自宅Wi-Fiの“わからない”をスッキリ!

【使いこなし編】第160回

「チューナーレステレビ」を導入、NHK受信料の支払い義務が発生しないテレビは何が違う?

今回から、チューナーレステレビを使ってみる

 今回から「チューナーレステレビ」を紹介しよう。「NHK受信料を払わなくて済むテレビ」として最近注目を集めている製品カテゴリーだ。

 最初にトンチ問答のような話をするが、「テレビとは『テレビジョン放送の受信機』である」と定義すると、チューナーレステレビは「テレビ」の定義から外れる。実態は、スマートテレビ用OSを搭載したディスプレイであって、テレビジョン放送を受信する機能は持たないのだ。

 自動車が登場したばかりの頃は「馬なし馬車」――馬はいないが、用途は馬車と同じものだと説明された、という話があるが、チューナーレステレビも、それに似た言葉だと言えるかもしれない。テレビジョン放送を受信する機能はないが、用途はテレビと同じで、映像を楽しむために使われる(各種動画配信サービスや、外部入力を利用して)。映像のデジタルデータ伝送に電波を使う放送か、インターネットを使う通信かの違いでしかない。

チューナーレステレビと受信料、およびNHKの動画配信サービスの関係

 チューナーレステレビを選ぶ最大の理由となる、NHKの受信料について確認しておこう。

 NHKとの放送受信契約について定めた放送法第64条第1項では、「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会と受信契約を締結しなければならない」という趣旨の記述がされている。しかし、チューナーレステレビは前述の通り「放送を受信」できないため、NHKとの受信契約を結ぶ必要はない、と解釈できる[*1]

 ただし、世帯内にほかのNHKの放送を受信できる機器(設備)、例えばテレビや、テレビチューナーが入ったBDレコーダーやnasneなどがある場合は、やはり受信契約が必要なので注意したい。ワンセグ受信機能を持つ携帯電話やスマホ、自動車に搭載したテレビ受信機能つきカーナビも対象となる。

[*1]……これまでに説明したように、チューナーレステレビは「テレビ」という名前こそ付いているが、テレビジョン放送の受信機能を持たず、「テレビ」ではないとも言える。

2020年、201回国会内で衆議院議員中谷一馬氏が提出した、通信と放送が融合する新時代におけるNHKの受信料のあり方に関する質問に対する答弁書の中で、安倍総理大臣が政府の見解として「チューナーレス液晶テレビについては、日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備ではないため、これを設置した者は、放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第六十四条第一項の規定に基づく受信契約を締結する義務の対象とはならない」と答弁している(質問答弁)。

以下の記事など、専門家による解説も参考にしてほしい。
ドンキ新型テレビ「地上波映らない」NHK受信料支払い義務はある?(弁護士JPニュース)

 自宅にテレビジョン放送を受信できる機器が1台もなくなれば、NHKを解約できる。解約には手続きが必要になるが、詳細はNHKの「放送受信契約の解約」のページを参照してほしい。

 NHKの受信料は、口座振替またはクレジットカード等継続払い・12カ月前払いの場合で、衛星契約2万4815円、地上契約が1万3650円(2023年10月1日からは値下げされ、支払い方法に関わらず12カ月前払いで、衛星契約2万1765円、地上契約1万2276円となる)。NHKを全く見ない人ならばただ支払うだけになってしまうこの金額を、浮かせることができるのは魅力だ。

 ここで、テレビ放送でなく配信でNHKの番組を見ればいい、と考えた人は、少し注意してほしい点がある。NHKの地デジ放送の同時配信と過去1週間の番組を配信をする「NHKプラス」は、受信料支払い契約した人(世帯)しか使えない。そのため、解約した上で、チューナーレステレビのアプリで「NHKプラス」の配信を見るという方法はとれない。

 ちょっとややこしいが、オンデマンドで見る有料の「NHKオンデマンド」は、受信料とは別枠で放送を補完するというかたちでサービスされていて、月額990円で契約すれば、過去の番組を見ることができる。

