INTERNET Watch 30周年

【2018年のINTERNET Watch】「漫画村」被害が深刻化、海賊版サイトの「ブロッキング」を求める動きに。IEEE 802.11axを「Wi-Fi 6」と呼ぶことが決まる

2018年の出来事

 2018年(平成30年)、1月に「コインチェック事件」。国内最大規模の仮想通貨(暗号資産)取引サービスを提供していたコインチェックがサイバー攻撃を受け、仮想通貨「NEM」580億円相当が不正流出。9月には、仮想通貨取引所の「Zaif」でも不正アクセスによって約70億円相当の仮想通貨が流出する事件が発生した。3月29日、前年に予告されていたとおり、Yahoo! JAPANのディレクトリ型検索サービスが終了。5月、EUの「GDPR(一般データ保護規則)」が施行された。

 2018年は気象・自然災害の脅威を痛感した年だった。6月18日、最大震度6弱の大阪北部地震が発生。7月の西日本豪雨では死者200人以上となる事態に。9月に関西を直撃した台風21号では、関西国際空港の滑走路などが高潮で冠水、連絡橋にタンカーが衝突し、空港が一時孤立した。9月6日に発生した北海道胆振東部地震では最大震度7を記録し、土砂崩れが広い範囲で発生。北海道全域で電力が止まる大規模停電「ブラックアウト」も起こった(IIJが後日、インターネット事業者のそのときの災害対応について現場の体験談を報告している)。

 記録的な猛暑に対して、気象庁は「災害級の暑さ」として注意を呼び掛け。こうした気象・自然災害はもとより、仮想通貨流出や、「日大アメフト反則タックル」などスポーツ界でのパワハラ問題、財務省の決裁文書改ざん問題が発覚したことなども反映し、2018年の「今年の漢字」には「災」が選ばれた。

 歌手の安室奈美恵さんが9月に引退。DA PUMPが「U.S.A.」のダンス動画で再ブレイク。前年に日本上陸したショート動画アプリ「TikTok」もこの年、若年層を中心に大きく利用を拡大した(2018年末で国内のMAUは950万人以上に上っていたとのこと)。映画「カメラを止めるな!」が口コミなどから人気に火が付き、低予算で制作されたタイトルとして異例の大ヒットに。

2026年2月に30周年を迎えたINTERNET Watchは、1996年2月に有料メールマガジンとして創刊し、1997年1月にウェブサイトを開設した。ここでは2026年の視点から2018年の話題を10本取り上げ、当時を振り返る。(1996年からの振り返り一覧

1. 「漫画村」など海賊版サイトへの「ブロッキング」の是非で議論

怪盗キッドも「漫画村」「Anitube」は許さない!? 「海賊版サイト見ないで!」コナンらが若者へ呼び掛け

 「漫画村」などの海賊版サイトに危機感を募らせていたコンテンツ権利者団体が、アニメの人気キャラクターを起用した異例の啓発活動を展開するに至った背景について伝えたインタビュー記事。甚大な権利侵害被害を受け、手の打ちようがなくなっている窮状も語られている。

 こうしたコンテンツ業界側からの働き掛けもあって、政府も、海賊版サイト対策としてのブロッキングの導入が適当だとする方針を提示。しかし、ブロッキングは通信の秘密との兼ね合いもあり、著作権侵害サイトに適用しようとする動きに対して、通信業界団体などから反対する声も上がり、議論となった(一方で、NTTグループは実施することを早々に表明した)。

 本誌では、「海賊版サイトのブロッキングはなぜ無理筋なのか?」を訴えるシンポジウムのレポートや、ブロッキングの技術的な仕組みおよび問題点についての解説記事なども掲載している。

 なお、こうした議論が進行していたさなか、問題となっていた「漫画村」は閉鎖(翌2019年には運営者が摘発された)。同じくブロッキング対象として名指しされていた「Anitube」「MioMio」もアクセスできない状況になった。

