急遽テレワーク導入!の顛末記

「無料のRPAツール、Power Automate Desktopで経理作業を自動化したい」――急遽テレワークを導入した中小企業の顛末記(52)

クラウド経理ツールに案件情報をロボット登録させたい!が、そこにはいくつもの難関が……

Windows 10ユーザーなら無料で利用できる「Power Automate Desktop」

「Chrome Remote Desktop」に登録したことで、外出先から会社のパソコンをスマホで操作できるようになった。とはいえ、スマホの小さい画面上では、ファイルを開く操作だけでも一苦労だし、できることにも限界がある。

 ……この記事を書いている時点で、東京3度目の緊急事態宣言が発令されてから19日が過ぎた。

 私が勤めている新宿にある中小企業では現在、各スタッフがリモートによる業務を行っている。その中で、今回は「Power Automate Desktop」を使って、パソコンの遠隔操作をパワーアップさせてみた。

【今回のハイライト】
スプレッドシートのセルを認識しない……
ブラウザ上での操作を記録したアクションでエラーが
プルダウンメニューにテキストが入力できない
【これまでの経緯】

緊急事態宣言が発令された2020年4月、筆者の勤めている会社では何の準備もないまま、在宅勤務を始めることになった。仕事の環境は「デスクトップPC+メール」が普通だったため、データを外付けHDDで持ち運んだり、LINEの個人アカウントを流用したりと大混乱。その後、補助金などでNASやノートPCを導入、徐々にテレワーク環境を整えていく……

【2020年4~8月末までの顛末はこちら】

5月6日(木): スマホからリモートで経理操作……は少しキツい

 今日も自宅でテレワーク。資料を探して書店に出かけたら、会社の経理担当から急ぎのLINEが届いた。どうやら、クラウド経理ソフトの「board」で、ゴールデンウィーク前に登録し忘れていた案件があったらしい。

 「Chrome Remote Desktop」でPCを遠隔操作できるとはいえ、こういう細かい操作には限界がある。結局、自宅に戻って作業をしたが、バックオフィスはもう少し操作の手間を減らしておいた方が、今後のテレワークを考えると便利かもしれない。

テレワークでは会社のPCの遠隔操作に「Chrome Remote Desktop」を利用している

5月10日(月): 「Power Automate Desktop」を軽く触ってみた

 ゴールデンウィーク進行のドタバタに一区切りがついたので、今日はboardに今月分の案件を登録することに。レギュラー案件の登録はもはや手慣れたものだが、「こういう定例作業こそ自動化できるのではないか」と、ふと思いつく。

 そういえば最近、マイクロソフトがWindows 10ユーザー向けに、「Power Automate Desktop」というRPA(ロボティック・オートメーション)ツールを無償で提供していたっけ。さっそく公式サイトにアクセスして、ソフトを無料ダウンロード。インストール作業を行うことにした。

 ちなみに、インストールの最後に「Google Chrome」などの各ブラウザで拡張機能のインストールを求められるのだが、その画面に書かれているように作業後は“コンピューター”を再起動することをお忘れなきよう。“ブラウザ”を再起動と勘違いしていた筆者は、その後に「Power Automate Desktop」がきちんと動かない様子を見て、何度か首をかしげることになった。

「インストール成功」画面で各ブラウザのリンクをクリックすると、拡張機能がインストールできる
拡張機能をインストールした後は、必ずPCを再起動させること
新たなフローを作成すると、次の画面でアクションの配置などが行える

 さて、拡張機能も含めたインストールとPCの再起動を行った上で、「Power Automate Desktop」を起動。マイクロソフトアカウントでサインインを行うと、メイン画面が表示された。ここで新しい「フロー」を作成すると、画面左に表示されたさまざまな「アクション」を順に並べて、それらを自動で実行できるようになるようだ。ちなみに、デスクトップ上、もしくはブラウザ上での操作を記録させることで、その操作の一つ一つをアクションとして登録することもできる。

 ちょうど、「Google スプレッドシート」で記事本数やギャランティを管理している案件があるので、今回はその情報を取得してboardに自動で登録させてみよう。まずは、「Webレコーダー」を立ち上げて、セルの値を読み取らせ……ようとしたのだが。この「Webレコーダー」が、どうにもスプレッドシートのセルを認識してくれない。

1日2本の記事を作成しているレギュラー案件では、各記者の担当本数などをスプレッドシートで管理している
あらかじめブラウザ上で操作するタブを開いた状態で、アクション登録画面の上にある「Webレコーダー」アイコンをクリック。表示された画面でブラウザとタブを指定する
「Webレコーダー」ではマウスオーバーしたサイト上のボタンなどが赤く囲まれるのだが、スプレッドシートのシート全体が赤く囲まれるだけで、各セルは認識されなかった

 あらかじめ用意されたアクションに「Excelワークシートから読み取り」があるので、ファイルとして保存すれば問題はなさそうだ。ただ、この案件はクラウドで管理しているので、できればファイル化するのは避けたいところ。さて、どうしたものか。

