【連載】 第35回 GoogleとYahoo!の和解で、業界はどう変わる? ●GoogleとYahoo!は協力相手になっていく? Overtureから特許権侵害で訴えられ、厳しい公判を強いられていたGoogleが、裁判を和解に持ち込むことができた。今はYahoo!に買収されているOvertureは、ご存じのようにキーワード広告を最初に始めた企業だ。そしてキーワード広告を後からスタートさせたGoogle AdwordsやFindWhat、Looksmartなどが、Overtureの特許権を侵害していると以前から申し立てていた。訴えられたGoogleは、裁判を続けるのではなく自社株をYahoo!側に提供して裁判を終わらせる道を選んだのである。 Googleのプレスリリースには、こうある。「和解条件は、Overtureを子会社にしているYahoo!がGoogleに対して米国特許第6,269,361号のライセンスを与え、訴訟を取り下げる。また両社は、2000年に行なわれた合意に基づき、Googleの株を購入する権利がYahoo!に発行されている件についての争いに関しても、合意に達した」 和解の一環として、Googleは特許のライセンスの対価として自社普通株270万株をYahoo!側に与えるという。Googleの新規株式公開(IPO)は技術的問題や投資家からの不評などが原因で遅れていたが、この和解でようやく「重し」が取れることになりそうだ。 お返しにYahoo!は、キーワード広告の技術についての訴訟を取り下げるということになるわけだ。この和解で最も重要な点は、ここだ。GoogleはOvertureが持っているPPC(Pay Per Click)のキーワード広告システムの特許権を、大手を振って使えるようになる。もし仮に裁判が和解に至らず、Googleが敗訴するような事態に陥っていたら、どうなっていただろうか。Googleの年間売上げは10億ドルを超え、この95%がキーワード広告などによる収入となっている。もし敗訴してこれらの特許をまったく使えなくなっていれば、どうなっていただろうか。いや、それどころか敗訴すれば、巨額の損害賠償を支払わされる可能性だってあったわけだ。そう考えれば、今回の和解がGoogleにとってどれほど大きな意味を持つか、わかってもらえるんじゃないだろうか。 この裁判をOvertureが起こしたのは、2002年のことだ。Overtureの提訴に対して、Googleは「わが社の技術はOvertureのものとは異なる」と反論していた。キーワード広告の順位をOvertureは単純に広告主の支払った代金だけで決定していたのに対し、Google Adwordsは代金に加えてクリック率も要素に入れていたからだ。しかしこの論拠で長い裁判を戦い続けるのは、かなり難しいとGoogleも判断したのだろう。 検索エンジンマーケティングの著名人であるTraffickのアンドリュー・グッドマン(Andrew Goodman)は、こう述べている。 「GoogleとYahoo!は、表面上は激しい戦いを繰り広げるライバル会社に見えるかも知れない。しかし彼らは来るべきインターネット広告の世界で、ともに指導的な存在となっていくであろう企業であり、彼らが市場を分け合っている状態はある種の均衡となっている。それに加えて、Yahoo!がGoogleの株主になるというのだ。両社の利害はかなりの程度からみあっていくことになり、同じゴールを目指すcoopetitionな関係――競争(competing)と協力(cooperating)の造語だが――になっていくのではないだろうか。今後、全面的な戦いに突入するとは考えにくい」 一般的に、投資家からの需要が多ければ、IPOの主幹事会社は発行株数を増やそうとする。しかし今回の場合は、Yahoo!との和解によって発行株数が増えることになったというわけだ。 ●検索エンジンを議論しよう上でコメントを紹介したカナダ人のアンドリュー・グッドマンが、新たな英語のディスカッショングループを作り上げた。SEM2.0と名付けられたそのグループは、長い期間に渡って検索エンジンの会議室として有名だったI-Searchが母体となっている。 グッドマンは政治学者からインターネットのアナリストに転じた人で、編集者であり、PRの専門家であり、そして広告マンでもあり、Traffickの共同創設者でもある。「Google Hacks」や「99 Cows」といった本に原稿を寄稿しており、最近は自分自身の著書「Winning Results with Google AdWords(Google Adwordsで勝つ方法)」という本も出した。 ディスカッショングループのSEM2.0は、誰でも加入できる。実際に世界中から検索エンジンマーケティングに携わる人々が参加しており、英語のネイティブスピーカーじゃない人も多い。恥ずかしがらずに、一度参加してみたらどうだろう。 (2004/08/11) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚]
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