【連載】 第40回 デスクトップ戦争が熱くなってきた! ●デスクトップ戦争のもたらすもの MicrosoftとGoogle、Yahoo!の間で続いている検索エンジンの技術開発競争は、ますます激化している。でもこれは、検索エンジンのユーザーにとっては歓迎すべき事態といえる。何しろ、進化した使いやすい検索テクノロジーが、以前にも増してどんどん登場してきそうな雲行きだ。 Pandia Search Centralはトータル検索(Total Search)という言葉を使っていて、それは3つのパートから構成されると説明している。
そして3番目のデスクトップ検索は、今やたいへん重要な意味を持ちつつある。重要というのは、検索エンジン企業の戦略上、重要という意味だ。 どうしてデスクトップ検索が重要なのだろう。まず第1に、特定の企業の検索エンジンを使い込んでいるような忠実なユーザー層に対して、デスクトップ検索はとても魅力的なツールになるだろうということだ。検索エンジン企業にとってはペイパークリックのキーワード広告が重要な収益源になってきているけれど、あまりにも多くの広告を集中的に並べ立ててしまうと、ユーザーに嫌がられてしまう可能性がある。ユーザーの心をきちんとつなぎ止めつつ、しかも収入を増やす方法を考えると、答はひとつしかない――キーワード広告を露出させられる場所を増やすことだ。 だから検索エンジンは、サービスのラインアップを増やそうと頑張っているのである。Googleがたいへんなパワーを投入してGmailというメールサービスを立ち上げようとしているのも、こういう理由からだ。Gmailでは、受信メールの内容に沿ったAdWords広告を表示させることができる機能を持っている。 ハードディスクの中やメールの受信ボックスの中身を検索するツールが開発され、多くの人が使うようになれば、検索企業側はキーワード広告をこれらのサービス上にも展開できるようになる。そしてGoogleはすでにデスクトップ検索の英語版ベータバージョンを一般向けにリリースしていて、ハードディスクを検索できるローカルな検索機能を、従来型のWeb検索と統合させようと目論んでいる。デスクトップ検索を早め早めにリリースし、ユーザーの心をがっちりとつかんでしまえば、他の企業のツールやサービスにユーザーが流れてしまう可能性はかなり低くなる。だからGoogleは、このツールの開発を急いでいる。
■URL ●支配か、それとも絶滅か この壮絶な戦いが開始されたきっかけは、はっきりしている。マイクロソフトが「Longhorn」とコードネームで呼ばれているWindows次期バージョンで、Web検索機能とデスクトップ検索機能を統合させると表明したからだ。 このアイデアは素晴らしい。どんなプログラム上でも、検索フォームを開けばWeb検索と同じようなかたちでパソコンの中身を検索できてしまうという機能を可能にするからだ。そしてマイクロソフトは、この機能を実現すれば、検索エンジン業界の中でも支配的な地位を得られるようになるのではないかと考えたのである。もちろん、GoogleとYahoo!をがーんと打ち負かして、ということだ。 そしてGoogleとYahoo!は、Windowsのデスクトップを何とか征服できないかと虎視眈々と狙っている。マイクロソフトがユーザーをロックインしてしまわないうちに、何とか攻め立てなければならない。 そんな状況の中で、マイクロソフトがいま抱えている問題は、同社の従来型デスクトップ検索の評判がものすごく悪いことだ。Windowsマシンで特定のファイルを探したり、Outlookのメールボックスの中から必要なメールを探そうと思っても、簡単にはできない。WindowsやOutlookやWordの検索エンジンは、そのファイルがどこのフォルダにあるのか教えろとか、どんな種類のファイルを探そうとしているのか教えろとか、あれこれ情報を要求してくるのだ。 一方、GoogleやCopernicなどの企業は、Windowsデスクトップの検索エンジンをさらに進化させ、一般的なWeb検索と同じような使い勝手を実現することが可能だということを証明して見せた。検索フォームにキーワードを入れ、エンターキーを押せば、ほら見てご覧!である。