【連載】 【編集部から】 ●検索エンジンを支える2つのスピリット
ここ数年、検索エンジンによって提供される広告の数が増え続けている。GoogleのAdWords広告は、世界各国のクライアントにとって、今やきわめてポピュラーな媒体になっている。OvertureやBT Looksmartも同様だ。そしてご存じのように、こうした広告型検索エンジンを提供している企業は、次のような仕組みで利益を得ている。 1. 検索結果表示ページにあるテキスト広告のリンクを、ユーザーがクリックすることで。2. 広告をYahoo!やMSNのようなグローバルなポータルに配信。 3. ページビューがずっと小さな個人サイトなどに広告を配信する。たとえばGoogle AdSenseのような感じ。 もちろんそんなことはとっくにわかっているんだけど、Webというのはとても商業的な存在だ。お金を儲けたいという強い衝動に突き動かされている大企業がWebの世界にはたくさん存在している。それはインターネットのスピリットの1つだ。 でもインターネットには、別のスピリットもある。そのスピリットは「情報は自由であるべきだ」と訴える。あるいは「ソースコードはすべてオープンソースであるべきだ」なんてことも言うかもしれない。そして「どこの国の政治家が何と言おうと、Webには国境線はない」とも訴える。でももし、アメリカ合衆国が現在の政治的路線をそのまま進むとして、そしてGoogleが今以上に公的な企業になっていけば、検索エンジンにある種の影響が出てくるんじゃないかと僕は思う。つまり、AdWordsやOvertureのようなPPC広告で表示を拒否されるような類の広告の話だ。 この影響がどのぐらい大きいのかはわからない。だがこうした可能性に言及することが被害妄想的だとは思わない。たとえばこの記事に書かれているように、アメリカ政府の管理の下で表現の自由はどんどん制限されつつあるように見える。そして検索エンジンの検索結果は以前よりずっと商業主義的になってきていて、今後、情報がフィルタリングされるようになってくる可能性は高い。そうしたイメージは否定はできないだろう。 ●第三者機関は本当に公正?この連載でも何度も紹介しているけれど、Nutchと呼ばれるオープンソースの検索エンジンは、インターネットの表現の自由を体現しようと言うプロジェクトだ。プロジェクトの目的は、他の検索エンジンを叩きのめして勝つことではない。商業的な影響を廃した検索結果を見せることで、ユーザーに検索エンジンの比較の選択肢を提供しようとしている。インターネットにおける商業主義と表現の自由のバランスをどこで保つかというのは、とても重要な問題だ。……おっと、何度もここで紹介しているので誤解されるといけないけれど、僕はNutchからオカネをもらっているわけでも、関係しているわけでもない。念のため。 Googleという検索エンジンは当初、インターネットの表現の自由を体現する存在というイメージだった。でも将来、この会社が商業主義に支配されるようになるのではないかと憂慮する声は少なくない。Googleが現在は微妙に保っている表現の自由と商業主義のバランスが、失われてしまうのではないかというわけだ。今週、Googleが無許可業者の薬品広告を排除するというニュースがあった。Googleのスポークスマンであるデビッド・クレイン(David Krane)氏は、ワシントンポスト紙の取材に「Googleは、AdWords広告で排除されるべきWebサイトと薬物の名前のリストアップを、第三者機関に委託して作成する計画だ」と語ったという。でもこの第三者機関に、何らかの政治的グループや企業などが関与する可能性はないのだろうか? あるいはこの第三者機関が、それと知らずに大手薬品メーカーの元社員を雇ってしまう可能性は? そしてまた、この第三者機関がどこかの政治家に献金していた場合は? これらは決してありえない話ではないだろう。 そして、Yahoo!やMSN、AOLといった主要なポータル企業も、同様の方法で広告クライアントを制限することを表明している。 ●政治が検索エンジンをゆがめることもある政治的な背景をちょっと見てみようか。 ご存じのように、大手薬品メーカーは自社の薬品の販売チャネルを広げるために、政府に対してロビー活動を行ない、多くのカネと時間をかけている。そしてアメリカでは販売チャネルは、インターネットに集中しつつある。もっとも効果的に販売できるからだ。そして薬品メーカーのロビイストたちは、インターネットでの薬物販売を規制しようと躍起になっているのだ。「有害な処方薬から消費者を守らなければならない」というのがお題目だけど、本音は「自分たちの販売チャネルを守るため」というところだろう。 ロビイストたちはインターネットの販売システムを調べ上げ、無許可の薬品販売サイトがクレジットカード決済を利用できないようにした。カード会社に圧力をかけたのだ。同じようなことは以前、ポルノやオンラインカジノのサイトでも行なわれているよね。さらに彼らは、検索エンジンの広告からも薬品販売サイトを排除するように圧力をかけた。 その外形的事実だけを見れば、薬品メーカーのロビイストたちがやっていることはそんなに悪いことには見えないかもしれない。無許可の薬品販売? そんな危険なことはやめさせた方がいいじゃないか、って。でもアメリカに関して言えば、たいへん重要な問題がひとつある。4,300万人もの国民が、健康保険に加入していないということだ。こうした未加入者は、できるだけ安い値段で薬品を手に入れたい。それは悪いことだろうか? たとえばアメリカ北部に住んでいる人たちは、車を走らせて国境を越え、カナダで薬を買った方がずっと安くすむことを知っている。たとえばキューバに住んでいる人たちにとっては、アメリカ製の薬を手に入れるのはものすごく難しい。たとえは悪いけれど、麻薬のディーラーがよく言うように、供給を制限したって麻薬の需要が減らないっていうのと同じことだ。 僕はこうしたアメリカのシステムが、いいの悪いのとあげつらおうとしているわけではない。言いたいのは、政治やビジネスがいかにして検索エンジンに影響しうるか、という話だ。そしてこの話は、現在の状況の中ではきわめてリアリティは高いと思う。インターネットの商業主義的なスピリットと、表現の自由のスピリットは、しょっちゅう軋轢を生んでいて、あなたのWebマーケティングの戦略にも影響を与えかねない。 だって無許可薬品販売の業者は広告型検索エンジンから閉め出されて、大量のスパムをまき散らす方法に走ってしまってるんだから。おかげで毎日、僕のメール受信箱はスパムでいっぱいだ。 (2003/12/2) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚]
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