急遽テレワーク導入!の顛末記
「テレワークの最前線を、リアル展示会に見た!」――急遽テレワークを導入した中小企業の顛末記(20)
電子署名や非接触検温装置は、中小企業でも導入できるか?
2020年9月23日 11:05
テレワークをより快適に行うには、時に新たなサービスや機器が必要になる。予算の範囲内で何を導入すべきか、問題を解決するには何が必要か、考えることは山積みだ。
……この記事を書いている時点で、全国で緊急事態宣言が解除されてから114日が過ぎた。
私が勤めている新宿にある中小企業では、「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」を利用してテレワーク用の機器を導入。とはいえ、実際に運用する中で、また新たな問題が出てくるため、その解決策を模索している。そのヒントを探るために、今回は幕張メッセで開催されていた展示会「総務・人事・経理Week」(9月16日~18日)に行ってみた。
中小企業でも導入できる電子署名サービスやオンライン会議向けの「1人用オフィスボックス」など、今風にテレワークを行える製品やサービスを見つけたので、いくつか紹介してみたい。
【これまでの経緯】
緊急事態宣言が発令された4月、筆者の勤めている会社では何の準備もないまま、在宅勤務を始めることになった。仕事の環境は「デスクトップPC+メール」が普通だったため、データを外付けHDDで持ち運んだり、LINEの個人アカウントを流用したりと大混乱。その後、補助金などでNASやノートPCを導入、徐々にテレワーク環境を整えていく……
9月17日(木):デジタル改革相が記者会見で「デジタル庁」についてコメントした日中小企業でも使えそうな、テレワーク向けソリューションを探してみた
今日は久々に展示会へと足を運ぶことに。新型コロナウイルスの影響と、会期2日目ということもあって空いているかと思いきや、会場は多くの人で賑わっていた。
この展示会では多くのイベントが同時開催されており、
- 「働き方改革EXPO」
- 「会計・財務EXPO」
- 「オフィスセキュリティEXPO」
- 「法務・知財EXPO」
のブースでは、テレワーク向けの展示も行われていた。経費精算や勤怠などをクラウドで管理するサービスを数多く見ることができ、「脱・紙」や「脱・ハンコ」といったキャッチフレーズが会場にあふれている。
その中でも「IT技術で中小企業を強くする」をうたっていたのが、交通費・経理生産システム「楽楽清算」を提供しているラクスのブース。初期費用100,000円、50ライセンスまで月額30,000円で利用することができ、担当者の話によると、今年に入ってから引き合いが急に増えているそうだ。
以前にも紹介したように、うちの会社では案件ごとの発注・請求の管理を「board」というクラウドサービスで行っている。一方、経費精算にはExcelのテンプレートを使用しているため、月末には紙とハンコを使う必要があるのだが、これなら経理業務を完全にテレワーク化することができそうだ。
その他、会場でいくつか見られたのが、音声認識による自動文字起こしサービス。こちらはテレワークによってオンライン会議が注目されたことで、その議事録を起こすために利用されているという。
中小企業でも利用が広まる電子署名
“紙とハンコを電子化”というテーマでは、最近だと電子署名が使われているという話もよく聞く。GMOグローバルサイン・ホールディングスのブースでは、電子印鑑「Agree」についての展示が行われていた。
ソリューション事業部 電子契約サービス推進室 室長の牛島氏によると、最近では中小企業でも電子署名を利用するケースが増えているそうだ。
【牛島氏】大企業では契約の締結業務における合意申請フロー、文書確認フローがしっかりしているので、それを改変するのに二の足を踏んでいるのかと思われます。中小企業ではIT企業から利用が広まりつつありますが、建築業界、不動産業界での需要も大きいです。
牛島氏によると建築業界では受発注の、不動産業界では契約締結の書類を交わす機会が多いため、早くから電子署名の需要があったようだ。契約書に貼る印紙代を考えれば、同サービスの月額費用(10,000円から)もすぐにペイできるという。中小企業では社長自ら契約書を作成・製本しているところも多く、その手間を減らせるのも大きいらしい。
