急遽テレワーク導入!の顛末記

「月額5000円からのバーチャルオフィスを無料で使ってみた」――急遽テレワークを導入した中小企業の顛末記(42)

SlackとZoomをいいとこ取り! 会議から雑談までOK

2D空間でアバターを操作し、音声チャットなどができる「oVice」

 LINEやSlackは手軽にメッセージが送れるが、ビデオ会議をするには使い勝手がいまいち。一方でZoomは機能的には優れているが、相手とつながるまでにひと手間かかる。そのため、テレワークの現場では、両者を使い分けているのが現状だ。

 ……この記事を書いている時点で、一都三県で緊急事態宣言が発出されてから43日が過ぎた。

 私が勤めている新宿にある中小企業では現在、ほぼすべてのスタッフがリモートによる業務を行っている。その中で、今回は先ほどの問題を一挙解決するかもしれない、バーチャルオフィス「oVice(オヴィス)」をレビューしたいと思う。

【今回のハイライト】
会社のようにアバターを席割りできる
会議室ではビデオ通話も可能
画面の共有もできる
【これまでの経緯】

緊急事態宣言が発令された2020年4月、筆者の勤めている会社では何の準備もないまま、在宅勤務を始めることになった。仕事の環境は「デスクトップPC+メール」が普通だったため、データを外付けHDDで持ち運んだり、LINEの個人アカウントを流用したりと大混乱。その後、補助金などでNASやノートPCを導入、徐々にテレワーク環境を整えていく……

【2020年4~8月末までの顛末はこちら】

2月19日(金):我がバーチャルオフィスに“oViceの中の人”がやってきた

 前回紹介した「総務・人事・経理Week」で見かけたoViceが、緊急事態宣言中は無償提供されていたので、さっそく申し込んでみた。

 oViceは“スペース”(2D空間)上のアバターを操作することで、近くにいる人と会話ができるサービス。さらに、カメラ映像やウィンドウを共有するなど、ほとんどZoomと同じことがスペース上で行える。

 アカウントを登録するとスペースが割り当てられたのだが、管理者権限などを利用するには、担当者との面接が必要だという。今日はその面接日。oViceではZoomと同じようにスケジュールを設定できるので、自分のアカウントのスペースで待っていると、「oVice Sato」というアイコンが約束の時間に姿を現した。

oVice Sato「はじめまして、飛田さん。今日はよろしくお願いします」

 そのままSatoさんはこちらのアバターまで近づくと、波のようなエフェクトを発動。それと同時にスピーカーからは「はじめまして、飛田さん」と声が聞こえてくる。

 これが、oViceの最も基本的な機能だ。アバターを移動させると、周囲にグレーの円を表示。この円の範囲にいる相手にだけ、こちらの声が聞こえるようになる。これによって、オフィスにおける“声をかける距離感”を再現するというわけだ。

アバターをマウス操作で動かすと、周囲に声の届く範囲を示す円が表示される

 その後は基本的な操作方法を教えてもらったり、サンプルとして作りこまれたスペースをのぞき見させてもらったりして、面接は15分程度で終了。こちらの質問に対する対応も丁寧で、サポート力の高さが感じられた。担当者がこうして気軽に足を運んでくれるなら、今後も安心して利用できそうだ。

画面の共有機能で見せてもらったサンプルスペース。コメントやオブジェクトを配置するなど、作りこみがすごい

2月22日(月):同僚とのミーティングにoViceを使ってみた

 先日の面接でoViceを使う準備ができたので、さっそく会社で試しに使ってみたいと思う。既に管理者としてスペースを持っているので、そこにゲストを招くのは簡単だ。oViceのアカウントさえ作ってもらえば、後はスペースのドメインを教えるだけで、そこにアクセスできるようになる。

 ちょうどこの日は手持ちのプロジェクトでミーティングがあったので、同僚Aさんをスペースに誘ってみることに。oViceについては事前に少し説明していたこともあり、部屋に入るとすぐに操作感をつかんだようで、こちらのアバターに近づいてきてくれた。

同僚Aには「近づけば会話ができる」とだけ伝えていたのだが、すぐにアバターの操作方法をマスターしたようだ

【同僚A】: これゲームみたいで面白いですね、飛田さん!

【飛田】: そう言われると、確かにRPGゲームっぽいかも。それじゃあ、次のクエストがあるから、右上の「Filbert」という会議室に行ってみようか。

【同僚A】: へぇ~、会議室もあるんですか。本当のオフィスみたいですね、っと。

【飛田】: そうそう、そこで下の「カメラ」のボタンを押して有効にすると……。

会議室に入ると、自動でビデオ会議がはじまる

【同僚A】: あ、飛田さんの顔が映っていますよ。これ、もしかしてビデオ会議ですか?

