期待のネット新技術
IEEE 802.3bsで定義された「200GBASE-FR4」をベースに、到達距離を3kmへ引き上げた「200G-FR4-OCP」
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年12月28日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
到達距離を3kmまで引き上げる一方、波長の分散範囲を±6.5nmから±5.75nmに縮小
前回からのOCPの規格の話を続けよう。次の「200G-FR4-OCP」の最新版は、2020年1月にRev 0.3が公開されている。
そのベースとなるのは、『レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格』でも触れているが、「IEEE 802.3bs」で定義された「200GBASE-FR4」である。「ベースとして」というのは、当然違いというかカスタマイズがなされていて、その相違点が以下となる。
- 到達距離を3kmまで引き上げ
- 温度範囲を0~70℃から15~65℃に変更
- 波長の分散範囲を±6.5nmから±5.75nmに縮小
- 「CWDM4-100G」との互換性を持たせる
前回も触れたように、例えばFacebookのデータセンターにおける配線のうち、79%は500m未満である。ただし、残りの21%のうち、2km以下なのが16%、3km以下なら20%をカバーできることになる。
逆に言えば、到達距離2kmの200GBASE-FR4をそのまま使うと、5%ほど対応できない部分が残ってしまうことになる。ところが、これを3kmまで拡張できれば、対応できないのは1%まで減る。そんなわけで、3kmまで拡張することで対応しよう、という話だ。
2つ目の温度範囲も前回と同じ話で、これにより利用する送受光素子や内部のチップの動作条件が緩められ、結果としてコストダウンが可能となる。これに関係するのが3番目の項目だ。温度範囲を狭めたことで、波長の分散も減ることになったとしており、その結果、波長の分散範囲がやや縮まった格好だ。
最後の話も面白い。おそらくだが、前回紹介した「CWDM4-OCP-100G」の到達距離はあくまで500mしかないが、これを超えるケースが全体の2割ほどある。3kmには目をつぶるとしても、2kmの範囲はこちらの記事で紹介したCWDM4-100Gを利用して接続を行っていたようだ。
これが、こちらで紹介した到達距離10kmの「100G 4WDM-10」はないあたり、さすがにFacebookのデータセンター用としても仕様として過剰だったということだろうか。
そしておそらく、このCWDM4-100Gのモジュールを200G-FR4-OCPへ入れ替えるかたちで、アップグレードが順次行われていった結果、その移行期間にも100Gbpsでの通信が可能なように、CWDM4-100Gとの互換性が求められたのだろう。
送信側では受信感度の引き上げで到達距離延長に対応
到達距離を延ばすとなると、発光出力や受光感度は当然上げる方向へ行くし、一方で温度範囲の変更は、いくつかのパラメーターの条件を緩めることになる。その結果として、パラメーターは細かく変わることになった。
左上が200G-FR4-OCP、右上が200GBASE-FR4のTransmit Parameterだ。前者は右にA~DのDeviation(注釈)が付いており、その内容が以下となる。
- A 波長幅の縮小(±6.5nm→±5.75nm)に伴う変更
- B minimum Tx output AOP/OMA(最小送信電力)が1dB減ったことに起因する変更
- C 200GBASE-FR4にはない、追加された要件。
- D オーバーシュート/アンダーシュートに関する追加要件
この脚注が付いていない項目は、200GBASE-FR4から変更がない。最大発光電力は、全体で10.7dBm(≒3mW)、レーンごとでは4.7dBm(≒11.7mW)のまま据え置かれており、到達距離の延長は主に受信感度の引き上げで対応する格好だ。
受信側でも波長幅を縮小し、最小受信電力を1dB減、BERに関する規定も追加
受信側については、以下左が200G-FR4-OCP、以下右が200GBASE-FR4のReceive Parameterとなる。
200G-FR4-OCP(左)のDeviation(注釈)の意味が以下となる。
- A 波長幅の縮小(±6.5nm→±5.75nm)に伴う変更
- B minimum Rx output AOP/OMA(最小受信電力)が1dB減ったことに起因する変更
- C BERに関する規定を追加
実際、Average receive powerを比較すると、Each Laneの数値は-8.2~4.7dBm(≒0.15~2.95mW)から-9.2~4.7dBm(≒0.12~2.95mW)となっており、信号が相応に減衰することが想定されている。
これをこのまま通すと、おそらくBERがかなり悪化してしまう。これを防ぐため、BER floorとして3.4E-6が追加されたかたちかと思われる。FECを追加し、より低いBERに対応できるようにすると、既存の200GBASE-FR4のPCSが流用できなくなる。
純粋に技術面だけで言えば、PCSそのものは流用できるはずだが、PCSとPMAの間にFECを挟む格好になると思われる。実際にはPCS~PMAあたりまでは完全にワンチップ化されているので、ここに今さらFECを挟むとなると、チップそのものの変更が必要になってしまうため、あくまでもPMD層でこのBERを確保する、という方向にしたようだ。
ちなみに、もう1つ200G-FR4-OCPで追加された点に消費電力がある。こちらは100G、つまりCWDM4-100Gとして動作する場合には6W、200G(つまり200G-FR4-OCP)で動作する場合には6.5Wに抑えることが求められている。
また、モジュール形状はQSFP28ないしQSFP56を利用することになっている。もっとも、この2つは、モジュール形状が同じで単に信号が28G NRZか56G PAM4かの違い(つまり電気的な信号速度は異なる)だけである。
さてこの200G-FR4-OCPも、ぱっと探しただけでも対応するトランシーバーモジュールが既にColorChipやInnoLightなどから提供されている。
到達距離3kmというあたりからして、CWDM4-OCP-100Gよりも利用したいユーザーの数は少なくなりそうだが、それでもFacebookクラスの大規模データセンターで需要が見込めるなら、製品を用意するだけの市場があるということだろう。
さて、これに続く「400G-FR4-OCP」であるが、2021年5月の時点で『400GbEはFacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張』でも掲載した以下のスライドが出てきていにも関わらず、現時点ではまだSpecificationが公開されておらず、その中身は不明なままである。
ただ200G-FR4-OCP同様に、ベースは『最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」』で紹介した「400GBASE-FR4」とし、この到達距離は3kmに伸ばした上で動作温度範囲を15~65℃に狭め、200G-FR4-OCPとの互換性を持たせたものになるかと思われる。
気になるのはモジュールの方で、QSFP56のままでは400Gには対応できない。1つのアイディアは「QSFP56-DD」で、QSFP28/QSFP56への後方互換性を持つため、これを採用している可能性がある。ただ、このあたりはSpecificationが出てこないと何とも言えない。
今の調子だと2022年以降に公開だろうか? その先の800Gに至っては、まだ仕様に向けての話し合いにどこまで入っているか、というレベルである。何しろ800G Ethernetそのものがまだ仕様策定の真っ最中なわけで、2024年あたりになるまでは、何も出てこないかもしれない。
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