2018年11月16日 00:07
「CEATEC JAPAN 2018」が、2018年10月16日~19日に、千葉県の幕張メッセで開催された。
今年で19回目を迎えたCEATEC JAPANは、2016年に「CPS/IoT Exhibition」へと大きく舵を切ってから3回目の開催となり、IoTを活用したあらゆる産業、業種による「共創」の場として、国内外からも注目を集め、725社/団体が出展、会期中には15万6063人が来場した。
今回、本誌では、会期前の2018年10月13日午前0時に開始した会場設営から、19日深夜の撤収までの間、関係者への密着取材を敢行した。超スマート社会「Society 5.0」を推進する日本最大規模のイベントである「CEATEC JAPAN 2018」の舞台裏はどうなっているのか。5回に渡ってレポートする。
「午後5時に閉幕したとき、万歳できるのか、しょげているのか……」【最終日】
いよいよCEATEC JAPAN 2018が最終日を迎えた。
午前10時の開場を前に、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、「初日よりも緊張している」と意外な言葉を口にした。
外は、いまにも雨が降りそうな気配。天気予報では、午後から雨が降り出し、夕方には雨があがるという。午後からの雨は、当然、来場者の出足にも影響する。最終日に、16万人という目標に到達するのか、そして前年実績を上回ることができるのか、という点でも、緊張感があったのだろう。
そして、これまで大きな事故がなく会期を進めてきたなかで、最終日も安全に終えたい、といった観点でも、緊張感もあったはずだ。「今日の午後5時に閉幕したときに、万歳をすることができるのか、それとも首を傾げて、しょげているのか。どちらになっているのだろうか」と、冗談混じりの言葉で自問自答をしてみせる。
だが、午前10時を過ぎて、来場者が訪れ始めると、鹿野エグゼクティブプロデューサーも、緊張している暇がないほどの慌ただしさとなった。
開場後から多くの来場者が訪れたのに加えて、この日も、多くの政府関係者が来場した。分刻みの視察に対応するために、主催者側も対応に追われた。連日にわたって報道されているCEATEC JAPANの盛り上がりぶりが気になって、急遽、来場することを決めた政府関係者も多かったようだ。また、3人もの大臣が訪れたことで、視察に行くことを決めた各省庁の関係者も少なくなかった。
初出展となったコマツの担当者は、「これだけ多くの政府関係者が訪れるのが、他のイベントにはないCEATEC JAPANならではの特徴であることを感じた」とする。最終日前日になって、視察の申し込みをする政府関係者が多かったため、ブースで迎える出展者各社も、その対応に追われる忙しい最終日になった。
一方で、これまでは、電機大手が出展するホール1~3までのエリアに来場者が集中するという傾向が見られたが、今年のCEATEC JAPANでは、IoTタウンや、部品メーカーが出展するホール4~6に来場者が集中するという新たな傾向が見られたのも特徴的だった。
昨年から導入しているヒートマップも、それを示していた。IoTタウン周辺も、混雑を示す赤いマークが多くたくさんついていた。
IoTタウンに3回目の出展となった三菱UFJフィナンシャル・グループでは、「昨年までは、なぜ、三菱UFJフィナンシャル・グループが出展しているのかと聞かれることも多かったが、今年はそんな声は聞かれなかった。むしろ、『昨年はこんな展示をしていたが、今年はどうなのか』といった声が聞かれた。また、様々な形で共創したいという提案が多かった。今年も出展した成果はあった」と、この4日間を振り返ってみせた。
主催者や出展者に共通して感じたのは、会期を通じて、「共創」という言葉があちこちで使われていたことだ。主催者側では、3年前から「共創」という言葉を使っていたが、今年は、基調講演や展示会場でも「共創」という言葉が頻繁に使われていたのが印象的だった。
その点でも、名実ともに、「共創」のための展示会というスタイルを確立したといえそうだ。
午後5時、閉場24時を目指し、始まる撤収
午後5時になり、CEATEC JAPANは幕を閉じた。会場の「蛍の光」の音楽にあわせて、来場者は出口に向かっていく。来場者がいなくなったブースで、出展者各社は、最後の終礼を行ったり、記念撮影を行ったりといったシーンが見られていた。
だが、ここから撤収作業が始まることになる。
撤収作業が完了するまでに残された時間は、約7時間。それまでに、すべてのものを撤収し、床にはネジや小さなゴミまでも残さない状態にまで戻さなくてはならない。
