼクティブプロデューサーは急きょ作り直しを指示。ピンスポットを当てるようにし、このキービジュアルをCEATEC JAPAN 2018の象徴となるように、よりデザイン性を高めるようにしたのだ。
15日に行われた報道関係者向けのメディアコンベンションか始まるまでには、このキービジュアルは完成したが、鹿野エグゼクティブプロデューサーにとっては決して100点満点の出来映えといえるものではなかったようだ。
「CESやIFAには、来場者や出展者が、記念に写真を撮りたくなるような、ロゴを入れたスポットがある。CEATEC JAPANにも、そうしたスポットを作りたい」と、鹿野エグゼクティブプロデューサー。ここは、来年に持ち越す最初の課題になったのかもしれない。
イベント開始と「混沌」と……
まだ会期が始まる前だが、14日までの設営期間を振り返って、CEATEC JAPAN実施協議会の鹿野エグゼクティブプロデューサーに、これまでの状況を、ひとつの言葉で表現してもらった。
鹿野エグゼクティブプロデューサーが発した言葉は、「混沌」だった。
「大きな課題はないが、小さな課題は数多く発生している。それらを解決しながら、15日に開催されるDay0の各種イベントや、16日から開幕に向けた最終準備も着々と進めている。この時点では、準備が予定通りに完了するのだろうか、なにか問題は発生しないだろうかといった不安もあり、混沌とした状況のなかで時間が経過している」とする。だが、「これはネガティブな意味ではない」とも付け加える。
「新しいことに挑戦するワクワク感、これから始まるという期待感もある。明日からのスタートに向けて、全体の機運が高まっていることを感じている」とも語る。
これまでの経験上、開幕を迎えるまで、不安は消えないと鹿野エグゼクティブプロデューサー。14日の設営は、午後6時で終了し、会場内から人の姿は消えた。しかし、様々な課題を解決するために指示を出したり、議論を続けるために、オペレーション事務局に午後10時まで残る、鹿野エグゼクティブプロデューサーの姿があった。
「CEATEC JAPAN 2018」イベントレポート記事一覧
- 「CEATEC JAPAN 2018」いよいよ開幕
- 「Society 5.0」の最新動向が分かる解説冊子を無償配布
- “ガジェット好き議員”視点の「CEATEC」見どころガイド
- 「ローソンが考える2025年のコンビニとは」 ~竹増貞信社長が基調講演~
- 「日本の中小企業」を世界に発信、東京五輪にも関わる「東京ビジネスフロンティア」とは?
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