 2026年の現在、今度は違法オンラインカジノ対策として、ブロッキングも含めたアクセス抑止策についての議論が行われている。

2. コインマイナー設置サイト運営者が摘発された「Coinhive事件」

コインマイナーをサイトに設置して犯罪になる条件とは? 警察庁と神奈川県警に問い合わせてみた

 サイト閲覧者のPCの計算処理能力を利用して仮想通貨(暗号資産)をマイニングするツール「Coinhive」を設置したサイトの運営者が、不正指令電磁的記録(ウイルス)供用などの容疑で相次いで摘発された。しかし、法解釈が十分に定まっていないとして、摘発を疑問視する声も上がっていたことから、「コインマイナーをサイトに設置して犯罪になる条件」について、INTERNET Watchで警察庁と神奈川県警に問い合わせた結果を伝えた記事。

 このほか、神奈川県警に情報開示請求を行った人が受け取った回答結果ついての記事もやじうまWatchで掲載している。

 この「Coinhive事件」については翌2019年、日本ハッカー協会による裁判費用の寄付を募る動きや、不正指令電磁的記録罪について考えるセミナーの開催といった展開も。そして2022年1月、最高裁が二審の有罪判決を破棄し、逆転無罪判決が言い渡された。

3. 旧Symantecの不適切なSSL/TLS証明書問題で混乱

旧Symantec系SSL/TLS証明書、3月15日以降順次、Google Chromeで失効

 旧Symantec傘下の認証局が発行したSSL/TLS証明書において、適切な確認プロセスを経ていないものが含まれていたことが発覚。Google Chromeにおいて段階的に旧Symantecの証明書の信頼を停止する措置に踏み切る事態となった。旧Symantecの証明書といえば、旧VeriSignの流れをくむ大手であり、導入サイトも多い。サイト運営者は自身のサイトの証明書の確認や更新・差し替えの対応を迫られたほか、「Symantecの証明書はなくなる」といった誤解もあって混乱した。

 なお、旧SymantecのSSL/TLS証明書事業は2017年にDigiCertに買収され、同年12月1日以降はSymantecブランドの証明書もDigiCertのインフラから発行される方式に移行していた。DigiCertによると、Google Chrome 70において全ての旧Symantec証明書の信頼が停止された2018年11月までに、500万以上の証明書がDigiCertの証明書へ移行を完了したという。

4. 荷物の不在通知を装ったSMSが出回る。偽の佐川急便アプリへ誘導する手口

荷物の不在通知を装ったSMSに注意! 端末の情報を盗み、遠隔操作も可能な偽の佐川急便アプリ「sagawa.apk」ダウンロード促す

 荷物の不在通知を装ったSMS(ショートメッセージサービス)で送られてくる短縮URLをクリックすることで、佐川急便の偽サイトに誘導され、スマートフォンの情報を窃取したり遠隔操作したりする不正Androidアプリのインストールを促される手口について、2018年1月に報じた記事。1年を通じて注目を集め、INTERNET Watchで2018年に最も読まれたニュース記事となった。

 同様の手口はその後も継続的に確認され、12月には“ヤマト運輸版”まで登場した。

5. 「ビットバレー」が復活。渋谷から3駅先には「五反田バレー」も

“ビットバレー”復活の狼煙を上げるカンファレンス「BIT VALLEY 2018」開催

 「ビットバレー」とは、インターネット関連企業の集積地として注目されていた1999年ごろの渋谷を、米国のハイテク企業の集積地である「シリコンバレー」風に言ったもの。「渋い(苦い)谷」を英単語にした「bitter valley」と、デジタルデータの単位である「bit」が語源となっている。それから20年近く経った2018年、カンファレンスイベントの名称に冠されて復活したかたちだ。

 企画したのは、渋谷に拠点のあったサイバーエージェント、GMOインターネット、ディー・エヌ・エー、ミクシィが立ち上げたプロジェクト「SHIBUYA BIT VALLEY」。IT業界のエンジニアを目指す学生や若手エンジニアに向けて「ITエンジニアとして働くことの面白さを伝えたいとして」として同イベントの立ち上げに至った経緯なども、同プロジェクトのメンバーに取材している。