各ブースでは、展示品の梱包を開始。同時にカーペットの撤収作業が開始され、通路を撤収用の機材などが移動しやすいようにした。
こうした作業が進むなか、撤去作業を行う人たちが南側のゲート前で待機していた。午後5時15分には、このゲートが開いたが、その前はマラソンレースのスタート前さながらの様相で、撤収を行う人たちがゲートが開くのを待っていた。場内アナウンスにあわせて、撤去作業を行う人たちが展示会場のなかに入り、撤収用の器材を持ってそれぞれに担当するブースに向かっていった。ぼーっとしていると押し流されそうな勢いだ。
さらに、閉幕からわずか30分後の午後5時30分にはブースへの電源供給が終了。華やかなブースの電飾が消えた。同時に、ブース横の鉄板を開けて、電源ケーブルの撤去作業もはじまった。
展示物などの必要なものが撤収されると、今度は、ブースの解体が始まる。木で作られた不要な造形物は、そのまま回収車で破壊したり、大きなハンマーで壊したり、板状に処理して、トラックに乗せられて搬出されたている。こうした造形物が、わずか4日間で役目を終えてしまうのはもったいない感じもする。
また、金属製やガラス製の材料は再利用できるように、梱包されて撤収作業が行われるものが多い。
さらに、大規模ブースを構成するフレームの解体作業は、フレームを作ったときとは逆の工程で作業が進められることになる。リフターやクレーン車が再登場して、フレームを降ろして、解体をしていくことになる。
閉幕から4時間を経過した午後9時を過ぎると、展示ブースはかなり片付いてきた。そこまでくると、今度は大型クレーンで、タペストリーの撤収が開始される。
ここからは、最後の清掃作業だ。人手でブルームを使ったり、改良したフォークリフトを使って、ゴミを集め、それを回収車が回収していくという人海戦術だ。
さらに、細かいゴミを回収するクルマが走り出して掃除を始め、そのあとは、人が端から端まで、すべての床を確認しながら、細かいゴミを取る。最終的には、人の目で、ゴミを細かくチェックするから、ネジすら落ちていない、きれいな形で、次の展示会へと会場を受け渡すことができるのだ。
CEATEC JAPANの主催者展示が行われたホール4は、午後10時30分にはほぼ撤収が完了。続いて、各ホールの撤収作業も完了した。
日付が変わって、20日午前0時30分に、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、総合管理センターに鍵を返しに訪れた。
総合管理センターの担当者が、すべての鍵が揃っていることを確認。それと引き替えに、鍵が返却されたことを記した書類を受け取った。これで、幕張メッセ総合管理センターに、会場を返却したことになる。
このとき、CEATEC JAPAN 2018のすべてが終了した。
最終日を終えて「安堵」そして……
すでに深夜であったが、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、快く最後の取材に応じてくれた。
725社/団体が出展したCEATEC JAPAN 2018を終えた鹿野エグゼクティブプロデューサーが口にした最初の言葉は「安堵」だった。「会期中、事故もなく、来場者および出展者から、大きなお叱りを受けるともなく、CEATEC JAPAN 2018を終えることができた。多くの方々に感謝をしたい」と切り出す。
午後7時30分には、報道関係者向けに、リリースの形で来場者数の速報値が発表された。4日間の来場者数は15万6063人。目標の16万人は下回ったが、前年実績を3977人上回った。一日あたりの平均来場者数は3万9016人と歴代5位の水準にまで回復した。
「16万人に到達しなかったのは残念だったが、業界の枠を超えた新たな出展者、新たな来場者による展示会として、多くの人たちに盛り上げていただけるイベントになったことは評価したい」と総括した。最終的な集計を待たないと来場者の詳細なプロフィールは明らかにならないが、事務局では、過去2年間と同様に3割以上が初めてCEATEC JAPANに来場した人ではないかと推測している。
3年連続で出展企業が増加し、来場者も増加している。そのモーメンタムを維持できたことは評価できる結果だったといえよう。
そして、そのなかで、CEATEC JAPAN史上初となる3人の現職大臣の視察や、政界関係者の相次ぐ来場という成果も生み出した。これもCEATEC JAPAN 2018の新たな成果だといえる。「3人の大臣をはじめとする、政府関係者の方々と話をすると、政府の考えや方針と、CEATEC JAPANの方向性に違いがないということが理解できた。また、政府関係者が、CEATEC JAPANに対して強い関心を示し、そのコンセプトを深く理解していただいていることにも自信を持った」とする。