【飛田】: そういうこと。いちいちZoomを起動して、招待しなくても、手っ取り早くビデオ会議ができるってわけ。

【同僚A】: それは便利ですね! 会社のZoomアカウントが会議したいタイミングで使われている時に、これがあると助かるかも。

【飛田】: このバーチャルオフィスには会議室が4つあるから、同時に4つまでならビデオ会議ができるかな。Zoomと同じように画面の共有もできるし。

表示しているウィンドウを、会議の参加者と共有することも可能

【同僚A】: これ、Zoomよりいいかもしれないですね。

【飛田】: でしょ。声も結構きれいに聞こえるし、とりあえず今日はこのままミーティングしようか。

 その後、30分ほどミーティングを行ったが、映像や音声が途切れることなくビデオ会議ができた。もちろん、会議室にいない時の音声チャットも良好で、この通話品質なら仕事用に使っても問題ないだろう。

2月24日(水):oViceの使えそうな機能をいろいろ試してみた

 oViceの使い勝手が同僚Aさんから好評だったので、今後のテレワークで使うためにも、便利そうな機能を一通り確かめてみることにした。

アバターを右クリックするとメニューが表示される
右クリックメニューから機能を選択すると、そのアイコンがスペース上に配置される。今回は「スピーカー」を選択

 まずは、アバターの右クリックメニューから利用できる機能だが、このうちよく使いそうなのが「スピーカー」「ミーティング」「画面共有」の3つ。それぞれ個別に円を持つアイコンを設置して、その円の中にいる人と「会話する」「ビデオ通話する」「開いているウィンドウを見せる」ことができる。

 ここでポイントになるのが、各アイコンの円の範囲をポップアップメニューから簡単に変更できることだ。例えば、「スピーカー」なら、円の範囲を4倍にすれば、一番小さいスペース(※スペースのサイズはアカウントの契約時に指定する)のほぼ全体に声を届けることが可能に。社員全体に共有事項を伝える時に便利だろう。

 「ミーティング」や「画面共有」は、先に会議室で使ったものとほぼ同じで、これを席にいながら使えるようにした機能。会社で「ちょっと、この画面見てよ」なんて隣の席の同僚などの声をかけていたのに感覚的には近いかもしれない。

スペースのレイアウトにはテンプレートが用意されている

 なお、スペースのレイアウトについてはテンプレートが用意されており、画像をアップロードして利用することも可能。会議室はサイズによって入室できる人数が変わるが、こちらも大きさや場所を自由に変更できるので、社員全員が入れる大きな会議室を作ることもできる。

 気になるセキュリティは、許可のない立ち入りを禁止する「プライベートスペース」に設定を変更したうえで、ホワイトリストで自由に立ち入りできるメンバーを指定することが可能だ。このとき、アカウントに登録したメールアドレスのドメインで、ホワイトリストに同僚を一斉登録することができるので、なるべくアカウントは会社のメールアドレスを使って作成してもらうとよいだろう。

ホワイトリストに設定することで、「プライベートスペース」への自由な立ち入りが可能に

2月26日(金):バーチャルオフィスに出勤すること4日目

 oViceを使い始めてから今日で4日が経った。この間に同じ部署の同僚Bさんも誘って、スペースの利用者は3人に。業務時間内はoViceを立ち上げっぱなしにしているので、仕事上の連絡はほとんどコレだけで済むようになった。

 今日も朝からバーチャルオフィスに出勤すると、既に同僚AさんとBさんが席に座っていた。会話のエフェクトが出ているので、何かを話しているようだが、入口のこの距離からは聞こえない。寂しい。

同じ島の机に座れば、2人の会話が聞こえそうだ

 さっそく会話の円が重なるように隣の机に座り、今日の仕事をすることに。Zoomとは違い、繋ぎっぱなしでも見られるのはアバターだけなので、カメラを気にせずに仕事ができる。マイクは必要な時だけオンにすればいい。

 日々の連絡をLINEやSlack中心で行った場合、業務中は定期的にメッセージを見に行くことになる。さらに、受信したメッセージを目で追って確認しないといけないし、タイピングする文章を考える時間も必要だ。

 その点、oViceなら何かを確認する必要がなく、声をかけられるまで仕事に集中できる。相手からの連絡を聞いている時も、目と手は自由なので作業を止める必要はなし。何かを伝える時にも、マイクをオンにして声をかけるだけで済む。使ってみると分かるが、この手軽さはかなり大きい。

「Become Away」(離席)機能を使うと、メッセージを残したうえで、アバターをスペース外に移動できる

 今回は同じ部署の3人だけで使ったが、会社のスタッフ全員で利用すれば、oViceはその真価をさらに発揮できるだろう。手間なく、リアルタイムで連絡ができるので、社内のコミュニケーションが加速。基本は隣の席の同僚にしか声が聞こえず、会話の内容がログとして残らないので、オフィスにいる時と同じ感覚で気軽に雑談もできそうだ。

 テレワークでも環境さえ整えれば仕事はできるが、どこか会社から切り離されたような感覚が日を追うごとに高まっていく。HRでいうところのエンゲージメントは、間違いなく低下しているだろう。ただ、oViceを使っているときは、アバターの向こうにいつもの同僚の顔が目に浮かんだ。承認欲求や仲間意識といったものを、oViceならオフィスにいる時と同じように満たしてくれるかもしれない。

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※編集部より
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飛田九十九