 同イベントは規模・対象者を拡大して翌2019年にも開催。その後、コロナ禍により2020年・2021年はオンラインイベントとして開催されている。

 なお、同じく2018年には、JR山手線で渋谷から3駅先の五反田のエリアに拠点があったfreeeなど6社によって「一般社団法人五反田バレー」も設立されている。五反田には当時、スタートアップ企業が増加しており、ビットバレーに代わるIT企業の新たな聖地になるべく活動を開始した。

6. 「Wi-Fi 6」こと「IEEE 802.11ax」普及の足音。国内初の対応ルーターも発売

802.11axの呼称が「Wi-Fi 6」に、11acは「Wi-Fi 5」、11nは「Wi-Fi 4」

 次期Wi-Fi規格の「IEEE 802.11ax」について、Wi-Fi Allianceが対応製品の認証プログラムの名称を「Wi-Fi CERTIFIED 6」とし、2019年より開始すると発表したことを伝えた記事。エンドユーザーにとってIEEEの規格名では新旧などが分かりにくいことを考慮し、シンプルなナンバリングによる呼称が取り入れられ、さかのぼって「IEEE 802.11ac」は「~5」、「IEEE 802.11n」「~4」とされた。その後、「Wi-Fi 6E」や「Wi-Fi 7」「Wi-Fi 8」など、現在ではこちらの呼称が一般に用いられているのは周知のとおり。

 2018年当時、Wi-Fi製品としてはIEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)対応製品が主流を占めていた時期で、IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)についてはまだ標準化作業でドラフト版の策定などが進められていた段階。本誌ではIntelQualcommBroadcomの対応チップのニュースなどを報じていたほか、連載『期待のネット新技術』でも『「IEEE 802.11ax」対応チップベンダーとクライアントの製品動向』として解説している。

 一方で、KDDIがこの年の3月に発表した「auひかり ホーム10ギガ」の加入者宅用にIEEE 802.11axのドラフト版に対応したゲートウェイ機器を提供することが明らかに。また、12月には、国内で発売される製品として初だというIEEE 802.11ax対応ルーターがASUSから登場し、その「圧巻のスピード」について連載『清水理史の「イニシャルB」』のレビュー記事が伝えている。

7. Wi-Fiセキュリティ強化へ、暗号化通信の新規格「WPA3」登場

Wi-Fiは将来的に「WPA3」必須に、Wi-Fi Allianceが新たな認定制度をスタート

 Wi-Fi Allianceからはこの年、もう1つ重要な動きがあった。1月にWi-Fiの暗号化通信規格「WPA2」を拡張するWi-Fiセキュリティ機能として「WPA3(Wi-Fi Protected Access 3)」を発表。6月より「Wi-Fi CERTIFIED WPA3」などの認定プログラムを開始した。WPA3には、個人向けに提供される「WPA3-Personal」と、企業向けに提供される「WPA3-Enterprise」がある。

 WPA2については2017年、暗号鍵交換手順の「4-way Handshake」に起因する脆弱性が問題となっていた。事前鍵共有(PSK:Pre-shared Key)方式だったWPA2-Personalに対し、WPA3-Personalでは“Dragonfly”鍵交換とも呼ばれるハンドシェイク方式「SAE(Simultaneous Authentication of Equals)」を採用。鍵を推測する攻撃が難しくなっているという。このあたりの詳細は、『期待のネット新技術』の連載記事で解説している。

8. KDDIも最大10Gbpsサービス、「auひかり ホーム10ギガ」提供開始

KDDI、最大10GbpsのFTTHサービス「auひかり ホーム10ギガ」、3月1日受付開始
PCから回線までフル10Gbpsの接続はやっぱり速かった! 自宅インターネット環境を「auひかり ホーム10ギガ」に変更

