【連載】
【編集部から】
インターネットユーザーにとって、1日たりとも欠かせないのが検索エンジン。その検索エンジンをディープに使い尽くすために欠かせない情報を、毎回詰め込んでお届けします。
第11回 Googleとユーザーたちの間に起きた「ハリウッド風エンディング」
●今回は映画のシナリオ風に
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Google「AdSense」のWebサイト |
ここ南半球のニュージーランドは冬だけど、日本はようやく梅雨も明けて夏真っ盛りのようだね。ちょうどお盆休みということもあって、今回はちょっと趣向を変えよう。検索エンジンをめぐる業界噂話はお休みし、Webを生業とする企業の仕事のやり方をちょっとご紹介してみたい。
どのWeb企業も、顧客とのコミュニケーションで頭を悩ましているはずだ。それは言ってみれば、次のような内容になる。
- ユーザーの不満を、いかにダイレクトにすくい上げるか。
- ネガティブキャンペーンをコントロールする方法。
- 顧客の不満を解消するために製品やサービスを改良する。
- これらのことを、できるだけ素早く実現。
Googleという会社は、ユーザーの意見をきちんと取り入れることで知られている。
最近、同社は新しいサービスをスタートさせた。実際に提供するまでに、かなりの回数のテストを社内で繰り返したはずだ。そして社内検証が終わると、今度は社外のいくつかのグループでも同様のテストを行なったはずだ。しかし同社が今月初めに実際にサービスインしたところ、同社が予想もしていなかったような苦情が大量に寄せられる結果となった。これはひょっとして、ネガティブな評価がどんどん増えていき、Googleの評判が地に落ちていく前触れではないのか? 悪循環の最初の兆候ではないのか? そして、かつてAltavistaやNetscape、AOLがそうなってしまったように、顧客の望んでいるゴール地点と会社の目標がどんどんかけ離れていくという結末に陥っていくのではないだろうか?
ところが蓋を開けてみれば、結末はそうならなかった。Googleはカネを払わずにリサーチさせてもらって製品を改良できてしまい――いやそれどころか、カネを生み出すベータテストみたいなことを実現する結果となったのだ。
説明はとりあえずこのぐらいにしておこう。Googleがスタートさせた新サービスというのは、AdSenseのことだ。AdSenseについては、この連載の第8回で取り上げた。Webサイトの内容に合った広告を配信するというコンテンツターゲット広告だ。Googleは当初、月間20万以上のページビューがある大手サイトに限ってこのサービスを提供していたが、最近になってその制限を取り払い、中小企業でも参加できるようになった。しかし重大な問題が浮上し、多くのWebマスターの怒りを買うことになった。
いったい何が起きたのだろう?
英語圏のWebマスターたちが集まるさまざまな掲示板で、この問題に関する議論が燃え上がった。そのやりとりを紹介するために、今回は映画のシナリオを真似て物語をつづってみよう。そう、今週はお盆休みだからコラムはシナリオに模様替えということだね。タイトルは、こうだ。
「ハリウッド風エンディング」
設定:とあるダウンタウンの自宅兼事務所(夜)
WebマスターのVisit_NZが、自分のサイトを見ている。彼のサイトはGoogle AdSenseに参加しているのに、画面には何の広告も表示されておらず、ブランクがあるだけ。ブランクの下にはこんな文字が書かれている。「このブランクはGoogleが提供しています」。AdSenseキャンペーンに参加したのに、まったく利益を上げていないということらしい。
Visit_NZ「いったい全体、こりゃ何だろう?」
設定:とあるオフィス街の瀟洒な事務所(昼)
オンラインマーケティング担当の女性マネージャー、SPK47が自分のサイトを見ている。彼女のサイトのAdSenseも、まったく広告を表示していない。Googleの検索にリンクされている「Relatede
Searches(関連ページの検索)」という検索ボタンが表示されているだけだ。一銭の儲けにもなっていないことを彼女は理解する。
SPK47「いったい全体、何よこれ?」
設定:とあるインターネット掲示板(時間はいろいろ)
WebマスターたちがGoogle AdSenseのネガティブな面について議論している。ブランクが表示されるせいで、せっかく作ったWebサイトがずいぶんと間の抜けた印象になってしまう。おまけにこのブランクに対しての補償は一切されていない。おまけに「Related
Searches」というリンクを表示することで、Googleは自分のメインサイトへのトラフィックを誘導しているじゃないか。そのクリックスルーに対する料金は一切払っていないのに!
