関連記事インデックス

映画化された「Winny」はどんな事件を引き起こしたか〜本誌記事で振り返る当時の衝撃

映画「Winny」ポスターより (c)2023 映画「Winny」製作委員会

 映画「Winny」が本日(3月10日)公開される。本作の題材となった「Winny事件」が起きたのは2000年代で、本誌は、リアルタイムに関連の動向を報じてきた。当時の主要な記事から、その模様を振り返りたい。

 なお、本誌でWinny事件関連の内容を報じた記事は400以上におよぶ。当時の報道を詳細に振り返る向きには、完全版の関連記事インデックスもあわせてご覧いただきたい。


~2003年:ファイル共有ソフトが社会問題化する中、Winny公開

 Winnyを本誌が初めて報じたのは2003年1月31日。Winnyは2002年5月にβ版、12月30日に正式版が公開されていた。当時の記事では、作者を「巨大掲示板『2ちゃんねる』利用者」の「47@download.2ch」氏と報じている。

 当時は、P2Pのファイル共有ソフトを使った著作権侵害が世界的に問題視されており、一般財団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)らによる注意喚起や啓発の活動を、本誌でもたびたび報じている。Winny以前には「Napster」のほか「WinMX」「Morpheus」「Kazaa Media Desktop」などのソフトが使われていた。

 2001年11月には、ファイル共有(交換)ソフトを使用した著作権法違反の疑いによる世界初の刑事摘発が行われている。これは、京都府警が日本人2人を逮捕したものだった。

 2003年11月には、京都府警が日本のWinnyユーザー2人を逮捕。これが、Winnyユーザーの逮捕としては初となる。この後、金子氏を逮捕するのも京都府警だ。

▲目次へ


2004年:Winny開発者の金子勇氏が著作権法違反ほう助の疑いで逮捕

 Winnyを利用した著作権侵害のほか、Winnyによる「情報流出」が大きな問題になりはじめる。当初の情報流出は、Winnyを使用したユーザーの誤操作によるとみられるものもあったが、Winnyを媒介にして感染を広げるウイルスが、ユーザーのPC内のファイルを共有してしまうことによる情報流出も増えていく。

 5月10日、京都府警は、著作権法違反ほう助の疑いで、Winny開発者の金子勇氏(当時の報道はハンドルネームの47氏)を逮捕した。

 逮捕後の5月20日には、金子氏の逮捕は不当だとする支援団体が活動を行っている。著作権法違反ほう助という罪の正当性についての議論も起こり、金子氏の弁護を務めた壇俊光弁護士らがコメントしている。

▲目次へ


2005年:Winny利用者は減少せず、情報流出事件が相次ぐ

 金子氏の逮捕後もWinnyの利用者は減少せず、多くの情報流出事件が続いた。本誌でも、大企業、自治体のほか、病院、警察、自衛隊など、さまざまな業種における事件を報じている。

 こうした中、情報処理推進機構(IPA)が「ファイル交換ソフト使用上の注意事項」を公表し、注意を呼び掛け。原子力発電所の内部情報流出などが相次いだことを受け経産省原子力安全・保安院が情報管理規則を定めるなどの動きもある。

 金子氏の逮捕をきっかけとし、エンジニアが倫理規範の検討や社会システムにおける問題に関する提言などを行う「ソフトウェア技術者連盟」が設立。設立イベントでは壇弁護士もコメントを行っている。

▲目次へ


2006年:Winny対策ソリューションが登場、金子氏に有罪判決

 2006年に入っても情報流出事件は多発し、本誌ではこの年に最も多くの記事を公開している。また、2006年にはWinny対策のソリューションが次々と発表されたのも特徴だ。そのほか、安倍官房長官(当時)がWinnyを使わないよう呼び掛けを行ったことも報じている。

 前年までは公的な場でコメントしていなかった金子氏だが、2006年にはイベントなどでコメントを行うようになっており、本誌でもいくつかを報じている。5月に行われた情報漏えい対策セミナーでは、Winnyを媒介して感染する情報漏えいウイルスの対策について、早急な対策が必要だが、Winnyを開発したことが著作権法違反のほう助にあたるとされており、自ら脆弱性を対策したバージョンアップを行うのは困難であると、自身の立場を説明している。