 KDDIが2月、個人向けFTTHサービスとして、最大通信速度が上り/下り10Gbpsの「auひかり ホーム10ギガ」と、上り/下り5Gbpsの「auひかり ホーム5ギガ」を発表。受付を2018年3月1日より開始した。10ギガの回線には10G-EPON(IEEE 802.3av)規格を採用、また、加入者宅に設置するゲートウェイには、有線LANに10GBASE-T、Wi-Fiは当時の最新規格であるIEEE 802.11ax(ドラフト版)に対応する機器が提供されることになった点も注目のポイントだった。

 最大10GbpsのFTTHサービスとしては、「NURO 光」がすでに2015年から提供しているが、最大10Gbpsは下りのみで、上りは最大2.5Gbpsだった。しかし、「auひかり ホーム10ギガ」が発表されると、その翌月の2018年3月、NURO 光も上り/下りともに最大10Gbpsの新プランを発表。あわせて、上り/下り最大6Gbpsという新プランもラインアップして対抗した。

 NTT東西による最大10Gbpsのサービス「フレッツ 光クロス」が提供開始されるのは、それから2年後の2020年4月のことだ。

9. 集合住宅内の既存配線も高速化を――「G.fast」への期待

既存の電話回線で最大1Gbpsのモデムシステム、NECが「G.fast」対応のVDSL装置を発売

 電話回線用の既設メタルケーブルを利用して、上り/下り合計で最大1Gbpsの通信が可能になる「G.fast(G.9701)」規格のVDSL装置をNECマグナスコミュニケーションズが発売することを伝えた記事。集合住宅では、光回線のサービス自体は最大1Gbpsの「フレッツ 光ネクスト」を契約していても、建物内では100Mbps以下の低速なVDSL接続となっている加入者も多いことから、地味な話題ながら読者からの注目は大きかったようだ。

 KDDIも、前述の「auひかり ホーム10ギガ」のような10Gbpsサービスを提供開始する一方で、G.fast規格のVDSL接続により下り664Mbps/上り166Mbpsを実現する集合住宅向けサービス「auひかりマンション タイプG」も投入もしている。

 現在、フレッツ光を提供するNTT東西では、集合住宅を対象として、旧来の100Mbps以下のVDSL配線やLAN配線を光配線に移行してもらうためのサポート策も展開している。とはいえ、既存の集合住宅にとって光ファイバー敷設の経路を新たに設けるということはハードルが高い。既存の電話回線を利用して高速化できる装置についての記事は、近年でも「G.hn」規格の製品など、関心が高い話題の1つとなっている。

10. NEC「Aterm」でもついに「IPv6 IPoE」対応製品を発売

「Aterm」がついにIPv6 IPoEに対応! さらにNEC独自の謎技術「IPv6 High Speed」によりIPv6の通信速度を2~3倍高速化へ

 フレッツ 光ネクスト回線において通信速度の向上が期待できるとして注目されるようになった「IPv6 IPoE」方式の接続。同方式に対応するWi-Fiルーターはすでにバッファローやアイ・オー・データ機器から発売されていたが、2018年6月、NECプラットフォームズの「Aterm」シリーズでもついに対応製品が発売された。IPv6の通信速度を高速化する独自技術「IPv6 High Speed」も実装するということで話題となった(同様の機能としてはアイ・オー・データ機器も翌2019年、IPv6 IPoEを4.19倍高速化するという「IPv6ブースト」を発表している)。

 この年、一般向けに発売されるWi-Fiルーター新製品では軒並み「IPv6 IPoE」対応を掲げるようになった。エレコムも6月、同社初のIPv6 IPoE対応Wi-Fiルーターを発売。これら国内メーカーのほか、Synology製のWi-FiルーターでもファームウェアのアップデートでIPv6 IPoEに対応した。

 ISP各社も、IPv6 IPoE方式をアピールするインターネット接続サービスが続々投入。IPv6 IPoE接続のネットワークを運用・提供するVNE事業者5社によって、IPv6 IPoEの利用を推進する任意団体「NGN IPoE協議会」も3月に設立されている(同協議会はその後、2020年に「一般社団法人IPoE協議会」となった)。