今年の来場者数から得たもの
もうひとつ、来場者数の推移から、鹿野エグゼクティブプロデューサーは手応えを掴んだものがあった。それは初日の来場者数だ。
これまでのCEATEC JAPANは、初日から徐々に来場者数が増加していたが、今年は2日目の来場者数が初日の来場者数に比べて減少した。これを「2日目の来場者数が落ちた」と判断するのではなく、初日に想定以上の来場者が訪れたと判断すれば、捉え方は変わってくる。
実際、会期を通じて、前年に比べて増加した来場者数は3977人。それに対して、初日の来場者数は前年比3953人増。つまり、初日の増加分が、そのまま会期全体の来場者数の増加につながっていると見ることもできるのだ。CEATEC JAPAN 2018として、最も象徴的であり、最も大きな仕掛けを行ったのが開催初日。1000人が入る会場が満席になった4つの基調講演を通じて、CEATEC JAPANが産業の枠を超えたCPS/IoTの総合展であることを示してみせたからだ。
一方、ほぼ前年並みとなった2日目以降は、初日ほどの大きな仕掛けが見当たらなかったというのも事実だ。「来場者の関心を捉えた企画を用意できれば、確実に来場者を増やすことができるという手応えを掴んだ。裏を返せば、それがなければ、中身を変えても来場者が増えない。企画のテーマをしっかりと作り、それを実行する力が問われている」と振り返る。
一方、出展者の展示内容の変化にも言及する。ここも、手応えを感じている部分だ。「CPS/IoTの総合展となってから、ソリューション展示が増加した結果、ブースでの説明が増える傾向にあったが、今年は、同じソリューション展示でも、体験型の展示が増加した。それは、多くのメディアでも指摘されている。これも新たなCEATEC JAPANの姿だった」とする。鹿野エグゼクティブプロデューサーは、「CEATEC体験」という言葉を使い続けてきたが、それが、各社の展示そのものにも具現化されたといえよう。
また、会期中を通じて、次のCEATEC JAPANに対する要望が増えているという。これも、家電見本市として衰退していたときにはなかった動きだ。出展者や来場者からの期待が高まっていることの裏付けでもある。
自己採点は「70点」、「やらなくてはならないことがたくさんある」
そこで、鹿野エグゼクティブプロデューサーに、CEATEC JAPAN 2018の自己採点をしてもらった。
「いいところ、悪いところを含めて、総合点は70点」と鹿野エグゼクティブプロデューサー。「プレイベントや基調講演など、仕掛けたものは、成果以上のものもあり、99点かもしれない。だが、それでも総合点が70点ということは、違うところでは50点にまで至っていないことの表れ」とする。反省材料は、来年の改善に生かしていくという。
幕張メッセ総合管理センターに、会場の鍵を返してから、わずか30分しか経過してないのに、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、「来年に向けての期待が膨らんでいる」と語りはじめた。
スタッフが携行したメモには、数多くの気づきと課題が記されている。
「やらなくてはならないことがたくさんある。すぐに次に向けて、スタートを切らなくてはならない」と語りながら、「来年は20周年の節目であり、それをきっかけに新たなことにも挑戦したい」とする。今年以上に、日ごとに明確にテーマを設定し、そこに的確な企画を立案することをベースに考えるという。
そして、海外についても、「今年は、ゼロから一歩を踏み出した」と表現し、来年の注力する重点課題のひとつに位置づける。実際、今年のCEATEC JAPAN 2018でも、海外からの来場者数は、極端に増加しているわけではないが、海外からの出展者や来場者にとって、CEATEC JAPANがビジネスマッチングの場として活用できるのではないか、という期待感を持たせることまでは成功したようだ。
「以前のCEATEC JAPANには、日本に来れば、最新の技術とデバイスが見られるという意味合いがあった。だが、日本のIT/エレクトロニクス産業の変化に伴って、CEATEC JAPANも変化した。いま重要なのは、日本の企業とのビジネマッチングを狙っている海外企業にとってメリットを感じてもらえたり、日本の技術を海外に広めていくために有益となるイベントになるということ。来年以降のCEATEC JAPANでは、今年の一歩を次の歩みにつなげていきたい」とする。