5月11日(火): 第一の関門「スプレッドシートを認識しない」をクリア

 あれから一晩考えているうちに、「Google スプレッドシート」が駄目でも、「Microsoft Office オンライン」ならいけるのではと思いつく。

 というか、ExcelならOneDrive上のファイルを直接開けるので、普段は「Microsoft Office オンライン」でデータをクラウド管理。その情報をboardに登録する時はExcelで開けば、「Power Automate Desktop」でセルの情報を読み取れそうだ。

 さっそく、新たなフローを作成し、「Excelの起動」アクションでOneDriveフォルダにあるファイルを指定。その後に、「Excelワークシートから読み取り」アクションを登録したところ、boardの登録に必要な3つの情報を「ExcelData」という変数として取り出せた。

画面左のアクション一覧から「Excel」にある「Excelの起動」を画面中央にドラッグ&ドロップ。表示された画面の「ドキュメント パス」からExcelファイルを指定
先ほどのアクションの下に「Excelワークシートから読み取り」を配置。「先頭列」「先頭行」でセル番号を指定すると、下に表示された「生成された変数」としてセルの値が取り出される

 ここまで来れば、後は「Webレコーダー」を起動。boardに各変数を入力する操作を記録すればいい……はずだったのだが。記録したアクションを実行したところ、最初のボックスを選択するアクションで、さっそくエラーが発生してしまう。何故だ。

ポップアップウィンドウの「レコード」をクリックすると、ブラウザ上での操作がアクションとして記録される

5月12日(水): 第二の関門「Webレコーダーで記録したアクションのエラー」をクリア

 あの後、何度かフローを実行してみたのだが、結局同じアクションでエラーが起きてしまう。そこで、エラーが起きたアクションをクリックして、「UI要素」を選択。表示された一覧から同アクションに割り当てられていた「div 2」というUI要素を選択したところ、サイト上の意図していない箇所が割り当てられていることが、プレビュー画像で確認できた。

アクションの編集画面で「UI要素」をクリックすると、このフローで登録されたUI要素が一覧で表示され、各要素名をクリックすると要素の割り当て箇所が画像で確認できる

 不安になってほかのアクションも確認したところ、想定とは違うボタンやボックスを「UI要素」で指定しているものが次々と見つかる。どうやら、「Webレコーダー」で記録している時に見た目上は問題なく操作できていたとしても、それが正しく「Power Automate Desktop」に登録されるとは限らないらしい。

 このようなアクションは先ほどの「UI要素」画面で「新しいUI要素の追加」をクリックすると、操作する箇所を登録し直すことができる。「これで、ようやくすべてのアクションが実行できる」。この時はそう思っていたのだが、すべてのUI要素を見直しても、1つだけエラーが出てしまうアクションがあった。

boardでは「発注先」のボックスをクリックすると、テキストフィールド付きのプルダウンメニューが表示される

 boardでは発注情報を登録する際、「発注先」のボックスをクリック。表示されるプルダウンメニューのテキストフィールドに名前を入力し、絞り込まれたリストから発注先を指定するのだが……。この「プルダウンメニュー上のテキストフィールドに名前を入力する」という操作が、どうしても「Webレコーダー」で記録できない。

 これは、もしかすると致命的ではないだろうか?

5月14日(金): 第三の関門「プルダウンメニューへのテキスト入力」をクリア

 あれから時間を見ては例のアクションをいじっていたが、ようやく突破口が見つかった。これまでのフローでは

  • 「発注先」のボックスをクリック
  • プルダウンメニューのテキストフィールドに「ExcelData2」(Excelから読み取った発注者名)を入力

 という並びでアクションを配置していたのだが、この2つの間に「テキストフィールドをフォーカス」というアクションを入れたところ、ようやく変数が入力されたのだ!

 あとは、「Webレコーダー」での記録時にダミーを入力していたアクションで、入力内容をExcelから取得した変数に入れ替え。フローを再生したところ、最後までアクションが実行された。ここまでかかった時間は半日近く、何度も崩れたドミノがようやく完成したような達成感だ。

「Webレコーダー」での操作中、ブラウザ上でテキストフィールドを右クリックすると「Webページ上のテキストフィールドをフォーカス」というアクションが追加できた
「Webレコーダー」での操作中、ボックスにダミーの文字列を入力していたアクションで、「テキスト」をExcelから抽出した変数に変更

 その後、「Chrome Remote Desktop」で会社のPCを遠隔操作し、ショートカットから「Power Automate Desktop」を起動。フローの「実行」ボタンをクリックすると、スマホからでもクラウド上のExcelを元に、boardに発注情報を登録できた。

 今後もテレワークが続けば、会社のPCを遠隔操作する機会が増えるだろう。その操作を簡略化するフローを「Power Automate Desktop」で組んでおけば、テレワーク下での不便さも少しは和らぐかもしれない。

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※編集部より
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飛田九十九