急遽テレワーク導入!の顛末記

「Power Automate Desktopで精算時の運賃計算を自動化!」――急遽テレワークを導入した中小企業の顛末記(55)

マイクロソフトの無料RPAツール「Power Automate Desktop」で単純作業をワンクリック化してみた

マイクロソフトが無償で提供しているRPAツール「Power Automate Desktop」

 マイクロソフトが提供している、無料のRPA(ロボティック・オートメーション)ツール「Power Automate Desktop」。当初はクラウド経理ツールに案件情報を自動で登録するために使っていたが、ほかにもいろいろと使いどころがありそうだ。

 ……この記事を書いている時点で、4都府県で緊急事態宣言が発出されてから40日が過ぎた。

 私が勤めている新宿にある中小企業では現在、各スタッフが可能な範囲でリモートによる業務を行っている。その中で、今回は「Power Automate Desktop」を普段の仕事に取り入れられないか、いろいろと試してみた。

【今回のハイライト】
朝のルーティンを自動化!
ファイルのアップロードを自動化!!
経費精算のための運賃検索も自動化!!!
【これまでの経緯】

緊急事態宣言が発令された2020年4月、筆者の勤めている会社では何の準備もないまま、在宅勤務を始めることになった。仕事の環境は「デスクトップPC+メール」が普通だったため、データを外付けHDDで持ち運んだり、LINEの個人アカウントを流用したりと大混乱。その後、補助金などでNASやノートPCを導入、徐々にテレワーク環境を整えていく……

【2020年4~8月末までの顛末はこちら】

5月31日(月):会社PCの電源を遠隔操作!さらにアプリを起動する

 「Chrome Remote Desktop」を使うようになり、たまの出勤日にはオフィス到着前に、会社のパソコンの電源を遠隔操作で入れておくのが習慣になった。

 そこで、ふと思いついて「Power Automate Desktop」を起動。Google Chromeを起動して「サイボウズOffice」のページを開くとともに、LINEとThunderbirdを起動するフローを作成してみる。

ブラウザーやアプリを起動するアクションを登録した「出社時」フローを作成

作成したフロー

  1. Google Chromeを起動して、サイボウズOfficeのログイン画面を表示
  2. LINEを起動する
  3. Thunderbirdを起動する

 アプリの自動起動にはスタートアップなどを利用する手もあるが、設定やその解除にひと手間かかるので、状況に合わせた使いこなしが難しい。でも、「Power Automate Desktop」ならフローの登録・解除が簡単にできる。今回のように起動したブラウザーで表示させるサイトを指定するなど、カスタマイズが可能なので、いま関わっているプロジェクトにあわせた使い方ができそうだ。

6月2日(水):オンラインストレージへのファイルUPを自動化!

 今日はあるプロジェクトの制作物を、クライアントに提出することに。ファイル容量が大きいので、納品は「firestorage」という無料のオンラインストレージを介して行うことにした。

 このように、ファイルを圧縮してオンラインストレージにアップロード。そのダウンロードURLをメールで知らせるという一連の行為は、普段からよく行う作業の1つだ。そこで、これを「Power Automate Desktop」で自動化できないか試してみる。

遅延の「Wait」やクリップボードの「クリップボード テキストを設定」などのアクションを使用した

作成したフロー

  1. デスクトップの「firestorage」フォルダーをZIP形式で圧縮する
  2. アプリ「firetools」を起動する
  3. 「firetools」の「ログイン」ボタンをクリックする
  4. 3秒間待機する
  5. 「firetools」の「ファイル送信」ボタンをクリックする
  6. デスクトップの「firestorage.zip」ファイルを「firetools」にドラッグする
  7. 「firetools」の「ファイル送信」ボタンをクリックする
  8. 10秒間待機する
  9. 「firetools」のダウンロードURLを変数「AttributeValue」として取得する
  10. 「firetools」の「閉じる」ボタンをクリックする
  11. 「firetools」の「終了」ボタンをクリックする
  12. 変数「AttributeValue」をクリップボードに保存する
  13. アプリ「Thunderbird」を起動する
  14. 5秒間待機する
  15. 「Thunderbird」で「作成」ボタンをクリックする
  16. 「Thunderbird」でメッセージ入力欄を右クリックする
  17. 「Thunderbird」で「貼り付け」をクリックする
「firestorage」の公式フリーソフト「firetools」

