【連載】 【編集部から】 ●Googleがblogの会社を買収した本当の理由
さて、僕が昨日読んだその記事は、Googleの共同創設者であるラリー・ページ(Larry Page)のこんな言葉を引用していた。 「僕たちが作ろうと考えたのは、検索エンジンではなかった。作ろうとしたのは、注釈を扱うランキングの仕組みだったんだ。どこかのWebページを読み終えた後、クリックすると誰かがそのページについて書いた気の利いたコメントを見ることができるといういう感じのもの。でもそういうシステムを作ろうとすると、問題がひとつ生じてくる。読者の側は、誰のどのコメントを読めばいいのかという問題だ。その問題を解決するためには、コメントを含んだWebページに対して、信用のできる評価付けをしなくてはいけない。それがページランクというわけだ。……そして僕らはすぐに、このページランクというシステムは注釈付けに使うより、検索エンジンに使う方が有効であることに気づいたんだ」 この記事は「AlwaysOn」というサイトで読むことができる。AlwaysOnは、blog運営者たちのコミュニティだ。彼らのサイトによると、メンバーは“インターネットによって作られる世界的なデジタルネットワークの技術はこれからも新たに生まれ続ける”と信じている会社役員や起業家、投資家、研究者、政府関係者たちで構成。編集方針は“起業や投資のチャンスを見つけると同時に、新しいネットワークの世界が生む社会的・政治的チャレンジについて議論すること”だという。とても前向きな考え方を持つサイトだ。 そして最近、彼らはGoogleの会長兼CEOであるエリック・シュミット(Eric Schmidt)にインタビューした。この記事がきわめて興味深い。記事の前半は、Googleの独特な会社運営スタイルについて。そして最近、彼らが手がけた企業買収と、その独自の運営スタイルが買収にどのような影響をもたらしたかについて、シュミットが答えている。 インタビューによると、Googleは一般企業とはかなり異なったスタイルで会社が運営されているようだ。会社の戦略にしろ、製品展開にしろ、意志決定を行なうのは2人の創業者か、もしくはごく少数のメンバーで構成された技術チームだ。こうしたスタイルを取ることによって、決定はきわめてスピーディーに行なわれるというわけだ。シュミットは「このスタイルがわが社の最大の強み」だと言っている。 そのスピーディーな決定が如実に現れたのが、Pyra Labsの買収だ。Googleの創設者のひとりのセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)は、誰がこのインターネットの中でオピニオンリーダーとしての役割を果たしているかを、ツールの部分にターゲットを絞って徹底的にリサーチした。それはGoogleがこれまでずっと関心を持ってきた分野でもある。そして達した結論は、明快だった。「Blogger」というblog運営サービスを提供しているPyra Labsがそうだ、ということ。Googleはすぐに買収担当チームを作り、Pyra Labsの連中に会いに行って「買収したいんだけど、どう?」と訊ねた。それで連中はGoogleの技術チームのメンバーと会い、買収は素直に決まった。Googleにとっては、これは日常業務に近い気軽な仕事だったというわけだ。 Googleは、Bloggerのようなセルフパブリッシング媒体が、人間のコミュニケーションを大きく変える次の新たな波と考えているようだ。過去にそうした大波はいくつもあった。電子メールはその先駆けだったし、電子メールを拡張してリアルタイム性を持たせたインスタントメッセージもそのひとつだった。Pyra Labsを買収したことで、彼らはこの新しい媒体に力を入れていくことになるのだろう。
●Googleはユーザーの秘密をこっそり集めている? 9.11同時多発テロ後の米国では、対テロ対策の名のもとに政府による国民の監視が強化され続けている。バイオメトリクスを使った新たな監視システムなど、ジョージ・オーウェルが描いた「ビッグブラザー」の世界を実現していると言ってもいいほどだ。その一方で、重要な情報は以前よりも隠され、国民がアクセスできない機密も増えているという。こうした米国社会の変容について、シュミットはどう考え、Googleというきわめて影響力の高いインターネットメディアが、その社会の中でどのような役割を果たしていくと考えているのだろうか。 AlwaysOnのインタビューで自らを「ジェファーソニアン」(米国の伝統的なリベラル思想を持つ者)と呼ぶシュミットは、「たとえそれが混乱を招こうとも、情報の透明性の確保が結果的にはよりよい社会を生むことになる。Googleは情報の透明性を確保させることができる」とコメントしている。たとえばある人が、自分の個人的な生活をWebサイトなどで露出したとする。そうした人は、検索エンジンに自分のサイトが登録されることで、自分が意図したものとは違う目的で個人情報を使われるという不利益を被る可能性もあるわけだ。Webで情報を発信しようという人たちは、匿名か、完全開示かという選択を常に迫られていることになる。 監視社会についても、シュミットは「こうしたことが蔓延するのは、社会にとって良い結果にはならない」と言う。「自由な社会と警察国家の境界をどこに引くかというのは、永遠の議論の対象で、結論は出ない。それなのに、テクノロジーは監視の能力をどんどん高めつつある」とも。 ところが、英国のBBCでは、しばらく前に「Googleはプライバシーを尊重しない企業だ」という内容の記事を掲載した。書いたのは、BBCワールドサービスプログラムのレギュラーコメンテーターであるビル・トンプソン(Bill Thompson)。 その記事によると、GoogleのCookieは2038年まで有効に設定され、ユーザーのIPアドレスと利用日、利用時間、ブラウザーの種類、それに検索したキーワードを保存しているという。記事は「この事実を見れば、Googleがユーザーの検索の内容を何年にもわたって蓄積しようとしているのは明らかだ」と指摘。そして「Googleはあなたが最近、妊娠を心配したのを知っているし、あなたの子供がどんな病気にかかったか、あなたの離婚裁判の弁護士が誰かも知っている」と訴え、「Google側は、同社がいっったいどんな目的でこのような情報収集を行ない、そしてこの情報が米政府などに渡されているのかどうかといった点について回答を拒否した」と書いている。 この指摘に対して、シュミットはAlwaysOnのインタビューで「そんなことはしていない。我々がやっているのはIPアドレスの記録だけで、しかもIPアドレスなんてたいていは共有されているだろう? われわれはユーザーの個人情報なんてまったく知らないよ」と強く否定している。そしてトンプソンの記事がネットで話題になり、あちこちのblogで取り上げられていることについて、「こんな記事を書いて、何てバカなヤツなんだと黙殺するのは簡単だ。でもそうした反応は間違っている。正しい反応は、もっと議論をしようよと呼びかけることだ」とコメントしている。シュミットの考え方は、ビジネスとしてはエンドユーザーの情報を蓄積し、それをマーケティングに利用する方が正しい、それができる技術的能力も持っている――しかし、ユーザーの了解も得ないでGoogleはそんなことはしない、ということのようだ。 次回も、AlwaysOnのシュミットインタビューを題材に、Googleのあり方についてさまざまに考えてみたいと思う。主なテーマは、Googleの収益モデルとムーアの法則の関係といったところかな。
※エリック・シュミットのインタビューはAlwaysOnの許可を得て使用しています。
(2003/5/13) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚] |
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