期待のネット新技術
3世代あるPoEは2003年に策定、最大15.4Wの「IEEE 802.3af」から
2022年5月10日 06:00
昨今、かなり普及してきたEthernet技術の1つに「PoE(Power over Ethernet)」がある。要するに、Ethernetケーブルを利用して、データ通信と一緒に電源まで供給しよう、という仕組みだ。
このPoEは3世代あり、現在は以下が標準化されている。それぞれPoE、PoE+、PoE++と呼ばれているが、今月はまずPoEについてご紹介したいと思う。
名称 | 標準化名 | 策定時期 | 最大供給電力 |
PoE | IEEE 802.3af-2003 | 2003年6月 | 15.4W |
PoE+ | IEEE 802.3at-2009 | 2009年9月 | 30W |
PoE++ | IEEE 802.3bt-2018 | 2018年9月 | 90W |
1999年3月に「DTE Power via MDI」の名称で標準化が始まった「IEEE 802.3af」
PoEに関するCFI(Call for Interest)が出されたのは1999年3月のことである。当初はDTE Power via MDIなんて名前で呼ばれていたこの規格、当初の目的はウェブカメラやEthernet Phone(!)、アクセスポイントなどを外部電源なしで稼働させることを目的としていた。
この1999年3月に、IEEE802.3 DTE Power via MDIという名称でStudy Groupが結成され、2000年3月にはIEEE802.3af DTE Power via MDI Task Forceに移行する。以下がそのTask ForceのObjectivesとなる。
この目的は、この時点で普及していた「10BASE-T」と「100BASE-TX」のEthernetケーブルを経由して電源を供給できることで、「1000BASE-T」については“考慮する”という扱いだった。また、既存の配線に悪影響を与えないことも挙げられ、CAT 3とCAT 5ケーブルが主な対象との扱いになった。
このObjectivesには具体的な電力そのものは明記されていないが、これはなにぶんにもこの時点では、まだPoEに対応したデバイスが世の中に一切存在しなかったから、決めきれなかったという側面もあるかと思う。
PoEの供給電圧や配線は?
ちなみに、Study Groupの最後のミーティングでのStraw Pollを紹介してみよう。Straw Pollだからこれで何かが決まるわけではないが、この時点でのTask Forceのメンバーが、どんなふうに考えていたかが見て取れる。
電源供給の配線とSensingの配線は
- 同一でいい:32
- 分けるべき:0
- どちらでもいい:1
供給する電源は
- 直流を供給すべき:34
- 直流を供給すべきではない:0
- 交流を供給すべき:3
- 交流を供給すべきではない:17
- もう少し検討が進まないと判断できない:18
供給電圧は
- ISO 950(ISO IEC 60950-1)のSELV(安全特別定電圧回路)の電圧内であるべき:39
- ISO 950のSELVを超えてもいい:0
- 分からない:0
最大電圧は
- おおむね40V DC以下:25
- ISO 950のSELVの限界:9
- どちらでもいい:7
電力配線は
- 1,2,3,6番ピンを使って伝送:10
- 4,5,7,8番ピンを使って伝送:13
- どちらも方法もサポートするべき:3
- 棄権:3
供給電力は
- 5W:0
- 7.5W:0
- 10W:8
- 15W:9
- 20W:2
- 25W:0
最小供給電力は
- 5Wで十分:4
- 5Wは少なすぎる:19
- 8Wで十分:13
- 8Wは少なすぎる:3
- 10Wは少なすぎる:3
IEEE 802.3af-2003で定められた電源供給の仕組み
さて、この後どんな経緯で規格が定まっていくかを延々と説明しても仕方がないので割愛し、最終的にIEEE 802.3af-2003で定められた電源供給の仕組みをまとめてみたい。
比較的分かりやすいのが10BASE-T/100BASE-TX向けの構造である。先のStraw Pollに、電力配線をどうするか? という議論があったが、最終的にAlternative A(1,2,3,6番ピンを信号と電力で共用)と、Alternative B(4,5,7,8番ピンで電力を供給)の2種類がサポートされることになった。