もうひとつ、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、これまでにCEATEC JAPANに出展していながらも、ここ数年、出展を取りやめている家電メーカーや部品メーカーへのアプローチを、来年以降の課題にあげる。
CSP/IoTの総合展となったことで、従来の家電見本市時代に出展していた一部企業が、出展を取りやめているのも事実だ。だが、その一方で、引き続き出展を続けている大手家電メーカーのなかには、展示内容を課題解決型の展示や、体験型の展示へと変化させ、CEATEC JAPANを訪れる新たな来場者から高い関心を集めている。また、業界の枠を超えた企業やベンチャー企業、海外企業とのビジネスマッチングの成果も生まれている。
「家電メーカーや部品メーカーを取り巻く環境は大きく変化している。家電見本市時代に出展をしていた家電メーカー、部品メーカーにとっても、CPS/IoTの総合展として3回目を経過したCEATEC JAPANは、改めて活用が期待できるイベントとして、素地が整ってきたといえるのではないか」
たとえば、家電製品の展示をみても、CEATEC JAPAN 2018では、家電を数多く売るための展示ではなく、その家電を活用しながら、家庭のなかの課題をどう解決するのか、そのためには協創できる領域はなにか、つながることでなにができるのかというケースが増えていた。
「出展者の多くが、家電見本市というイメージを払拭した展示を行っていた。さらに、建設機器分野でIoTの先進企業であるコマツと、家電を中心としたAIoTを推進するシャープが、隣同士のブースで出展しているのを見たり、ローソンが様々なテクノロジーやデバイスを活用することで次世代のサービスを提供しようとしていることを見て、来場者のなかには、異業種企業の出展に違和感があると捉えるよりも、IoTでつながっていることを実感してもらえた人も多いのではないか。IoT家電の広がりだけでなく、建設機械や工作機器、小売、金融など、様々な業界がIoTでつながってきている」とする。
次のCEATECは20年目、視線は「次の飛躍」に
2000年に開催された第1回のCEATEC JAPANには、家電見本市として、家電メーカーや部品メーカーが数多く出展した。だが、20年目を迎える2019年のCEATEC JAPANは、家電メーカーや部品メーカーが、第1回目とはまったく違う形で、CEATEC JAPANを活用してほしいと考えているという。
「20周年の節目ではあるが、回顧型のイベントにするつもりはない」と、鹿野エグゼクティブプロデューサーは語る。「社会課題の解決や、将来の成長に向けて、来場者が何を求めているのかといったことを捉え、出展者、来場者にとっても、新たなビジネスオポチュニティにつながったり、どうやって課題を解決するのかといったことがわかるものにしたい」とする。
CEATEC JAPAN 2018を終えて、最後に鹿野エグゼクティブプロデューサーに、CEATEC JAPAN 2018を総括した言葉を聞いた。
口にした言葉は、「飛躍」。
最後に一番力強い言葉が聞かれた。脱・家電見本市を打ち出し、CPS/IoT総合展にシフトしてから3年。その手応えを掴み、来年に向けて飛躍していく姿勢が感じられた。だが、その一方で、「脱・家電見本市」は達成できたが、「CPS/IoT総合展」の実現はまだまだというのも、今年の総括である。
今年の成果を来年にどうつなげるか。
鹿野エグゼクティブプロデューサーの視線は、すでに来年に向かっている。
「早速、来年に向けた会議を行う」と語り、鹿野エグゼクティブプロデューサーは、灯りが消えた幕張メッセを後にした。
時計の針を見ると、10月20日午前1時30分。密着取材チームも幕張メッセを後にした。長くて、短いCEATEC JAPAN 2018が終了した。
来年のCEATEC JAPANは、20年目の節目を迎える。
果たして、どんなCEATEC JAPANになるのだろうか。密着取材を通じて感じたのは、最後に鹿野エグゼクティブプロデューサーが発したように、今年のCEATEC JAPANは、次の飛躍につながるCEATEC JAPANであったということだった。
「CEATEC JAPAN 2018」イベントレポート記事一覧
- 「CEATEC JAPAN 2018」いよいよ開幕
- 「Society 5.0」の最新動向が分かる解説冊子を無償配布
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