 当初は「firestorage」にブラウザー上でファイルをアップロードする操作を、Webレコーダーで登録しようとしたのだが、Webレコーダーで記録したアクションでは、アップロードするファイルを選択するダイアログを開くことができなかった。そのため、ファイルのアップロードには、「firestorage」の公式フリーソフト「firetools」を利用し、その操作をデスクトップ レコーダーで記録した。

 また、“ダウンロードURLをクリップボードにコピーする操作”を行っても、クリップボードにはURLが保存されないため、画面に表示されたURLを一度変数として保存。それをクリップボードに保存する操作を行っている。さらに、ログインやファイルのアップロード時には、環境に合わせて遅延(Wait)のアクションを挿入した。

「Power Automate Desktop」の「ZIPファイル」アクションでは、圧縮時にパスワードの設定も自動で行える

 これで、送りたいファイルをデスクトップの「firestorage」フォルダーに保存すれば、後は自動でダウンロードURLが記載済みのメール作成画面が表示されるフローが完成した。こういう日常のひと手間は、自動化されるとかなり気持ちがいい。

6月4日(金):経費精算時に運賃計算の手間を省きたい!

 5月の経費精算の締め切りが今日までだったので、エクセルのフォーマットに経費の詳細を書き込むことに。「そういえば、これもルーチンワークだな」と思い付き、その自動化に挑戦してみた。

 経費精算の中でも面倒なのが、移動経路から交通費を検索する作業。今回はこれを自動化することにする。

ループの「Loop」アクションを使用。フォーマットでは金額の入力欄が5行目から始まるので、パラメーターの「開始値」を5に設定した

作成したフロー

  1. Excelを起動し、経費精算のファイルを開く
  2. ループの起点。ループごとに“5を開始値として1繰り上がる変数”「LoopIndex」を作成する
  3. ファイルの“始発駅を入力した列”の“LoopIndex”行目にあるセルの値を読み取り、変数「ExcleData」に保存する
  4. ファイルの“到着駅を入力した列”の“LoopIndex”行目にあるセルの値を読み取り、変数「ExcleData2」に保存する
  5. Google Chromeを起動し、「Yahoo!路線情報」のページを開く
  6. 3秒間待機する
  7. 「Yahoo!路線情報」の「出発」欄に変数「ExcleData」を入力する
  8. 「Yahoo!路線情報」の「到着」欄に変数「ExcleData2」を入力する
  9. 「Yahoo!路線情報」の「検索」ボタンをクリックする
  10. 表示された運賃を変数「innertext」に保存する
  11. Google Chromeを終了する
  12. ファイルの“運賃を入力する列”に変数「innertext」を書き込む
  13. ループの終点
C列に出発駅、D列に到着駅を入力。これをもとに、「Yahoo!路線情報」からコピーした運賃をE列に自動で入力させる

 まずは経費精算用のテンプレートファイルに、新たに“出発駅を入力する列”、“到着駅を入力する列”、“運賃を入力する列”を作成。出発駅と到着駅を入力した状態でフローを実行し、運賃を自動で入力させた。

Excelから取得した出発駅、到着駅の駅名を、「Yahoo!路線情報」に自動で入力させる
ループを繰り返し、Excelから参照できる値がなくなると、フローはエラーを起こして停止する

 ちなみに、このフローではループのアクションを使い、エクセルで参照するセルを1行ずつずらしながら、「Yahoo!路線情報」での検索を行っている。参照する値がなくなると、フローはエラーを起こして停止するので、ループ回数は多めに設定しておくと良いだろう。

 あとは、入力された運賃から、LEN関数を使って「円」の表記を削除。その値を2倍にして、往復料金を経費の金額欄に入力させた。作業に使った列C~Fは非表示にすれば印刷されないので、後は交通費以外の経費を、行を追加しながら追記していけばいい。

印刷時にはエラー値を削除しておくのをお忘れなく

 これで、ファイルのアップロードと経費精算に関するひと手間が、「Power Automate Desktop」のおかげでなくなった。こういう手間が省ける作業は、ほかにもまだまだあると思うので、引き続き自動化に挑戦していきたい。

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※編集部より
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飛田九十九