【連載】 【編集部から】 ●AmazonとGoogleの契約が生み出すインターネットの新しい世界
契約はこんな感じになっている。 (1) Amazonのプレスリリースによると、Googleの提供する検索エンジンは、Amazonが自社サイト内で使っている独自の検索システムをリプレースするわけでなく、補完の役割を果たすようだ。たとえば音楽CDを探しているユーザーが、チケット販売会社のサイトを検索エンジンから見つけたりするようなケースを想定している。 この契約で、両社はどれだけの利益を上げることができるようになるのだろう? 契約にはAdWordsの提供が含まれているから、ユーザーがこの広告リンクをクリックするたびに、両社にはクライアントから広告収入が入ってくることになる。そしてGoogleにとっての大きなメリットは、Amazonというビッグネームと組み、巨大なページビューを稼ぐことによって、同じ広告サービスの競争相手であるOvertureよりも高い値段の広告料金を提示できるようになることだ。一方、Amazonにとっても、今までの同社のビジネスにはなかった新しい収入が見込めるようになる。 僕が興味を持っているのは、両社の日本での動向だ。米国の法律では、Google AdWordsや、Overtureの「Sponsored Search」のような広告型検索エンジンは、表示されている検索結果が広告であることを明示しなくてはならない。そうでないと、消費者がミスリードされてしまうからだ。だからAmazonの新しい検索結果には、「sponsored links」といった種類の表示が掲げられるようになるはずだ。
さて、この米国でのAmazonとGoogleの契約は、最近のAmazonのビジネスの進め方を象徴している、という指摘もある。つまり、アクセスしてきたユーザーを、他の小売店に誘導するというモデルのことだ。さらに言えば、Amazonはリテールを辞め、リテール業者向けのプラットフォームビジネスへと転換しようとしている、という見方もあるようだ。だから典型的な小売店舗のように、商品を選んでそれを販売するという方法を採る代わりに、Amazonは他のサイトでユーザーにお金を落としてもらうために誘導する、という手法を導入しようとしている。
両社の契約がこの時期に行なわれたことは、インターネット広告の置かれている状況を浮き彫りにしているようにも見える。つまりAdWordsのような検索結果に埋め込まれた広告――広告型検索エンジンは、バナー広告よりもずっとずっと効果的になりつつあるということだ。結果的に、もともとは検索エンジン専業だったはずのGoogleは、いつの間にかインターネット広告業界の最大手の一角に食い込んできている。ほんの数年前まで、伝統的な広告代理店の大半は、彼らが持っている人脈や営業力といった「オフライン」の力が、オンラインのインターネット広告の世界でも支配的な力を保てると思いこんでいた。実際、彼らがクライアントにバナー広告を売り込むことで、しばらくの間はそうした広告代理店にインターネット広告市場は支配されていた。
●Microsoftが動く!? Microsoftは最近、MSNの検索エンジンを強化することを表明している。そんなあたりから、マイクロソフトがGoogle AdWordsやOvetureのSponsored Searchのような、広告型検索エンジンを始めるのではないかという憶測が広がっているようだ。しかしMicrosoftはこれを否定している。MSNと提携しているOvetureは、売り上げの3分の1をMSNから得ていて、近々韓国のMSNとも新しい契約を結ぶという発表もしている。 しかしMicrosoftが検索エンジンを強化し、R&Dに時間とカネを投下すると言ってるということは、つまり自社開発でことを進めようとしているのか? あるいはひょっとしたら、Googleのような検索エンジンを買収しようと考えている可能性もある。この話がもう少し進むと、おもしろいことになりそうなんだけれど……。 Googleの良きライバル、日本に上陸 Googleに匹敵する検索能力を持つといわれている「FAST」(Fast Search & Transfer)の検索エンジンが、ひょっとしたら日本の検索の主流に躍り出るかもしれない。ポータルサイト「goo」を運営しているNTT-Xが、画像や動画、音声ファイルなどを扱う新しい「マルチメディア検索」にFASTのエンジンを使うと発表したからだ。たぶんFASTのエンジンを初めて使う一般ユーザーは、みんなその素晴らしさに驚くんじゃないだろうか。このエンジンが日本で大きなシェアを得るようになったら――と期待したいところ。ちなみにFASTはノルウェーの会社で、検索部門が最近Overtureに買収されているのは、この連載第1回でも触れたとおりだ。
(2003/4/08) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚] |
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