――シンプルでゆるやかな音楽が流れ出す。
Buddy「Overtureを買収したYahooとMSNで検索サービスをめぐる大戦争が巻き起ころうとしているからな。Googleがユーザーをつなぎ止めるために新しいことを考えてるんじゃないか? もしGoogleがおれのサイトからGoogleサイトへのトラフィックのクリックスルーを計上してくれるんだったら、文句は言わないよ」
SPK47「コードをHTMLに挿入する前に、ちゃんと利用規約を読んでるWebマスターがどれだけいる? ちょっと読むだけで、AdSenseがとても危険な場所だってことはすぐわかるはずよ」
Visit_NZ「僕は自分のサイトからきれいさっぱり、AdSenseを消し去ってやったよ。整理してみると、Related Searchesの問題は、次のようなことだ。
- まるでこのボタンを僕が作ったかのように見えること。Googleの広告には見えない。
- Related Searchesを検索した結果は、確かに僕のWebのコンテンツに類似したものが表示される。しかしそのボタンをクリックすれば、ユーザーは僕のサイトの外に出て行ってしまう! もしこのクリックスルーにGoogleがおカネを支払ってくれるのなら構わないが、そうはなっていない。
- 僕は自分のサイトのスペースを提供し、Googleへのトラフィックを誘導させてあげている。しかし何度も言うようだが、このことで一銭も受け取っていない。僕はGoogleへの慈善事業のためにサイトを作っているのではない。
Google FAQ「もし関連する広告の在庫がない場合や、あなたのサイトのコンテンツをまだクロールして調べていない場合は、広告の部分にRelated
Searchesボタンが表示されることがあります」
jackass「このプログラムがRelated Searchesへのクリックスルー料金を支払ってくれるためだったら、とてもハッピーなんだけどな」
SPK47「Googleのサイトに行って、有料広告エンジンのAdWordsを検索結果ページからクリックしたら、Googleはそのクリックスルー料金を100%取るのに、私のサイトからGoogleにクリックされても、私はまったくおカネをもらえない」
Google FAQ「AdSenseプログラムの一環として、あなたのWebサイトに最大2つの関連するAdWords広告の掲示をお願いする場合があります」
SPK47「広告がなかったとき、私のサイトにはまるで高層ビルみたいに10個ものRelated Searchesが表示されたよ! 2つなんてとんでもない! 10個!」
――音楽が徐々に激しくなっていく。
Visit_NZ「本来AdSenseが表示されるべき場所に、10個ものRelatede Searchesが表示されているWebがある。そんなことをされたら、Webデザインはめちゃめちゃだ。すぐに消し去った方がいいね」
liberty「Relatede Searchesをオプトアウト(事後拒否)する方法が提供されるべきだ。あるいはRelated Searchesをオプトイン(事前承認)して、おカネを得られるようにするとか。だってわれわれはGoogleにトラフィックを与えていて、彼らはそこから収益を上げているんだもの」
Google FAQ「Relatede SearchesはAdSenseには不可分のもので、非常に価値のあるコンポーネントだと考えています。だから現在のところ、Relatede
Searchesについてオプトアウトする機能については考えておりません」
liberty「じゃあそれでGoogleは儲けていいってわけ? Webマスターに損をさせておいて?」
jackass「GoogleはRelatede Searchesから直接儲けてるわけじゃないよ」
liberty「え、どういうこと? たくさん検索してもらえばトラフィックが増えて、それがGoogleの収益になるんじゃないの?」
SPK47「彼らがやろうとしているのは、Googleの検索結果表示ページに少しでも多くの人々を誘導しようということ。検索結果ページには有料広告のAdWordsがあって、そこまで誘導されてきた人たちはそのボタンをクリックするかもしれない。クリックすれば100%、Googleの儲けになるし、クリックしなければゼロってこと。もうひとつ、Googleの検索結果ページに多くの人々を誘導することで、ブランドイメージを向上させることができる。Yahoo!やMSNとの検索エンジン戦争には、これは重要なことだよね」
rebate「わたしも自分のサイトからAdSenseを削除しようと思ってる。Googleのやったことにこんなに腹が立ったのは初めて。こんなジャンクなパーツをわたしの大事なWebに置きやがって、って。Googleのアフィリエイトプログラムは、熟練したWebマスターにとってはいい金儲けの手段だったし、AdSenseは使いやすかった。でもこの変な表示はWebのクライアントを怒らせるだけだから、もう使わない」
――音楽が徐々に不気味に、身の毛もよだつようなトーンに変わっていく。