 NHK受信料契約がなくても視聴可能なチューナーレステレビ向けのNHKオンデマンドアプリは、現状提供がないようだ(スマホ用にはある)が、Amazon Primeアプリから別に有料登録したり、U-NEXTで「NHKまるごと見放題パック」を契約するなどすれば利用できる。即時性のあるニュースなどは見られないが、ドラマやドキュメンタリーなどだけ見たい場合には、NHKオンデマンドだけ契約するのもいいだろう。

今回、実践用に選んだ50インチのチューナーレステレビ。TCL「50P63J」(5万9800円)

テレビ番組のリアルタイム視聴にこだわりがなければ、アリな選択肢

 チューナーレステレビでできること、できないことを見ていこう。チューナーレステレビの機能は、Amazonの「Fire TV」シリーズのようなストリーミングデバイスと基本的に同じで、Amazon Prime VideoやNetflixなどのアプリから配信サービスを利用できる。別途ディスプレイやテレビを用意する必要がなく、自身1台で完結できるのが魅力だと言える。

 配信にはインターネット回線を使うので、自宅に(データ通信量に上限があるスマホのテザリングなどではない)容量無制限の回線が必要になる。最近のテレビでは、ストリーミングデバイスとしての機能を持つスマートテレビがほとんどなので、違いは内部にテレビジョン放送受信用のチューナーがあるかないかということになる。現状、チューナーレステレビは主流ではないので、既存のテレビからチューナー部品を外して、チューナーレステレビとして売られているケースが多い。

 なお、チューナーがないことで製品が安くなるかというと、多少安くなっているかなあ……というレベルで、大きな差はない。

 日本向けのチューナーには、BCASカード(4KではACASチップ)の認証という、ほかの国にはない特殊機能も付いているため、だいぶ割高になっていると思うのだが、チューナーをカットしても劇的に安くなるわけではないようだ。そもそも普及価格帯モデルをもとにしたチューナーレステレビが多いので十分に安く、値段が下がりにくいことや、まだ売れ筋ではないといった理由もあるかもしれない。今後人気になり、多くのメーカーが参入したりすると、より安くなり、コスパも向上する可能性がある。

チューナーレステレビでは、スマホのようにさまざまなアプリをインストールして配信サービスを楽しむスタイルになる
Amazon Primeアプリ内で「NHKオンデマンド」を契約して、NHKの過去番組を視聴することができる

 テレビ番組のリアルタイム視聴にあまりこだわりがなく、動画配信サービスをすでに満喫している人は、いっそのことチューナーレステレビを導入して、固定費になるNHK受信料をカットすることを考えてもいいだろう。

 民放の番組であれば無料のTVer、有料になるがU-NEXTやTELASA、Huluあたりの配信でほぼ網羅できる。無料でダラダラとナガラ見するなら、ABEMAやYouTubeがあり、TVerでゴールデンタイムのリアルタイム配信も行われている。

 スポーツ系も最近では、DAZNやJ SPORTSオンデマンドなど、ネットの方が充実している。有料サービスを契約すれば、その分の料金はかかってしまうが、視聴時間を確保しやすい夏や冬の休暇中のみに契約期間を絞るなど、見たいときだけの契約も可能だ。NHK受信料契約より柔軟に対応できるので、うまくやり繰りしたい。

 画質面では、フルHD対応の製品なら、地上デジタル放送と同等の画質で楽しめる[*2]。各動画配信サービスでは4Kコンテンツも増えてきているので、4K対応モデルを選べば気軽に高画質で楽しめる。

[*2]……地上デジタル放送はフルHDの1920×1080ピクセルではなく、1440×1080ピクセルと少し変則的で画質が低く圧縮されている。衛星放送もフルHDの1920×1080ピクセルと1440×1080ピクセルが混在している

 ちなみに、テレビジョン放送で4Kの映像を視聴しようとすると、4Kに対応しているのは衛星放送のみで、4Kテレビとチューナーに加え、4K用アンテナも必要になる。もし、新築や一人暮らしに切り替えるタイミングなら、アンテナ敷設と受信料へ使う予算を、チューナーレステレビによってWi-Fiも含めて自宅ネット環境のみに全振りすることができる。

