【連載】 【編集部から】 ●Amazon.comの目指す検索エンジンの世界とは
オンラインショッピングの王者であるAmazon.comが、Eコマースの世界でもっと利益の上がっているニッチマーケット――検索エンジンの世界へと乗り込んできた。AmazonはA9と呼ばれる新しいビジネスを立ち上げ、新しい検索エンジンを開発していくことになったのだ。もっとも、この検索エンジンがターゲットにしているのは、あくまでオンラインショッピングの利用者。スポーツの統計データやニュース記事を検索エンジンで調べようとしている人には、縁のない世界だ。 この2週間ばかり、Amazonの始めたA9サービスがGoogleの強敵になるのではないかという読みがメディア業界を駆けめぐった。Wall Street JournalやCNET、internetnews.comが相次いでそうした観測に基づく記事を発信していた。 そうした観測が生まれる背景には、オンラインショッピングユーザーのWebの利用方法が変わりつつあるという分析がある。つまり、人々は何かモノを買おうと思い立ったとき、すぐに特定のオンラインショッピングのサイトに行くのではなく、まず検索エンジンで買おうとしている商品を検索し、その検索結果に導かれてEコマースのサイトにたどり着くようになっている、ということだ。 となると、Amazonがライバル視しようとしているのは一般的な検索エンジンではなく、他のオンラインショッピングサイトであるという言い方もできる。つまり、A9はGoogleそのものではなく、Googleの提供している商品検索エンジンのFroogleがライバルということだ。あるいはYahoo! ShoppingやDealTime、MySimon、BizRate、PriceGrabberといった商品検索サイトがそうだ。日本でいえば、A9の敵はパソconecoや価格.com、travel.co.jpといったサイトになるのかもしれない。 Amazonは今月、A9をスタートさせようとしている。彼らの長期的な戦略は、単なるオンライン書店から脱皮をはかり、テクノロジーカンパニーへと進化していくというものだ。 ニューヨークタイムズの7月21日付の記事によると、Amazonはノンフィクションのテキストを全文検索できるサービスを検討しているという。記事によれば、Amaozonはこのサービスの提供のために大手出版社数社とすでに交渉に入っており、数万冊のノンフィクション書籍のアーカイブを構築しようとしているという。このサービスを提供することによって、Amazonはさらに多くの書籍を売ることができ、そして顧客サービスにもなると考えているようだ。この計画は、A9に発展的に吸収されていっているのじゃないかな。 AmazonはA9にどの程度の予算を充てようとしているのかはわからない。しかし彼らはこのサービスを他の検索エンジンにもライセンス供与しようと考えているようだ。つまり、Googleが他のポータルサイトの検索エンジンを提供しているのと同じ仕組みを考えているということなのだろう。 ●gooがInktomiからGoogleに乗り換えてどうなる?
大きく報道されたのでもうご存じだと思うけど、ポータルサイトのgooが検索エンジンをInktomiからgoogleに乗り換えることになった。このニュースは、いったい何を意味するのだろう? まず、この話を聞いて僕は「こいつはグッドニュースだ」と思った。まず第1に、gooにとってグッドニュースだ。なぜなら、gooがここ数年、失い続けてきたシェアを今回のことである程度は取り戻せるようになるかもしれないから。そしてこのニュースは、ユーザーにとってもいい知らせだ。だってgooの検索エンジンの質が上がることになるからね。多くの人はInktomiのものよりも、Googleの検索エンジンを好んで使っているわけだし。 そして3番目に、このニュースは僕のようなWebマーケッターにとってもよい知らせだった。gooがシェアを取り戻すことができれば、顧客のWebサイトに集まってくるトラフィックもある程度は分散されることになる。われわれの考え方のベースにあるのは、たった1つや2つのソースからだけトラフィックがやってくるというのは、危険きわまりないということだ。できればトラフィックはさまざまなポータルサイト、検索サイトから分散してやってきてほしい。もし検索エンジンのマーケットが3つや4つのサイトに分散してくれれば、トラフィックはもっと安定してくれるし、Webマーケッターたちの仕事もやりやすくなる。もちろん、僕の仕事もね。 先週、このニュースが流れたとき、僕はすごくびっくりした。この少し前、gooが提供していたIndex Connectのサービスを今後、宣伝などはいっさい行わないという話を聞いていた。Index Connectというのは、PFI(Pay For Inclusion)の一種。オンラインショッピングのサイトが検索結果ページ上で販売製品の情報をうまく表示できるようにしてくれる広告型の検索エンジンサービスだ。そしてこのIndex Connectは、Inktomiが提供している。gooがInktomiからGoogleに乗り換えるというニュースを聞いて、なるほどIndex Connectの話にはそういう事情があったのか、と後から膝を打った次第というわけ。 とはいえ、gooの動向いかんに関わらず、日本の検索エンジン業界は今後、Yahoo!とMSN、そしてGoogleという3強がシェアを3分していくという勢力図になっていくことにはかわりはないと思う。Googleは検索エンジンをSo-netやODN、biglobeといったISPやexcite、jp.aol.com、All About Japanなどの多くのポータルサイトに提供している。gooとGoogleの提携は、この構図には大きな影響は与えない。しかしgooにとっては、今回の提携は彼らのビジネスにとってはいい影響を与えるのは間違いなさそうだね。 おまけに、Googleのブランド認知度はここ2年間の間に日本国内でも著しく向上している。その結果、他の提携ポータルサイトを経由しないで、直接google.co.jpで検索する人が増えている。毎日、サーバのログファイルを解析していると、はっきりわかることだ。この傾向は今後もどんどん強まっていくだろうし、gooとの提携が何らかの影響を与えるとは考えられない。となると、これは僕の推測――たんなる推測にすぎないのだけれど――Googleにとっては、gooと提携したからといってマーケットシェアを減らす可能性はほとんど考えられないということになる。しかしYahoo!がもしGoogleを使うのをやめてしまい、かわりに用意した検索エンジンがGoogleほどの性能がなければ、マーケットシェアをどーんと減らすことになるのは間違いない。だからみんな、どんどんGoogleに依存度を高めていくことになる。僕の友人で検索エンジンの専門家である渡辺隆広は、こう言って嘆いている。 「国内のほとんどがGoogle採用になってしまって、おもしろくないですよねぇ。Inktomiにがんばってほしいものです。」 ノルウェーのFAST(Fast Search & Transfer)という企業の検索エンジン部門が先ごろ、Overtureに買収された。そしてOvertureはYahoo!に買収されたから、FASTの検索エンジンは、今はYahoo!が所有していることになる。Yahoo! JapanはこのFASTのエンジンを使う気はないのだろうか? ここの検索エンジンの性能は、Googleに匹敵するぐらい高性能だと僕は思っている。もしYahoo! JapanがFASTを採用し、FASTが日本である程度のマーケットシェアを奪う事態にでもなったら、みんなもっとハッピーになれると思う。Yahoo!はマーケットシェアを増やすことができるだろうし、ユーザーは検索エンジンの選択肢が広がる。そしてWebマーケッターたちは、トラフィックを分散させることができるようになる。みんなめでたし、めでたしだ。まあこれは、僕のわがままな願望かもしれないけどね。 (2003/10/07) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚]
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