適切なファイル名やメールタイトルがリストアップされた検索結果を、Web検索であろうとデスクトップ検索であろうと、きちんと表示してくれる。もしマイクロソフトが自社のデスクトップ検索のツールを完成しきれないうちに、こうした企業のツールがデファクトスタンダードの座を奪うことになれば、彼らがマイクロソフトに打ち勝つチャンスは十分にある。 もちろんマイクロソフトも、このことは十分すぎるぐらいよく理解している。彼らは今、GoogleやYahoo!と勝負できるようなWeb検索を開発しつつある。また最近、Outlookのメールボックスを効果的に検索できる秀逸なアドオンプログラムを開発しているLookout社も買収している。 Yahoo!もまた、この「トータル検索戦争」に参戦している。同社は最近、Staba Labsという企業を買収した。Stata Labsはメールの本文と添付ファイルを検索できるアプリケーション「Bloomba」を販売している企業。そしてYahoo!はこの企業を買収したものの、Bloombaの販売を続ける意志はないようで、Stata社の技術者たちはYahoo!検索エンジン部門に組み込まれつつあるようだ。要するに、Bloombaの技術をデスクトップ検索の開発に生かそうとしているのである。Stata社の買収は、デスクトップ検索の開発のための大きなステップとして位置づけられているようだ。 2006年にリリースされる予定のWindowsの次期バージョンには、トータル検索ソリューションは組み込まれないという話もある。要するに、マイクロソフトはWeb検索とメール検索、ファイル検索という3種類の方法を統合するのに苦労しているということらしい。その一方で、同社はデスクトップ検索の試験的なバージョンをこの秋にリリースするということもアナウンスしている。だから完成はまだ遠いとはいえ、徐々にゴールに近づきつつあるというのは間違いないようだ。 ●GoogleがMicrosoftのゲームを躍る GoogleはMicrosoftの競争モデルを真似していて、ビル・ゲイツもそのことはよく理解しているはずだ。ゲイツにとっては、Googleがデスクトップの分野で好位置につけつつあるというこの事態にはかなり苛つくものに映っているに違いない。 その「ゲーム」は、どんな風になるのだろう。 ステップ1:Googleは秀逸なアプリケーションを作り上げて、市場のかなりの部分を専有するにいたる。競争相手を叩きのめし、Google以外の同業他社がどうなっているのか誰も気にしないぐらいの状態に持って行く。もちろん、収益の上げられるビジネスモデルも必要だけど、彼らはそうしたモデルをすでにOverture(元Goto.com、今はYahoo!が買収済み)のやり方の中に見つけている。 ステップ2:ユーザーの潜在的能力をさらに拡大していくような画期的な製品やサービスをリリースし、独占支配を揺るぎのないものにする。 ステップ3:ステップ1の繰り返し。そしてGoogleは新しいサービスやビジネスに立脚した新しいサービスを次々と投入していく。 ●Googleは何を目指しているのか Googleは、敵対しているMicorosoftやYahoo!、AOLといった他企業をたたきのめそうと考えている。これまで同社は、独自のWeb検索の分野でたいへんな成功を収めてきた。Yahoo!、MSNと争ったニュースのポータルサイトや、eBayを苛立たせたショッピングポータル、アマゾンを震え上がらせた書籍の本文検索商品検索、Yahoo!mailなどが腰を抜かさんばかりに驚いた1GBの大容量メールサービス、ブログ文化を加速させているBloggerサービス、そしてMicrosoftをぴりぴりさせているデスクトップ検索――。 そんな中で、Googleは次は何を目指すのだろうか。 同社が、Microsoftが作り得ないような新型のOS開発に乗り出すということも考えられる。もしそうしたことが成功すれば、GoogleのドリームはMicrosoftの今の現実よりも、ずっと価値のあるものになっていくということは言えるだろう。 (2004/10/28) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚]
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