 ネットをしっかり利用できるようにしておけば、チューナーレステレビの設置場所は電源さえ確保できればどこでもOKだ。壁掛け設置も含め、アンテナケーブルの配線が不要になるので圧倒的に自由度が高い。

50P63Jのセットアップを完了し電源を入れたところ。ストリーミングデバイスではおなじみの、このようなホーム画面が表示される。すぐに番組再生は始まらないので、このあたりは通常のテレビと大きく異なる
50P63Jのリモコン。チャンネル選択や番組表、録画など放送波関連のボタンはなく、ここも通常のテレビとは異なるところ。右はFire TV Cube付属のリモコン
リモコンのアプリ起動専用ボタン。中央がTCL、左がFire TV Cube、右はChromecast with Google TV

 チューナーレステレビが向かないのは、自前での録画のストックにこだわる人と、NHKでリアルタイム番組を見たい人だ。この2つにはどうしても対応できない。

 録画に関しては、いつでも視聴できるオンデマンド配信を頼ることになるのだが、今日現在配信中のタイトルが未来永劫配信され続けるワケでなく、予告なく終了することも多い。いつでも見られるように手元に残しておきたいという考えがあるなら、チューナーレステレビは選択しない方がいい。

 また、ネット配信では、自宅回線のパフォーマンスや配信サービス側に問題が発生すると、快適に視聴できないおそれがあることも留意しておきたい。特に、世界的なスポーツの大会など、大量の同時視聴数が想定されるものは、配信の場合、同時視聴が増えるほど回線やサーバーが対応できるのかが不安要素となる、対して、放送は同時視聴が増えても問題なく視聴できるので、不安要素はない。

 とはいえ、最近ではオリンピックやワールドカップ、WBCなどの試合もネットで見ることが増えており、配信サービス側でも十分な対応が行われて信頼性はかなり高まっていると思う。それでも、最悪のケースを想定するなら、テレビジョン放送も見られる環境を残しておいた方が安心できる。

50P63Jの背面。HDMIなどの外部入力などがあり、ディスプレイとして利用できる。1つはHDMI 2.1(eARC)対応。有線LAN端子も備える
50P63Jの側面。厚みはそれなりにある。一番厚みのある部分で実測約7.7cm
50P63Jの画面。ベゼルは狭いが。この程度は黒枠が付く
中央下部にインジケーターがあり、電源オフ時には点灯している。電源オンで消えるので気になることはない

チューナーレステレビ選びのポイントは「4Kか、フルHDか」

 チューナーレステレビを選ぶときには、解像度を4Kにするか、フルHDに収めておくかで決めるといい。コスト重視なら、フルHDの40Vや32V型を選ぶといいだろう。12畳以上の部屋で離れて見るなら、4Kで43V型以上がおすすめだ。それでも実売価格は3万円台に収まってしまうこともあるので、コスパは十分にいいと言える。セール時期を狙えばさらに安く買えるハズだ。

 OSは、基本的にGoogleの提供するGoogle TVかAndroid TVが搭載されていて、Fire TVモデルは今のところ見あたらない。Google TVは、ストリーミングデバイスのChromecast with Google TVとほぼ同じ使い勝手になり、Google検索とリンクして、好みのコンテンツをホーム画面に表示してくれる。

 Android TVと動画配信サービス(アプリ)を利用する分には同じなのだが、リコメンド機能が強力なので、Google TV搭載モデルの方がオススメだ。この連載ではGoogle TVにて実践する。

 筆者が選んだのは、先述のとおり4Kで50V型のTCL「50P63J」だ。液晶パネルは一般的なVAだが、斜めから見てもIPSとさほど変わらず違和感なく鑑賞できる。初期状態ではパキっと派手目だが、画質調整がかなり細かく設定できるので、映画向けなど好みの状態に持っていくことができる。また、ゲームやPC向けの設定などもあらかじめ用意されている。

 サウンドはごく普通だが、Dollby ATMOS対応なのでサラウンド効果は感じることができる。低音は期待できないので、迫力を増したければサウンドバーなどを追加するといいだろう。光デジタル音声出力も用意されている。