 4月に、株式会社ドリームポートがP2P技術を活用したコンテンツ配信システム「SkeedCast」を発表。金子氏はこれに技術顧問として参画しており、2013年に亡くなるまで、同社の技術顧問および社外取締役として活動している。

 12月13日、京都地方裁判所は金子氏に対し、罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡した。判決では、Winny自体は中立的なもので、金子氏の認識として著作権侵害が蔓延することを積極的に企図していたとまでは認められないとした上で、金子氏は当時Winnyにより著作権侵害となるファイルが広くやりとりされていることを認識し、こうしたソフトの提供が公然と行えることではないことも知りながら、Winnyの開発・公開を続けており、「こうした行為は独善的かつ無責任であり、批判されるべきもの」と指摘している。

 これに対し、金子氏側、検察側は、ともに控訴した。

▲目次へ


2007年~2008年:Winny利用者の逮捕や処分が続く

 2007年から2008年にかけての関連ニュースは、Winnyによる情報流出での職員処分や、著作権法違反による逮捕のニュースが多い。逮捕者が現れてもWinnyの利用は減少していないとの報道も行っている。

 情報流出事件の記事では自衛隊や警察関係のものが目立ち、警察庁では、2007年12月に懲戒処分の指針の改正を発表している。

▲目次へ


2009年:高裁で金子氏に無罪判決

 1月より大阪高裁で金子氏の控訴審が始まり、10月に逆転無罪の判決が言い渡される。

 ソフト提供者が著作権侵害のほう助と認められるには、利用状況を認識している(一審判決の根拠)だけでは条件として足りず、ソフトを違法行為の用途のみ、または主要な用途として使用させるようにインターネット上ですすめてソフトを提供している必要があるとの説明が行われ、金子氏はこの条件に該当しないとして、一審判決を破棄し、無罪が言い渡された。

 検察側は、これを受けて上告している。

公判後に会見を行った金子勇氏(中央)と弁護団。2009年10月公開の逆転無罪を報じた記事よりより

▲目次へ


2010年~2013年:金子氏の無罪確定、翌々年に死去

 2010年1月1日より改正著作権法が施行。従来、ファイルのダウンロードは「私的使用のための複製」として扱われ、違法とはされていなかったが、新たに「違法なファイルと知りながらダウンロードする行為」が違法とされることとなった。

 また、2010年3月1日にはWinnyユーザーに警告メールが送付されるようになり、違法行為への対策が次々と取られていく。

 2011年12月19日、最高裁が検察の上告を棄却し、金子氏の無罪が確定。これを受けて、金子氏は「この場を借りて、Winnyを悪用することのないよう、また、よりよいIT社会が実現できるよう、あらためて多くの方々にお願いする次第です」などとコメントしている。その後、目立った報道はなかったが、2013年7月6日に金子氏が死去した。

▲目次へ


2014年~:記録されるWinny事件、映画制作も決定

 2014年1月に、Winnyのユーザーが減少しているとの報道。この記事によると、2007年の約30万台から、1.2万台に推定ノード数(使用しているPCの台数)が減少している。2018年にはユーザーが増加傾向だとの記事もあるが、情報流出などの記事はなくなった状況だ。

 ただし、2022年には、国民生活センターがファイル共有ソフトに関する注意喚起を行っている。「無料で動画が見られる」「無料でマンガが読める」などとうたい、ファイル共有ソフトをインストールさせられたというトラブルの相談が寄せられているという。

 2020年に、壇弁護士による小説「Winny 天才プログラマー金子勇との7年半」が出版された。2019年には一度「Winny」の映画化を報じているが、当時記載しているキャストやスタッフは、3月10日公開のものと一部異なる。

 3月10日公開の映画「Winny」は、金子氏を東出昌大氏、壇弁護士を三浦貴大氏が演じる。監督は松本優作氏。企画は古橋智史氏。

▲目次へ