red_zone「Googleのやることは、Microsoftに似てきたな……。まずWebの訪問者がオレのサイトでRelatede
Searchesをクリックする。そしてGoogle.comに行き、AdWords広告を見つける。AdWordsをクリックし、Googleはそれでカネを儲けて、しかしオレには一銭も払わない」
dickle「たとえばAlltheweb.comの検索エンジンを使って私のサイトに来た人が、Related SearchesをクリックしてGoogleに移動していってしまう。これは私にとっては全然クールじゃないし、Alltheweb.comにとってもそうだと思う」
marx「Googleは結局、われわれをトラフィックの誘導に利用しているだけじゃないか」
Visit_NZ「『このブランクはGoogleが提供しています』なんていう表示は、ユーザーを混乱させるだけだよね。だいたい何で、Googleが僕にブランクを提供してくれる必要がある? いったい何の意味があるんだ?」
ezrider「僕はGoogleに意見を書いたメールを送ったよ。たぶん他の人たちもやってるんじゃないかな? こいつはGoogleにとっては大変な失敗で、プログラム自体がダメになるんじゃないかと書いた」
marx「自分のサイトのAdSense広告をユーザーがクリックし、ライバルのサイトに誘導されていくのは構わない。それでクリックスルーの収入が入るわけだから。許せないのは、Relatede
Searchesをユーザーがクリックする場合だけだね」
SPK47「公平に見れば、事前の予告なしにいつでも規約は変更できる、ということが利用規約には明確に書いてあるわね。もし私がAdSenseから得られる収入よりも、Related
Searchesで失う収益の方が多いようなら、AdSenseは消去して自分のところのトラフィックから収益を上げられる他の方法を考えるしかないよね。もし多くの人が同じように考えて実行に移したら、Googleも会社のポリシーを考え直さざるを得なくなると思うよ。単純に需要と供給の問題ね」
ezrider「Googleはネット企業の中でももっとも賢い存在だと信じていたのに、今ではそう思えなくなってきた」
pusher「WebマスターたちがAdSenseを使うのをやめてしまう前に、GoogleがRelated Searchesについて考え直してくれるといいのだけれど……」
――音楽は再び激しさを増してくる。
marx「Googleは前はLinuxみたいな存在だと思っていたのに、今じゃMicrosoftみたいに思えてくるよ」
SPK47「AdSenseサービスからRelatede Searchesを削除するか残すかというオプションを作ってくれればいいのに。どうして彼らはWebマスターたちをこれほどまでに怒らせて平気なの?」
dickle「私もそう思う。オプトアウトのオプションをつけるか、あるいは多くのWebマスターたちを失う結果になるか。答は明らかなのに」
暗転。やがて再び画面は明るく、輝きはじめる。楽しく、躍り出すような音楽が鳴り響きはじめる。
Google担当者「サービス開始当初のユーザーの皆さんからのご意見を、どうわれわれが受け止めたかをお知らせしたいと思います。われわれはRelatede
Searchesについて、Web発行者の方が選択できる機能を装備できるまでの間、いったん停止することにいたししました」
画面に「The End」が現れる。クレジットロールが始まり、画面はフェードアウトしていく――。
いかがだっただろうか? ここに紹介したようなやりとりは、この2週間の間にバタバタと起きたのだ。新しい製品・サービスがリリースされ、売り上げは上がるけれども、いくつかの大きな問題も浮上する。そうなったら、ベンダーはユーザーの声を聞き、問題がどこにあるのかを特定し、どうやってその問題を解決するかを示し、そして解決方法を具体的に実行する……そして最後は、みんながハッピーになる。
それって、まるでハリウッド映画みたいだと思わない?
【著者プロフィール】 |
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・文=ジェフ・ルート(Jeff Root)
ECジャパン株式会社のSEOチーフスペシャリスト。日本には出たり入ったりで早や10年。メールアドレスは「jeff@ecjapan.jp」。日本語もOKなので、気軽にメールをくれると嬉しい。 |
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・翻訳=佐々木俊尚
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。東京・神楽坂で犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。 |
(2003/8/12)
[Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚]
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