 操作では、ちょっとモタつく場面が感じられたので、FireTV Cubeのような高速なストリーミングデバイスを持っているなら、接続して使うのもいい。特にAmazonデバイス派なら、この方法がいいだろう。利用していた外部入力を次回電源オン時のために記憶する機能があるので、電源オン時に外部Amazonデバイスを即表示させることができる。

 メーカーであるTCL Corporationは、中国広東省恵州市に本社がある、世界のテレビシェアで韓国メーカーと上位を争う大手家電メーカーだ。日本ではTCL JAPAN ELECTRONICSが販売やサポートを行っている。

 現状、チューナーレステレビのほとんどは中国製で、国内家電大手メーカーからはまだ発売されておらず、有機ELパネルのモデルなど高級モデルの選択肢は少ない。ラインアップの充実は、今後の人気次第ということになるだろう。全てではないが、モデル選択の参考に、代表的なチューナーレステレビをあげておこう。

主なチューナーレステレビ(メーカー別)

 解像度とサイズ、型番を紹介する。カッコ内の価格は、Amazon.co.jpなどでの販売価格または筆者調べによる実勢価格で、いずれも記事執筆時点のデータ。

TCL

 大型モデルでは4K 75V型「75C745J」(20万5000円)や65V型「65C745」(14万2000円)、10万円を切るモデルでは4K 50V型「50P63J」(5万9800円)/や43V型「43P63J」(4万9800円)、低価格帯ではAmazon専売モデル(ほぼ同一で型番違いのオリジナルモデルが家電量販店エディオンでも販売されている)のフルHD 40V型「40S54J」(3万5800円)や32V型「32S54J」(2万6800円)など、ラインアップが豊富。

▼メーカーサイト
TCL Google TV
TCL Android TV

ドン・キホーテ

 4Kでは50V型(4万3780円)と43V型 (3万8280円)、フルHDでは32V型(2万7280円)、 24V型(2万1780円)の4モデルをラインアップしている。

▼メーカーサイト
ドン・キホーテ チューナーレススマートTV

オリオン

 4K 75型からHD 24型までのラインアップがある。主力級といえるのが4K 75V型「SAUD751A」(16万1254円)、65V型「SAUD651A」(10万2248円)、4K 50V型「SAUD501A」(4万9800円)、フルHD 40V型「40S54J」(2万9800円)。

▼メーカーサイト
ORION(オリオン) チューナーレススマートテレビ

RCA

 4K 50V型「RCA-50N1」(4万7800円)、4K 43V型「RCA-43N1」(3万9366円)など5モデルをラインアップしている。

RCA チューナーレス AndroidTV

ニトリ

 4K 43V型の「MST-43-4K」(3万9900円)の1台のみ販売中。

ニトリ 43v型 4KチューナーレススマートTV(MST-43-4K)

SmaTY

 4K 43V型「SMT-43-4K」(3万6900円)の1台のみ販売中。スペック的にはニトリの製品とほぼ同じ。

Smaty - チューナーレス スマートTV

 次回からは、TCL「50P63J」を実際に使ってみよう。

今回の教訓(ポイント)

動画配信サービスのみを楽しむならチューナーレステレビはオススメ。
NHK受信料の支払いが不要なのでランニングコストを抑えることができる。


記事訂正:8月3日 18:40
記事内容(コラム[*2])に以下の誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

誤:衛星放送は完全なフルHDだ
正:衛星放送もフルHDの1920×1080ピクセルと1440×1080ピクセルが混在している


「自宅Wi-Fiの“わからない”をスッキリ! 使いこなし編」連載記事一覧

「自宅Wi-Fiの“わからない”をスッキリ! 使いこなし編」連載記事一覧

「自宅Wi-Fiの“わからない”をスッキリ!」連載記事一覧

村上 俊一

1965年生まれ。明治大学文学部卒。カメラマン、アメリカ放浪生活、コンピューター雑誌編集者を経て、1995年からIT系フリーライターとして活動。写真編集、音楽制作、DTP、インターネット&ネットワーク活用、無線LAN、スマホ、デジタルガジェット系など、デジタル関連の書籍や雑誌、ウェブ媒体などに多数執筆。楽曲制作、旅行、建築鑑賞、無線、バイク、オープンカー好き。