「Agree」ではワードなどで作った契約書をPDF化してアップロードすると、そこに電子署名とタイムスタンプが押印される。その上で、契約相手に契約書をメールで送り、相手が押印の操作を行うという仕組みだ。この時、契約相手が「Agree」にアカウントを持っている必要はなく、電子認証局が発行した電子証明書がなくても問題はない。
【牛島氏】両者が押印したPDFを、署名の有効性を保ったままダウンロードして保管できるというのは、電子署名の大きな特徴だと思います。実印相当の契約を交わすときには、電子認証局が発行した電子証明書を利用することも可能なので、ガバナンス規定との親和性もありますよ。
他にも、人事の雇用契約、NDAなどを頻繁に交わす業種では、中小企業においても電子署名を利用するメリットは十分にあるという。「Agree」では月10件までの契約であれば、無料でサービスが使える「お試しフリー」プランがあるので、試しに使ってみてもよさそうだ。
近い将来にはオンラインで面接をして、電子署名で雇用契約書を交わす、そんな時代が来るのかもしれない。
ちょっとオシャレな電話ボックス……ではなく
会場を歩いていると、オシャレな電話ボックスのようなものを見かけた。近づいてみると、「HACO OFFICE」とある。これは……。
【権藤氏】これは一人用のオフィス内個室になります。
そう教えてくれたのは、北九州市に拠点を構えるリノベンチャーでデザイナーを務める権藤氏。このボックスは外壁に防音材を使用しており、外部からの音をシャットダウンできるという。最近ではこうしたボックスを、オフィスに設置する企業が増えているようだ。
【権藤氏】携帯電話への着信に対応したり、Webミーティングをするときなど、一人なのに会議室を占拠していることが結構あります。「HACO OFFICE」は接地面が90センチ四方とコンパクトなこともあり、数台まとめて導入を検討される会社さんが多いですね。
このようなボックスは一般に90万円から高いもので120万円程度するため、「もっと安く作れるのでは?」と考えたのが、商品化のきっかけだという。「HACO OFFICE」は上代で58万円。これなら、中小企業でも導入を視野に入れることができそうだ。
ボックス内には電源を完備するほか、天井には照明と排気用のファンを用意。カラーバリエーションは自由に選べるとのことなので、これならわざわざ合成しなくても、自分好みの背景色でオンライン会議に参加できるだろう。
非接触の自動検温装置、果たしておいくら?
最近では図書館などの公共施設でも見かけるようになった、非接触の自動検温装置。ナテックのブースに設置されていたので、一体いくらぐらいで導入できるか聞いてみた。
【園田氏】こちらの「AIZE Research+」(開発元:トリプルアイズ)は、当社が代理店として販売しておりまして、買いきりで約30万円となっております。設置は電源を繋ぐだけなので、工事費などもかかりませんよ。
そう教えてくれたのは、同社東京支店 営業部 主任の園田氏。このシステムの前身となった「AIZE Research」は、AIによる来店者分析を行うためのクラウドサービスだったという。それが今回のコロナ禍に合わせ、新たにサーモグラフィーを搭載したようだ。
測定ログは管理画面で確認することもでき、指定した体温以上が測定された際には、通知メールなどでアラートを出してくれる。従来からある顔認証による来場者数や顧客属性のデータ化についても、オプションで利用が可能。さらに、顔認証機能を勤怠管理システムに紐づけ、体温と合わせて打刻できるクラウドサービスも新たに開発した。こちらはオプションとして月額約3万円で提供しているという。
社員や来客の体温を測りたいだけであれば、検温データをCSVで出力できるので、買い切りのシステムだけで運用できるという。会社に1台設置しておけば、スタッフの感染防止に一役買ってくれそうだ。
こうして見ると、テレワークを快適にするソリューションは、まだまだ世の中に存在しているようだ。「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」を申請する前に、もっと調べておけば……と思わないでもないが、今後導入する可能性を考えると、引き続きアンテナを張っておきたい。
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