Alternative Aの場合、PSEの出力は1,2番ピンのトランスの中段、それと3,6番ピンのトランスの中段にそれぞれ接続されており、4,5番ピンは空いている。PD側はやはり1,2番ピンのトランスの中段と3,6番ピンのトランスの中段から電力を受け取るかたちだ(PD側は4,5,7,8番ピンにもつながっているが、その先が空いている)。
一方、Alternative BではPSEの出力が4,5番ピンと7,8番ピンにつながり、ここから直接給電する格好になっている。
元々10BASE-Tにしても100BASE-TXにしても、信号そのものは差動式、つまり遂になる信号線の電位差で決まるので、絶対的な電圧が高くなっても信号速度そのものには“基本的には”影響がない。その一方で電力そのものは信号側の電圧中点を利用して送る仕組みになっている。
ちなみに上の図では、PSEとスイッチングハブが一体化された構成となっているが、以下の図のように、非PoE対応のスイッチに後付けで電源供給ユニットを挟み込んでPoEを実現することも可能だ。
そして、これを1000BASE-Tに拡張した例が以下の図だ。Midspan Power Insertion Equipmentそのものには違いはない(厳密に言えば、4対の信号全てを接続状態にする必要があるのがちょっとした違い)であるが、原理から言えば10BASE-T/100BASE-TXの場合と全く同じである。
PoEにおける4つの電力クラス
ちなみに、最終的な供給電圧は48V(最小44V、最大57V)となるが、これをいきなりPoE非対応のPDにつなげた場合、当然破壊の危険性がある。そもそもIEEE 802.3af-2003では、最終的に以下4つの電力クラスが定められており、これにあわせて供給を行う必要がある。
クラス | 最大電流 | PSE側電力 | PD側電力 |
Class 0 | 400mA | 15.4W | 13.0W |
Class 1 | 120mA | 4.0W | 3.84W |
Class 2 | 210mA | 7.0W | 6.49W |
Class 3 | 400mA | 15.4W | 12.95W |
そこでPoEには、PSEの先に機器が接続された場合、まず機器を検出し、次いでクラス識別を行ってから電力供給を開始する仕組みが実装されている。
機器認証では、そもそも相手がPDなのか否かを確認する。これはまず低い電圧(2.8V~10V)を500msの間に印加し、その際に流れる電流から、相手の機器が25KΩの識別用抵抗を実装しているかどうか判断することで行っている。
ここで電流値がおかしい、つまり識別用抵抗を実装していない場合は、そもそも電力供給を行わない。相手が識別用抵抗を実装していた場合は、今度は15.5V~20.5Vの電圧を6~75msの間に供給し、その際に流れる電流値を測定してクラスの特定を行う。
以上のシーケンスが完了してからおよそ1秒(厳密には最大900ms)後に、給電が開始されるという仕組みで、非PoE対応機器に48Vを供給することを防ぐとともに、正しい電力供給を行えるようにしている。
ちなみに資料をあちこち探してみたが、なぜClass 0とClass 3がいずれも最大400mA供給なのかだが、Class 0はデフォルト(必須)扱い、Class 1~3はオプション扱いとなっているためだ。
余談だが、今Class 0~3までの4つのクラスと書いたが、実は5つ目となるClass 4も定義されている。ただしこれは"Reserved for future Use"となっており、また扱いはClass 0に準ずるとされているため、実際には4つのクラスしかないのと同じだ(これが変わるのは、次のIEEE 802.3at-2009である)。
もう1つ余談をすれば、少なくともIEEE 802.3af-2003に関してはケーブルの制限がない。もちろん制限がないとはいっても前提として10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-Tが利用できるのが前提なので、CAT 3/CAT 5/CAT 5eのいずれかという話になるが、少なくともIEEE 802.3af-2003のレベルで言えば、10Mbpsで済むならCAT 3、100Mbpsで済むならCAT 5のケーブルを引き続き利用できることになっている。
もちろんCAT 3の場合、実際には4本しか信号線がないものも存在する(もうさすがにほとんど使われてないと思いたいが、少なくともかつては存在した)。現実問題として、こうした問題が出ることは、現在ではほとんどないと思うが、その場合はAlternative Bの構成では利用できないことになる。
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